2018年3月10日から開催されている「1 minute projection mapping in ハウステンボス」
世界でも歴史あるプロジェクションマッピングの国際祭典で、わずか60~119秒という短いプロジェクションマッピング作品で世界一を競う国際コンペティション。
2012年に神奈川県逗子市で始まり、今回で第6回目。
世界39の国と地域から123ものエントリーが寄せられ、世界中のバラエティーに富んだプロジェクションマッピング作品を一度に見られる希少なイベントです。
この国際的な祭典を企画している、一般財団法人プロジェクションマッピング協会。その代表を務める、クリエイティブディレクター/空間演出家の石多未知行(いした みちゆき)さんに佐賀との縁やプロジェクションマッピングについて聞いてきました。
佐賀との縁
ご出身は波佐見ですが、有田工業高校で青春時代を過ごされた石多さん。デザイン科に進まれた理由や映像に興味を持ち始めたきっかけって何だったんでしょう?
僕の両親はふたりとも声楽家なんです。男ばっかり5人兄弟の一番上で。小学校まで埼玉の所沢にいて......
え!声楽家!
そうそう。母が波佐見焼きの窯元のひとり娘で、父と東京で音楽活動していたけど、母の代わりに窯を継いでいた叔父さんが亡くなって、親族会議で父を除く家族全員が戻されることになったんです。
当時、街には信号が街に4つしかなくて本当に何もない田舎。入学式から何日か遅れて中学へ入ったんだけど、みんな坊主頭で、僕が登校した日「なんか髪が長かとのきたね」みたいな雰囲気でね。(笑)
冗談抜きで「やきもの」と「山」しかない。とんでもないところに来ちゃったなという感じだったんです。
同級生では九州から出たことない子も多く、京都とか長野へ修学旅行に行ったときにみんなが方言でベラベラしゃべるもんだから、バスガイドさんが分からなくて僕が標準語で通訳したりとかしていました。
凄いなー。通訳って......そこからディレクション能力が芽生えていたのかもしれないですね。
もしかしたらそうかもね(笑)
で、なんで有工に行ったかというと、もともと絵を描くのは好きだったんです。
やっときましたね!
それで、美術系にいくか、医者になるかでどっちかで迷ってて。
え!医者という選択もあったんですね!
そうそう、当時ブラックジャックとか読んでいて、お医者さんすげーな!みたいな。人のためになることしたいなと思ったこともあって。
わかりやすい!
すごい影響されやすよね?(笑)
一方で絵を描いたりものをつくったりするのは好きだったから。
元々、両親とも音楽をやってたのもあって、会社に行って働くというのはあんまり想像できなかったんです。自分の考えることをやりたいと思っていて、それで有工デザイン科に行くということを決め、中2くらいからデッサンの勉強を始めました。
じいちゃんとかは、有田工業高校は窯業科もあるから「おお!やっと後継ぎがその気になってくれた!(デザインだし)未来が見えてきたばい!」って喜んでたんだけど、僕的にはすごいところ(田舎)にきちゃったから「早く出ていかないと!」という想いでした。
今でこそ、やきものって新しさもあったり、色々な表現があって面白いなと思うんですけど、当時は産業としてこのまま衰退していく雰囲気しか感じなかったんです。自分はやきものや絵付けとかにはあまり興味が向かなくて。でも、美術は好きで広くデザインを勉強したいという気持ちはありました。
その後の進路は、一応クラスで成績はトップだったから学校の先生に「中途半端なところには行くな!」と言っていただいて。影響受けやすいからやる気になっちゃって「じゃあ芸大いく!」ってなったんだよね。(笑)
一度失敗して、浪人のために東京で勉強して、最終的には武蔵野美術大学に入り、空間演出デザインを専攻しました。
先生の影響ってすごいですね!
そうですね。
高校の時、当時実習生だった吉永先生という方がいらっしゃるんですが、後に有工デザイン科の主任の先生になられて、その縁もあって2015年のメディアバタフライという事業で有田で一緒に関わらせていただきました。現在、佐賀大学教授の中村先生も当時窯業科だったんですけど、時を経てまたお世話になりました。
メディアバタフライ!って2015年に開催されたイベントですよね?
