佐賀城公園内に位置し、長年、体育施設として愛されてきた『市村記念体育館』。
2018年度には『肥前さが幕末維新博覧会』のメインパビリオンとなり、佐賀の偉人たちの"志"を伝える文化的な施設として活用されました。
そんな『市村記念体育館』は"佐賀の未来を創る、佐賀が未来を創る、⽂化体験・創造拠点"を目指すべき姿として、2026年のリニューアルオープンを目指しています。
2022年3月10日、関係者がオンラインで集まり、施設のあり方を議論する公開会議『ICHIMURAフューチャーデザインミーティングvol.1』が開催されました。
この記事では様子をお伝えします!
当日登壇した方々はこちら。
司会
・馬場正尊 氏(株式会社オープン・エー) ※1
アドバイザー
・田中裕之 氏(佐賀県 文化・スポーツ交流局長)
・洪恒夫 氏(東京大学総合研究博物館) ※2
プレゼンター
・中村隆敏 氏(佐賀大学 芸術地域デザイン学部)※2
・駒場瑞穂 氏(株式会社リコー) ※2
・古瀬学 氏 (アールテクニカ株式会社)※1
・友廣一雄 氏(オプティム・バンクテクノロジーズ株式会社)※1
(役職等は2022年3月当時)
※1 市村記念体育館利活用設計業務受託者および協力事務所
※2 市村記念体育館利活用検討委員会メンバー
市村記念体育館を未来に繋ぐために
まず、市村記念体育館リニューアルの設計・運営計画に取り組む、『株式会社オープン・エー』の馬場さんより、この公開会議の主旨説明がありました。
- 馬場さん
-
現在、『市村記念体育館』を新しい文化芸術の拠点として生まれ変わらせるための、設計や運営計画が進んでいます。ここがどんな施設になるといいか、建物ができる前からみんなでアイデアを出して、佐賀の未来をデザインしていきたいと思っています。本日はそのための公開企画会議です。今後どんどん輪を大きくしていきたいと思っていますが、今回は実験的に、少人数でオンラインで始めてみます。
次に、本事業を推進している、佐賀県の『文化・スポーツ交流局』田中局長よりご挨拶をいただきました。
- 田中局長
-
『市村記念体育館』は、昭和38年に『リコー』の創業者である市村清さんから寄贈された体育館です。スポーツだけでなく、文化にも関わる多様な用途で、先進的な体育館として運用してきました。老朽化により壊そうかという話も一時ありましたが、佐賀県民にとって、佐賀県の文化にとってなくてはならない存在だと考えて、なんとか今のところまで辿り着きました。生まれ変わる施設にどう魂を込めていくのかは、これからの議論にかかっています。未来に向かってみんなで一緒に作っていきましょう。
どんな施設に生まれ変わる?
続いて、利活用検討委員会の委員長でもあった、『東京大学総合研究博物館』特任教授の洪先生より、コンセプトについて説明いただきました。
- 洪先生
-
2018年の『肥前さが幕末維新博覧会』では、『市村記念体育館』がメインパビリオンになりました。私は展示デザインに関わりましたが、人に感動を与える展示を目指しました。新しい記憶を刻んだ体育館を、その志を継承しながら次に繋いでいこうということで、検討委員会では"佐賀の未来を創る、佐賀が未来を創る、文化体験・創造拠点"という方針を立てました。佐賀の先人たちが未来を見据えて新しい時代を切り拓いたように、現代を生きる人々、特に若者が、未来を変えていくことにつながるような施設ができるといいと思っています。前例がない施設が、大変意義のある施設だと考えています。
キーワードとして「創造力維新 Crossing Creation」という言葉を掲げています。現代の維新とは、人々が何かを生み出すための、創造のための維新です。課題を発見し、解決し、新たなものを作っていくような行為は、広い意味での"デザイン"であり、新しい文化につながって行きます。
『株式会社オープン・エー』の馬場さんより、計画案の紹介がありました。
- 馬場さん
