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女性が働くということ・1「いわゆる『仕事』からいちばん遠いところで楽しんでいる」おおやのりこさん

ライフスタイルや価値観が多様化し、上の世代にロールモデルを求めにくい現代社会。女性たちは仕事や家庭とどのように向き合っているのだろうか。この連載では、"女性と仕事"をテーマに、県内に住む女性たちの声を拾っていく。仕事上のトラブルから夕飯のメニューまで、悩み満載の日常のヒントは、今を生きる女性のなまの声にあるかもしれない。

第1回にご登場いただくのは、「くにこ横丁」の屋号で多彩な活動を行うおおやのりこさん。筆者とはかねての友人である彼女は、"女性と仕事"というテーマについて「私にとって仕事はレクリエーションみたい。だから、『仕事』とか『働く』とかの一般的な概念からいちばん遠かところに居るよな、て自分で思う」とほほ笑む。

インタビューは、武雄市内の、彼女の新しい拠点で行った。3月まで介護施設だったという建物は驚くほど明るく広く、かつて利用者が集っていたスペースにはテーブル席やソファがゆったり配置されている。のりこさんは縁あって友人と共にこの場所を借り、新しい活動を始めた。

彼女の現在、そしてこれまでとこれからを語ってもらった。

仕事は、私の世界と外の世界をつなぐ手段

おおやのりこさん
こんなことしています:「くにこ横丁」の屋号でアクセサリー制作・イラスト・デザイン・料理メニュー開発などを手がけています。
家族構成:パートナーと2人暮らし。介護のため週に数日実家で暮らしたり武雄市の新拠点に泊まったり、で多拠点生活みたいな感じ。
担当する家事:自分のことは自分でやるのが定番
息抜きの方法:お菓子を食べながらの動画鑑賞

《 在る 》という新しい活動

ここでの活動のテーマは、《 在る 》。ほつれたり、穴があいたり、染みができたりした服とかを繕う「繕いものやさん」をやってみようかと思ってる。ダーニングとか刺繍とか方法はいろいろ。「いま『在る』もの」を大切にしていきたい。
「預かって繕う」でもよかけど、お茶でも出して喋りながらできたら、もっとよかな、て思う。疲れている人には「昼寝しとってよかよ」と声かけたり。みんな忙しかやん。ここで休憩してほしい。繕いものも、本人の気が向けば私と一緒にしていいし。
《 在る 》の活動は「くにこ横丁」でずっとやってきた中のひとつ。この建物はスペースが広いから、繕いもの屋の他に、フリマ開いたりいらんもんの交換会開いたりするかも。

いろいろあるのが「くにこ横丁」

「くにこ横丁」は手仕事やデザインの他、音楽つくったり文章書いたり。薬膳コーディネーターの資格があるから料理メニューば開発したり。いろんな活動をひっくるめて「横丁」。

「のんち(※のりこさんのニックネーム)は何やってるかわからん」って誰からでも言われる。去年から「妄想クリエイター」て名乗ったけど、口に出すとは少し照れる。でも、妄想はほんと原動力だと思う。妄想癖がある人ならではの"私の世界"があって、その妄想の世界と外の世界をつなぐ手段が、私にとっての「仕事」かな。

でも他の人にもっと伝わりやすく表現するなら「なんでも屋」がちかい。「こういうのできる?」て友人知人に相談されて「うん、やってみようかな」で仕事が広がっていった。仕事でありながらレクリエーションみたいな感覚。

今は尾崎人形の制作も手伝ってる。好きなことや好きな人って不思議とつながっていくよね。もともと尾崎人形が好きだったんだけど、「手伝ってもらえますか」って声かけてもらえて、「やったー」って。今は絵付けや型入れを担当してる。

無茶ぶりに見えることでも応えたい。そして「できた」の充実感

「くにこ横丁」に至るまで

20代の頃は飲食店で働いてた。お店のオープン準備をかるい気持ちで手伝ってたら、いつの間にか「料理担当ののりちゃん」になってて。驚いたけど、役を割り振られたら頑張りたくなる。人生でいちばん忙しかった時期。午前8時に仕事を始めて午前1時に帰る生活。「水戸黄門をテレビで見たい」って泣いたことがあるぐらい忙しかった。結局、体調をこわして退職して、「夕日が見られる人生にしよう」と決めて、そこから仕切り直し。