有田で子供たちが描いた絵を泉山に投影するという地域密着型の夢のあるプロジェクトだったと伺っていますが、国内外で活躍されている石多さんが佐賀と関わられたきっかけはやっぱり古巣とか地元だからという想い入れのような感覚があったのでしょうか?
僕は、波佐見と有田の出身だけど、東京をベースに国内外で活動を行っていながら、自分の出身地のことに対しては、なにもできていないという気持ちがありました。いつか何か恩返しができないか?と思っていた時でちょうどいいタイミングでした。
呼んでいただいたときに、県と町の関係性がいまいちスムーズじゃないというか、有田からすると自分事としてやっていないなという課題がり、僕が間に入ることで町とフェスティバルを繋ぐということができたらいいのではないか?という考えがありました。
その為にまずは子供を巻き込もう!ということで、有田の子供たちに泉山の塗り絵に絵を描いてもらって、それを映像化するということをやったんです。子供達がたくさん来ると親も来るし、子供が参加してると行政の方もおのずと無視できないというのもあるんじゃないか?そんな期待もありました。後から聞くと議員さんとかがこっそり見にきていたなんて話も聞いて、町の人たちも子供たちも楽しんでくれてよかったと思ってます。
映像と何か
有田の泉山もそうですが、映像と何かというコラボレーションが印象的なのですが、映像を巧みに操る石多さんにとって、"コラボレーション"って特別なものだったりするのでしょうか?
元々アーティスト気質で、自分でものを作って自分で表に出していきたいという意思が強かったんです。会社で仕事していたこともあるけれど、自分独自の表現フィールドを持っておかないといけないなということを常々考えていました。
クラブイベントも当時元気で、そこにもうちょっとアートを交えたようなイベントができないか?と。今aircordというメディア系に強い会社があるんですけど、そこの橋本君と2001年に二人でイベントを始めたんです。
当時からDJ×演奏家とか彫刻家×デジタルアーティストみたいな色々なアーティストを組み合わせるというディレクションをしてアートイベントをやってたんです。コラボレーションをメインにしていて、結構それが面白いと実感していました。
当時僕もVJをやってたんだけど、DJはメインでやってVJは誰も見てない壁側でなんか映像やってるねみたいな......
スクリーンで写すだけであんまり空間として面白くない。どうせそういうのをやるんだったら嫌でもみんなが見える形でやりたいと考えて、部屋の壁中に映像を投射したり、真っ暗な場所でも布を持ってきて空間にデコレーションして、そこにプロジェクションを入れていくというようなことをやっていたのがはじまりでした。
足し算ではなく掛け算にすることで違うものが生み出せるという感覚。映像って、テレビとかスクリーンで見るものだけど、見るものに体験する感覚とか、もうちょっと人を動かせる表現をしたいなと考えていました。見た時に違和感を覚えたり、なんかよくわからないけどすごくいいな、綺麗だなみたいな"感覚に訴えかける"ような表現がしたかったんです。
映像でもすごくアブストラクトな表現を使いながら、空間としては意味を感じたり、心地よかったりとかそういうのを目指して表現を続けていました。
一時期、イギリスに1年ほど行くことがあって、映像や空間演出のアーティストとして活動し、国外で自分の表現をぶつけたり、外から日本を見てみようとしました。
それまで色々な空間にプロジェクションしたり建物を映像演出したりとかしていたんだけど、シミラー(類似した)な表現があるよとイギリスの友達から紹介されて、それがプロジェクションマッピングだったんです。
なるほどー!出会いは必然だったんですね。
建物に色々な映像を映してるんだけど、僕は光として大きく単純なプロジェクションをやってただけで。紹介された物は、対象に対してすごくシビアに映像を作りこんでて、確かに似てるけれど全然違うなと感じました。と、同時に「これは自分もやんなきゃいけない!」と思って、それが2006年~2007年頃。
その後、日本で早くやろう!と色々動き始めました。今みたいに便利なソフトとかはなくて色々大変なこともあったけど、特に技術を学ぶというよりもプロジェクションマッピングは考え方の問題だったので、やりながら体得していったという感じです。歴史的にもそんなに前のことでもないんですよ。
改めてきく、プロジェクションマッピングとは?