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『市村記念体育館』をデザインしたのは、近代建築の巨匠である坂倉準三です。いま、近代の名建築がどんどん壊されていますが、佐賀県では設計者や寄贈者の心意気まで含めてしっかり残していこうと、大変大きく意義のある決断をされました。私たちは利活用設計者として、この空間をしっかりと継承しながら、未来に向けて生まれ変わらせないといけません。
いまイメージしているのは、"屋根のある公園"。テクノロジーやエコロジーが融合した空間の中に、人が集まってざわざわして、未来を予感させるようなタネがいろいろな場所にあります。未来のいろいろな可能性を限定しないで受け入れることができる、新しい空間、施設のあり方を作っていきたいと思っています。
現在のイメージパース。2階にはセレクトされた本や植物が並んでおり、ふらっと来た人がのんびりと読書や勉強をすることができる。1階には、ガラスのキューブが点在し、その中や外で、地域の企業や、クリエーター、子どもたちが、クリエイティブな活動に取り組む。フロアでは、ワークショップやものづくり、コンサートなど、いろいろな活動が渾然一体と同居しているような施設となる。
プレゼン① 「これからの時代、こんなイノベーションが起きる!」
第2部では4人のプレゼンターから「こんなことやりたい!」というプレゼンが行われました。
まずは『佐賀大学 芸術地域デザイン学部』教授の中村先生です。
- 中村先生
-
私は検討委委員会のメンバーとして4つのキーワードを書いてみました。
1つ目は、この施設の核心であり、私の専門でもあるアートやデザインについてです。アートやデザインは新しいものを発見して生み出す力を持っていると考えています。この施設がハブとなり、イノベーションの源泉となることを期待しています。
その後の3つは、これからの時代、技術の革新や、それに伴う社会のあり方の変化として予想していることです。このようなことが『市村記念体育館』で先進的に起こるとおもしろいと思っています。
例えば、誰もが持っているクリエイティブな能力を引き出して新しい仕事を作り出す。リアルとオンラインを繋ぐことで、人間の意識が拡張し、新しい芸術の形態が生まれる。さらには人間とは何ぞやという問いが深まって、リアルとバーチャルで関わりながら活動していくような場所になっていくのではないかと。そんな場所で新しい時代に活躍していく人を見てみたいと思っています。
- 馬場さん
-
ボールを遠くに投げるような、ワクワクするフレーズがたくさん出てきました。この施設の使われ方としては、どんな風景が浮かんでいるんですか?
- 中村先生
-
新しい世界に向き合うのに大学の中で仕組みを作るだけでは不十分だと感じています。
大学外に現在検討中のクリエイティブ施設があって、自由に行き来できると、学生と地域との関係が深まり活動が広がりそうです。異質なもののぶつかり合いが生まれるといいと思います。
プレゼン② 「市村清の志を継いで」
次は『株式会社リコー』で新規事業などを手がけている駒場瑞穂さんです。
- 駒場さん
-
『リコー』の創業者は、『市村記念体育館』を寄贈した市村清です。生まれ故郷である佐賀の未来のために、ということで体育館を寄贈しました。
『リコー』という会社は、例えば"機械にできることはまかせて人間は創造的なことをしよう"というような、新しい社会の価値に関わる提案をかなり前からしてきました。これから人工知能などが発達して行けば、人間の働き方や生き方もさらに変わっていくのではないか。そのような新しい提案をしていきたいと思っています。
つい昨日、佐賀県と『リコー』、『リコージャパン』の間で連携協定を締結しました。『市村記念体育館』を、未来を創造するための持続可能な施設としていきましょう、という協定です。『リコー』では、未来のことを考えている社員を集めて、例えば子ども向けの科学教室や、アイデアを形にするものづくりのラボ、360度の映像が体験できるシアター、学校とは違う学ぶ場・会社とは違う働く場などを考えていきたいと思っています。
