2020年の流行語大賞には「オンライン〇〇」や「テレワーク/ワーケーション」といった言葉がノミネートされました。働き方も随分変わってきているな、と感じながら今も自宅で原稿を書いているところです。
いやいや私の仕事は現場じゃないとできないよ!って人も多いかもしれません。でも、今回はそんな人たちにこそ知ってほしい佐賀の大きな変化についてのお話。
じつはコロナ禍が始まる前から先進的な取り組みをしていた佐賀県。その先頭を駆け、流れを作り出しているDX・スタートアップ推進室のみなさんにお話を聞いてきました。
DX・スタートアップ推進室
目次
そもそもDXっていったい何?
中島 -
そもそもDXとはいったいどういう意味なのでしょうか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)
2004年にスウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマンが提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
北村室長 -
人によって定義や捉え方は違いますが、ポイントは「デジタル技術」と「変革」の2つ。テクノロジーだけじゃだめだし、変革だけでもダメなんです。
「便利なシステムがあるからうちの会社もそれを採用しよう!」という単純なものではなく、「便利なシステムを活用してより良い仕事のやり方に変えていこう」というのがDXです。
東さん -
たとえば、皆さんが行くスーパーのレジシステムなんかもここ数年で大きく変わっていますよね。無人レジやキャッシュレス決済などが導入され始めました。でも、まだそれらが導入されていないお店でレジを担当されているスタッフの方に無人レジ等の導入について聞いてみると、「私の仕事がなくなってしまう!」と危惧される方もいらっしゃると思います。
DXの本質とは、無人レジやキャッシュレスのような便利なテクノロジーを活用してレジ打ちをする必要がなくなった代わりに、「どこにどういう商品配置をすればもっとお客さんにお求めいただけるようになるか?」「どんな工夫をすればお客さんに興味をもっていただけるか?」と考え、より良い方向に仕事のやり方を変えていくことです。
DX・スタートアップ推進室っていったい何をやっているところ?
本多さん -
「DX」「スタートアップ」をテーマに、県内企業の成長支援や地域の産業振興を目指して、ITの利活用から起業家・ベンチャー企業の育成などまでさまざまなことをしています。
中島 -
いろいろなことをされているんですね。今日は「佐賀の最先端IT事情」といったテーマでお話を聞かせていただきたいのですが、佐賀県ではどのようにDXを推進されているのですか?
五反田さん -
県では、2018年10月に全国でも珍しいITに特化した産業支援機関「佐賀県産業スマート化センター」を開設しました。さまざまな課題をお持ちの県内企業から寄せられるご相談に対し、丁寧なヒアリングを行って、本質的な課題発見とその解決のお手伝いをさせていただいています。
具体的には、課題解決に役立つAIやIoTなどのITソリューションをお持ちの協力企業(サポーティングカンパニー)をご紹介し、生産性向上や新ビジネス創出のご支援をしています。
県内企業のお悩み相談所!佐賀県産業スマート化センター
佐賀県産業スマート化センター(https://www.saga-smart.jp/)
中島 -
企業だけでなく県民に向けた支援も行っているんですか?
井上さん -
プログラミング言語「Python(パイソン)」をはじめ、IT人材に必要な知識を習得できる講座「SAGA Smart Samurai」を2020年8月から開講しました。佐賀のDXを支えるIT人材を県内で育成・供給する仕組みを全国に先駆けて構築したいと思っています。県として初めての試みでしたが、受講者は熱心に取り組まれ、令和2年12月に全講座を修了されました。
プログラミング人材を育成!SAGA Smart Samurai
SAGA Smart Samurai ~ゼロから学ぶプログラミング塾~(https://www.saga-pg.com/)
東さん -
実は、100人の講座定員に対し、700人を超えるご応募をいただきました。県としてこれまでアプローチできていなかった層などからもご応募をいただいております。それだけプログラミング技術を学びたい人がいるという証拠で、これからの社会の流れに取り残されまいとする人が大勢いるということだと思います。
中島 -
講座を修了された人たちは今後どのように活躍されるのでしょうか?
井上さん -
在職者の方には、現在お勤めの企業の中で習得した技術を活用していただきたいと思っていますし、求職や転職を希望される方には就職の支援を行っています。新たに誕生したIT人材が佐賀で活躍できるよう、本事業のサポート企業様にもご協力いただいています。
中島 -
室名には「スタートアップ」というワードも入っていますが、こちらはどういったものでしょうか?
本多さん -
「地域経済が目指す未来の形を佐賀から」をテーマに、アイデア・やる気(パッション)のある人材が起業や新規事業立ち上げをしやすい環境づくりをしています。企業規模や業種に縛られることなく、チャレンジャーが集い、交わる場を設けることで、佐賀に起業実業家を生み、地域経済の進化につなげることができると考えています。
アツいチャレンジャーを応援!STARTUP GATEWAY SAGA
STARTUP GATEWAY SAGA(https://www.sgsaga.jp/)
中島 -
STARTUP GATEWAY SAGA の支援対象はどういった人たちですか?
北村室長 -
単純に「お店を開こうと思います」という方よりも、「このビジネスで世界を取るんだ!」という気概を持っているような人を支援しています。
他県では起業の際に登記費用の30万円を補助するといった施策を行っているところが多いのですが、本県は人口も少なく経済規模も小さいので、「広く浅く」ではなく、むしろ将来有望なごく少数を選抜し、徹底して重点的に育てるということをやっています。マネジメントやマーケティング、技術・学問的支援や近しい人たちのコミュニティ形成など様々な面からご支援しています。
以前は他の自治体と同じように開業率などを見て施策を考えていましたが、現在は大手との協業やビジネスコンテストなどで受賞できる企業などをコンスタントに輩出していくことを目標にしています。
佐賀のIT事情。地方ならではの特徴は?