プロジェクションマッピングと言う言葉は今や色々なところで耳にするようになりましたが、いざ説明しなさいといわれたらイマイチうまく言えないと言う人も少なくないと思います。
プロジェクションマッピングってどんなものなのかをわかりやすく教えて頂けますか?
多分、多くの人がイメージしているのって「プロジェクション」なんです。
「マッピング」っていう言葉がついているのが実はミソで、プロジェクションってただプロジェクターで写せば対称が建物であっても、それはただの映写なんですよね。
マッピングっていう言葉が入ったときに、映像を的確な場所にシビアに置かないと成立しないんです。建物があったら建物の形に映像をデザインして、それらがピッタリ重なり合うようにしなくてはいけない。その映像を合わせる作業のことをマッピングっていうんです。
(前回の国際コンペの様子)
モチーフがあってそのモチーフを利用しているかしてないか。これが重要です。
これってどこに映しても一緒だよねというのは、プロジェクション。極端に言うと、これにしか映せないというもを作って、成立させているのがプロジェクションマッピングなんです。
日本ではプロジェクションマッピングと呼びますけど、欧米だとビデオマッピングっていう言い方をしたり、ビジュアルマッピングとかって言ったりもします。「映像とか画を空間の中にどう置いていくか」という考え方なんです。
プロジェクターを使っているからプロジェクションマッピングって言うんだけど、例えばLEDのモニターとか普通のディスプレーといったものも、空間の中のデザインとして配置していけばビデオマッピングになるので、もうちょっと広い意味で使えます。逆にもっと狭くしようと思うと、建物に合わせてやっているようなものはアーキテクチャルマッピングやビルディングマッピングと言ったり、そういう風にみんな使い分けて説明してます。実は、説明的な造語なんですよ。
今回の国際コンペについて
今回の制作テーマは「HANA花/華」
世界中のバラエティーに富んだ作品を一同に見られるまたとない機会ということで楽しみにしていますが、どういったところに注目するとより、楽しめるのでしょう?
僕たちが、審査するときにポイントがあるのですが、基本として5つの項目を元に見ています。
① オリジナリティー(自分たちらしさや新しさなどがあるかどうか)
② 映像、CGを作るスキルや映像自体の質
③ 建物をいかに利用してデザインしているか(それがなければどんな建物に映しても変わらないのでその建物を積極的に利用しているかどうかということを見ます)
④ テーマやコンセプト(クリエイターがテーマに対してどういうコンセプトを導きだしているか)
⑤ 総合的なディレクション力や完成度(1分間という短い時間の中でいかに構成して作品をつくっているか)
これら5つの審査のポイントっていうのは作品を見る上でも、すごくいい観点になると思います。
あとは、皆さんのイメージと違うものがたくさん出てくると思うので、単純にそれを楽しんで欲しいです。プロジェクションマッピングって色々な表現があるんだなっていうのをまず感じてもらいたい。一般の人もアーティストにとっても色々な作品を見られるチャンスっていうのはすごく勉強になります。
オーディエンスの方も育てていきたいというとおこがましいですけど、僕はいいものをみる機会が増えればいいなと思っています。色々な表現や価値を見てもらって、それらが自分の中に蓄積されて"自分の考え方とか好き嫌い"ができてくる。そういうのに向き合ってもらって、"自分なりの好み"を作ってもらえたらいいですよね。
(前回の国際コンペの様子)
また、花火大会に行ったらバーンとなってみんな「わー」っというよね?ああいう感覚でいいと思うんです。
花火かー!なるほど!美しいものを素直に美しいと感じられる心って大事ですよね。
「たまや―」みたいなノリでね。(笑)
「イイッ!!」と思った作品の時には思いっきり拍手してほしいです。
(前回の国際コンペ表彰式の様子)
賞は、グランプリを含めて全部で5つあって、その中にオーディエンス賞というのもあるんです。
一般の観客から投票によって決めてもらうのですけど、審査員とは大体違うものが選ばれます。
えー!視点が違うんでしょうね!