- 馬場さん
-
『市村記念体育館』に特化した、具体的な協定なんですね。企業やクリエーターの皆さん、『リコー』とコラボするチャンスじゃないですか。
『リコー』はさまざまな挑戦をされていますが、それが佐賀まで流れこんでくるといいですね。
プレゼン③ 「佐賀にサブカルチャーの拠点を!」
3番目は『アールテクニカ株式会社』の古瀬学さんです。
- 古瀬さん
-
『アールテクニカ』は、映像音響技術を応用したアプリやツール、展示物制作などをメインにしている会社です。
私のアイデアは"サブカルチャーの振興をしたい"ということです。佐賀は"サブカルチャー不毛の地"だと思っています。サブカルチャーに関わる人が持っている力はすごい。佐賀にも取り組んでいる人がいないわけじゃないけど、活躍できるシーンがなかったんです。ネット上だけでなくて、リアルな場にサブカルチャーセントラルが作れないか。
この施設は、まず外観や空間も特徴的だし、想定されている設備やコンテンツの親和性が高いと思います。イベントや創作活動はもちろん、「ここに来れば何かできる」「すごいやつに会える」「なんとなく行ってみたくなる」そんな場所になるといいなと思っています。
ハードウェアとしては十分なものができそうなので、それをしっかり使いこなすソフトウェアができていくような仕組みがあるといいですね。
- 馬場さん
-
古瀬さんとは長い付き合いですが、"佐賀でサブカルチャーを"というメッセージがいつも一貫していますよね。僕もサブカル寄りの人間で、佐賀にいた高校時代は居場所がなかったから、そういう人が救われるような場所があるといいですね。
どういう場所だといいんですかね?
- 古瀬さん
-
サブはやっぱりメインではないんです。もちろん合法だし、胸を張っていいんだけど、おおっぴらにはしにくい、うしろぐらさ、いかがわしさ、後ろめたさに魅力があると思っています。そういうものが集まる"アングラ感"は必要でしょうね。それを公共的な施設がバックアップしようとするのは大きなチャレンジで、うまく行けばとてもおもしろいと思います。
プレゼン④ 「イノベーションを生み出す仕組みづくりを!」
最後は『オプティム・バンクテクノロジーズ』の友廣一雄さんです。
- 友廣さん
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私の会社は、佐賀大学発のIT企業である『オプティム』と『佐賀銀行』の合弁会社として、『オプティム』の技術を使ったDX化やファンド、教育事業などに取り組んでいます。
1つ目の提案はピッチ大会。創造力維新というコンセプトをもとに集う、熱いマインドを持った方々でプレゼンし合うようなイベントをやりたいです。単にファンドとしてお金を出すだけでなく、先に進んでいくためのサポートやプラットフォーム作りまでできるといい。集まった人を繋げたり、アイデアを後押しするようなコーディネーターが常駐すれば、イノベーションの聖地になるんじゃないかと思います。
2つ目の提案は、地域と連携するアプリの開発です。利用者とのコミュニケーションやマーケティングツール、Eコマースサイトが内在するようなものをイメージしています。博物館や美術館、商店街、サンライズパーク等まで含めて、地域一帯で連携しながら利用者を誘導できます。利用者にとって見ると、一つの施設に留まらない幅広い新しい情報に出会えるツールになります。
- 馬場さん
-
イノベーションの聖地化、いいですね。
ファンドやサポートの仕組みをインストールしたり、流通のハブになるようなアプリケーションができると、例えばアーティストの作品を商品化して通販したり、実験的にいろいろなことができそうですね。
ディスカッション: 県民に開かれたより良い施設としていくためには?