その後は介護職で10年ぐらい働いて、その他にも、美容室の従業員さんの給食を担当したこともある。若い子ばかり20人いて、偏食ぶりがおもしろかった。じゃがいも駄目な人がいたり。カレー作るにしてもグリーンカレー・普通のカレー・辛くないグリーンカレー・じゃがいも抜きのカレーとか4種類作ってた。介護職もそうだけど、予想外のことをおもしろがれるのって大切。

つながること、広がることが好き

料理と実験は似てるな、と思う。料理メニュー開発めっちゃ楽しかさ。食事と文化を融合させる「ガストロノミー」に対応した料理を依頼されたことがあるけど、風土や歴史を踏まえて料理作るのって最高。風土と歴史と料理が自分の中でつながったら「うおー」てテンション上がる。そういうのがめちゃ好き。

そがん感じでいろんなこと挑戦させてもらえるのはありがたか。「無茶ぶり」と感じたこともある。デザインの仕事なんかやったことがないのに「フライヤー作って」「ホームページ作って」て頼まれて勉強して、どうにかやり遂げた。「できん」と思ってもでやってみたらできる。やるかやらんか、だと思う。

そして私の場合、誰かに頼まれると、期待に応えて頑張りたくなる。なんなら、期待を上回りたくなる。自分に振ってもらえたのは、可能性があるということ。一人では越えられない壁を、誰かと一緒に取り組むことで突き破っていける。

私はもともとコンプレックスだらけで「何もできん」の気持ちでスタートしてるから、できることが増えるのはうれしいし、「やった、できた」という達成感がすごい。しかも相手が喜んでくれる。そのためにやっているのかも。

「大人になるって楽しそう」と子どもたちに思ってほしい

妄想芸術祭を開きたい

今、実現したい夢のひとつは、妄想芸術祭。佐賀の名所に自分がつくったものを合成させて、そこに建造物があるように見せる。妄想だから実物はない。動画をつくる友達に「ARできる?」て尋ねたら「やったことないけどやってみたか」と答えてくれて。映像を用意して、ストーリーをつなげて冊子なんかも作ってそれを持って名所めぐりをしてもらう、とか。
こんな感じでおもしろかことをみんなでやってみたい。

一人だと思いつくこともできることも限界がある。だから「これが好き」がある人みんなで集まって、より楽しいものをつくっていきたい。みんなでやることで広がって、どんどんおもしろくなるはず。

そして、できれば、「ちゃんとやる」じゃなくて、肩の力を抜いてやっていきたい。「しょうもないねー」って笑っている人たちを見ていたい。気持ちの上では、社長になって研修旅行を実施したいなっていうのがあるよ(笑)。今、人間関係ノンストレスでほんと楽しい状態。自分が自分の世界をつくるとやな、て思う。今の自分の世界がほんと幸せ。

大人になるっておもしろい!

もうひとつの夢は、「大人になるっておもしろかやん」て子どもたちに思ってもらうこと。「歌謡サスペンス激情」ていうバンドをやってるんだけど、ライブを見た子どもが「バンドしてみたい。できそう」て言ってくれてたのがめっちゃうれしかった。

自分がちっちゃか時に楽しそうな大人ば見とらん気がする。でも、今、周りを見たら「おもしろか大人おんしゃっやん」と思う。子どもたちには、大人になることにわくわくしてほしい。

でも私、大人にも子どもにも人見知りする。子どもに対して、大人として接しきらん。いつも子どものほうに世話焼いてもらってる。ぶどうの皮をむいてもらったり(笑)。でもそがんとも楽しくて、やめられんとよね。

屋号 くにこ横丁
公式SNS Instagram https://www.instagram.com/925yokochou/

開成作文堂

伊藤 恵子

佐賀県佐賀市在住のライター。平成の大合併後に佐賀市となった、山中の集落で自然物と戯れながら育ちました。学生時代を除いてずっと佐賀に...

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