そうそう。時々、アーティストの中にもオーディエンス狙いとかもあったりしてね。(笑)
審査員たちは色々なものを見てきてるから、粗削りでも新たに挑戦してるものにはどうしても票をあげたくなるという心理があるかもしれないです。
演歌でもJAZZでもロックでも、やっぱりいいものはいい!と思うように、映像の中に3Dを使ったりアニメーションを使ったり、今回は実写素材を使った作品もあったりするので、そうした表現のバリエーションもぜひ楽しんでください。
これから佐賀でやるとしたら?
佐賀のお隣、波佐見出身で佐賀にもゆかりがある石多さん。
例えば、再び佐賀での企画も受けられたとして、やりたいなと思うことはありますか?(願いを込めて......)
今ちょっと面白いなと思ってることがあって。
バルーン(気球)ってあるじゃないですか?あのバルーンを夜飛ばして面白い空間作れないかな?
えええ!!
まあドローンは今色々な事例があるけど、バルーン同士が空間として例えばレーザーで紐付けられるとかそこで星座が現れるみたいな。
わー!それすごい!見たいです!!めちゃくちゃ楽しそう!!
絶対楽しそうですよね!昼の部夜の部と分けて、夜は夜でやったら、面白いだろうなと。
そしたら宿泊数とかも延びるかもしれないし!
確かに!!相乗効果もねらえますね!(笑)
やっぱり佐賀だったり、その地域が持ってるメディアをどういう風に面白く魅せていくか?そういうのを考えるのは楽しいですよね。
まとめ
世界でも活躍されている石多さん。有工の頃は、学校の近くにあった本屋さんに行ってデザインの本ではなくDVDを借りていたそう。マラソン大会で陸上部に負けないくらいの意欲と力を発揮されたという負けん気の強さを懐かしみながら話されている様子も印象的でした。
実は、今回行われる「1 minute projection mapping in ハウステンボス」のため、メンバー全員寝不足というお忙しい中でのインタビューでした。それでも、2時間近く丁寧に詳しく話してくださったという裏話があります。佐賀での思い出や私の勝手な妄想提案にも気さくに乗ってくださり、再び佐賀の方々にも石多さんがディレクションするプロジェクションマッピングを見てもらえればいいなと密かに思っています。
ハウステンボスで開催されているプロジェクションマッピング国際コンペ。
4/19からは38作品からファイナリスト16作品に絞り込んで上映されるそうです。4/28には海外ゲストが自身の作品を引っ提げて来日し、審査が行われるとのこと。色々な審査員がああでもないこうでもないと言っている姿も結構ドラマがあって面白いそうですよ!
前半は38作品というボリューム、後半は16の厳選された作品と海外のゲスト作品というクオリティの高さを楽しめる大会。
是非、花火を見る心持で足を運んでみてください。
情報
1 minute projection mapping in ハウステンボス
期間:3/10〜4/18 2次上映審査38作品
4/19〜5/20 ファイナリスト作品16作品
公開審査 4/28 (世界のトップクリエイターが集まります)
会場:パレス ハウステンボス(長崎県佐世保市ハウステンボス町1-1)
上映時間: 19時15分~ / 20時15分~ (1回15作品程度 約40分)
入館料: 1DAYパスポートをお持ちの方 500円
散策チケットをお持ちの方 700円
アフター5パスポート/年間パスをお持ちの方は無料
■主催:ハウステンボス株式会社
■企画:一般財団法人プロジェクションマッピング協会
■協力:株式会社DNPアートコミュニケーションズ
■WEB:http://1minute-pm.com/event/
EDITORS SAGA編集部 中村美由希