洪先生と田中局長にプレゼンのご感想をお伺いしました。
- 洪先生
-
「創造力維新」にはいろいろな可能性、アプローチの仕方があるでしょう。このようにアイデア出しを繰り返すことで、徐々に炙り出されていくように思います。
この施設は作って終わりではなく、作ってからが始まりです。デザイン力が高まっていくような求心力、波及効果を生み出す遠心力が両立するようなあり方を考えていきたいです。
- 田中局長
-
非常に幅の広い提案をもらいました。ITや教育はこの施設の核になる部分ですが、一方でサブカルチャーの提案には可能性の広がりを感じました。具体的な話だと、アプリでの顧客管理やキャッシュレスの実験、ファンドやサポートの仕組みなどもできるといいですね。
施設内に留まらず外に広がっていくことができれば、施設の役割が拡張していくだろうと思います。
視聴者からの質問や感想も受け付けました。
- 藤本さん
-
カメラマンをやっています。近い将来のビジョンが描けて刺激的でした。
探求や学びなど、ポジティブな要素が多いけど、そこまでモチベーションを持てていないネガティブな人や、癒しを求めているような人も許容できるような施設になると、より可能性が広がるんじゃないかと思いました。極端な話ですが、例えばサウナがあれば来る人の層は一気に広がりますよね。
- 馬場さん
-
たしかに能動的な人だけが集まってくると居心地悪いですよね。
施設内のライブラリーの部分や、周りのゆったりとした公園なども使って、いろいろな人が来られる施設とするためのチャレンジをしていきたいと思います。
- 江頭さん
-
佐賀大学の近くでコワーキング施設を運営してます。
『市村記念体育館』にいろんな最先端が集合することになるので、佐賀の今と未来が一覧になって見える場所になるだろう、とワクワクしました。
大学と民間には距離がありますが、自分はその間に立ちたいと思っています。例えば大学には最先端の機器がありますが、その使い方を『市村記念体育館』で練った上で、地域に出したり、もう一回大学に戻したり、ということができるとおもしろいと思います。たくさんの学生、若者とのネットワークがあるので、ぜひ活動の出力先として使わせてください。楽しみにしている人はたくさんいると思います。
- 馬場さん
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ぜひ次回プレゼンしてくださいよ。
佐賀大学の学生や若者が何を欲しているか、リアルな声を聞いてみたいです。みなさんのアクティビティを実現することがこの施設の目的といっても過言ではないですから。
今後に向けて
最後に登壇者の皆さまから感想や今後への期待をいただきました。
- 中村先生
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これまで検討委員会なども重ねてきましたが、全く違う方々からも意見が出てくるのが大事だと思います。
今後、可能であれば、未来を作る小学生や中学生たちにアイデアを出してもらうようなことができるといいですね。
- 駒場さん
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私の会社としても、若手チームからの提案はまた違う意見が出てくると思います。いろいろと実験に取り組んできたメンバーですから、うまく行ったところ、行かなかったところを踏まえて実践的な提案ができると思います。
また、ネガティブな人に向けたプログラムは興味を持って取り組んでいるところなので、関わっていきたいなと思います。
- 古瀬さん
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こんな施設が本当にできたらすごいけど、何十年も生かしていくのは難しいとも思います。
でも今日話してみたら、意外と皆さん目線が揃ってて、かなり先のことや、来づらい人のことまで考えていて、これからおもしろくなるぞという確信が得られました。ワクワクしています。
- 友廣さん
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より広げていくと考えると、グローバルな目線があっていいかもしれません。
「アジアの中の九州」という考え方も出てきていますが、例えばアジアとのつながりが持てるような施設、という見方で外とのネットワークを考えると、また新しいアイデアが生まれるんじゃないかと思います。
- 洪先生
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今日は視聴者として参加いただいていた藤本さんからも重要な指摘をいただきました。県の公共施設として、スキルや意識の高い人だけでなく、幅広い人が過ごしやすく、何かを得られる施設になるべきです。
今後も皆で一つの方向を向いて、熱感を持って語り合いながら、盛り上げていけるといいなと思いました。
- 田中局長
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敷居は低く、でもしっかり高みを目指せる施設として、いろいろな人を巻き込みながらやっていきたいと思います。
今日はその初回として大変いい機会でした。コロナが落ち着けばリアルで集まって話したいですね。引き続きよろしくお願いします。
さまざまな立場の方から意見をいただき、活発なディスカッションになりました。
今後の公開会議では、プレゼンター・視聴者とも輪を広げながら、より良い施設となることを目指して議論を重ねて参ります。今回議題に挙がった「幅広い県民に開かれた施設としていくためには?」「イノベーションを生み出す仕組みとは?」といった課題についても、広く意見を集めていきたいと思います。
第2回公開会議『ICHIMURAフューチャーデザインミーティングvol.2』は6月27日(月)オンラインにて開催予定です!ぜひご参加ください!
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『ICHIMURAフューチャーデザインミーティングvol.2』視聴申し込み
執筆者:株式会社オープン・エー 内海皓平