中島 -
DX・スタートアップ推進室のみなさんは一般的な公務員の方とは少し違う雰囲気をお持ちですよね。お仕事の仕方も型にはまらないというか。ベンチャー企業のようなラフさ、でも公務員としてきちんと線が引かれている「良いギャップ」を感じます。
北村室長 -
DX・スタートアップ推進室は昨年の4月から室として独立しました。仕事の仕方も特殊で、課の中でもちょっと変わった存在だと思われているんじゃないでしょうか。書類などはデータ化して共有し、会議の議事録もPCで取って情報共有をしっかり行っています。日頃からの情報共有が議論の積み重ねには必要不可欠ですよね。
東さん -
あとは、室長が「これまでのいわゆる役所仕事とは違うことをやっていく」という方針を持っていることも大きな要因です。支援対象もはっきりしていて、メンバーがみんな同じ方向を向いて進もうとしているので、あとは方法論とどの程度やるかを考えて実行するだけです。その過程で議論はあってもやる意義は変わりません。
中島 -
新しいプロジェクトを立ち上げるときに気をつけていることなどはありますか?
北村室長 -
共通意識として持っているのは、「現場の方の意見を聞こう」ということです。 地方でビジネスが伸びない一つの原因は「手を挙げて採用されなかったら恥ずかしい、かわいそう」と思いがちなところ。それは競争環境がないからなんですね。結果、否定されたら嫌だから手を挙げないということになる。それでも言える強いメンタルを持っている人はいいのですが、言わなければブラッシュアップされないし、叩かれて伸びることもない。そこを乗り越えて、間違ってでも失敗してもいいから、まずは一歩を踏み出そうとする、そんな思いや行動を大事にしたいですね。
中島 -
県内でも地域によって差があるものですか?
東さん -
「福岡に近いから東の方が進んでいる」というイメージがあるかもしれませんが、西でも東でもやっている人はやっているという状況です。唐津や伊万里にも目立った方がいらっしゃいますし、積極的な企業もあります。 課題が山積みで閉塞感があるところほど、それを打ち破ろうとする人だったり、なんのしがらみもなく受け入れる風土だったりというのが生まれる可能性があると思います。 まだまだ動いている人が多いというわけではないけれど、これから育てていく必要がありますね。
本多さん -
IT企業の立地数などはどうしても佐賀市に寄っていて、企業のあるなしで情報量などに差が出てくるのは仕方ありません。 ただ、佐賀は他県に比べそこまで広い県ではないので、相談したいと思ったらすぐにお越しいただける環境にあると思います。何かお困りの際はぜひお声がけください!
今後の佐賀の「DX」働き方はどうなっていく?
中島 -
最近テレビでも時々DXというワードが取り上げられていますね。コロナというきっかけもあってDXを知った人もいれば、この記事で初めて知るという方もいると思います。あらためて、DXというものをどう捉えていますか?
東さん -
世の中的にはX(トランスフォーメーション、変革)の必要性が先にあって、そこに技術や導入へのハードル(価格等)が追いついたのかなと思います。変革には大きな労力が必要ですが、結果「ハッピー」になるということを見据えてやっていくことがDXかなと。
中島 -
オンラインミーティングやキャッシュレスなど、効率化はどんどん進んでいます。そうなると時間の重要性にフォーカスがあたっていくような気がしますね。
五反田さん -
「作業時間が短くなるからDXやろう」という目的ではなく、これまでやってきたことができなくなった・なるからDXという側面もあると思います。コロナでお客さんが減って、危機感を募らせてネット販売やテイクアウト、デリバリーサービスなどで解決できるということに気づく、みたいな。
中島 -
なるほど、世の中的には後者の方が多いかもしれない。
五反田さん -
産業スマート化センターでも、コロナを契機にご相談いただくことが多くなりました。
中島 -
これからの「働き方」についてはどう変わっていくと考えますか?
東さん -
最近は組織に縛られない働き方というのも出てきました。クラウドソーシングや副業もそうだし、会社と個人の関係性が希薄になりつつある中で、正規以外の雇用環境を用意しないと会社が生き残れなくなってしまうかもしれません。非正規雇用に関する議論においても、「組織にしばられたくないからあえて非正規雇用を選択する」という考え方の方もいらっしゃるとも聞きます。
これからの時代、ITの普及で人や仕事と組織とが今のように固定的なものじゃなくなっていくと、もっといろんな可能性が生まれてくるのではないでしょうか。
中島 -
そもそも今後そういう働き方が当たり前になるという認識を持っているかどうかというのも違いになりますね。
北村室長 -
今後そういう時代が来るかもしれないということを知っていただいて、もしそんな時代が来たときに自分はどういうことができるのか今のうちから考えておいてほしいと思います。 知事は、最近「DX脳」という言葉をよく使うのですが、「変えよう」という意識を常々持っていないとなかなか物事は変わりません。頭を「DX脳」にしていきましょう!
中島 -
本日はありがとうございました!
まとめ
佐賀の最先端IT事情をテーマに記事を書きたい!とお邪魔させていただいたDX・スタートアップ推進室。キーワードである「DX」の考え方を軸に、働き方や仕事の捉え方など様々なことを教えていただきました。
新しいことや未来のことを考えるのはワクワクと楽しいものです。佐賀には意外と知られていない、おもしろい人やスゴイ物がきっとまだまだあるに違いない。
今後も「佐賀のIT事情あれこれ」と題して、佐賀のITにまつわる様々な情報を発信していきたいと思っています。次回はIT人材育成の最先端、2日間プログラミング漬けの合宿が開催された様子をお届けします。どうぞお楽しみに。