「メタバース空間に多久を再現してみたら、想像を超えるものができちゃいました。」
そう話すのは、佐賀県多久市で⼩売・飲⾷業を展開する「有限会社アシス」の笹川社長。
前回の記事では「佐賀県中小企業DXフラッグシップモデル創出事業」に選ばれ、どんなことに取り組むのか笹川社長の頭の中にあるDX構想を伺っていました。→前回の記事
たしか取組のひとつは"メタバースで"バーチャルの商店街のような「メタモール」をつくる"というお話でしたが...?
笹川社長 -
いや、もうこれはモールじゃないですね。それだけにとどまらない感じになっちゃいました。おそらく日本初です。
え?日本初!?佐賀で?...多久で?
一体どんな内容なのでしょうか。DXでアシスがどう変わったのかレポートします!
目次
1. DXによってお店はどう変わった?ショップとカフェのDX
メタバースの話が気になりますが、まずはショップとカフェがDXでどう変わったのかそれぞれ見ていきましょう!
1-1. SCOL SHOP(⼩売業)の変化
前回伺った計画では、仕入・販売を一元管理する在庫管理システムを導入することで、リアルタイムで販売実績や在庫数が把握できるようになり、紙の納品書を確認して在庫数を手計算する手間が削減される、ということでした。
牛島 - お久しぶりです!紙管理からデータ管理に移行されて、お仕事はどのように変化されましたか?
笹川マネージャー -
レジデータと在庫データが連携しているので、レジを打てばタイムリーに在庫数の変動が確認できます。しかも自動的に発注データに反映されるので、それを基に簡単に精度の高い発注をかけられるようになりましたよ!
牛島 - 以前はお客さんがいらっしゃる間は発注作業ができなかったとおっしゃっていましたが、今ではそういうこともなくなりましたか?
笹川マネージャー -
そうですね、ちょっとの時間でできるので、お客様がいないタイミングでサクッと発注しています。以前はカタログ番号を調べてから在庫情報を見ていたので、とても時間がかかり、休みの日まで作業することも多かったのですが、今はそうしたことは無くなり、とても助かっています。
元々はデジタル機器が苦手な方だという笹川マネージャー。システム導入にあたっては、紙で管理していた情報を手作業でシステムに入力する必要があり、夜な夜な作業をされる日もあったそうです。
笹川マネージャー -
入力作業は心が折れそうでした...(涙)。ですが、いざこのシステムを使い始めると、以前とは比べものにならないくらい業務が楽になりました。しかも閉店後のレジ締めも不要になったので帰宅時間もとても早くなりました!一時は「DXなんてしなくても慣れたやり方でいい」とさえ思っていましたが、ここまで便利になると頑張ってよかったなと(笑)。
1-2. SCOL CAFE(飲⾷業)の変化
続いてはお隣の「SCOL CAFE」。こちらではAI型⾃動⽀払い精算機を導入することで、レジを2人から1人体制にし、さらにパンの焼きあがり時間や在庫、混雑具合がわかるようなアプリの開発をするという計画でした。
まずはAI型自動支払い精算機について伺ってみましょう。
大曲店長 -
AIカメラで商品を読み取るだけでパンの種類や個数がスマートレジに取り込まれて自動で金額が計算されるので、レジ業務がとても楽になりました。お客様が自動精算機で支払いをしている間にパンの袋詰めができ、1人で十分対応できています。お金に触らなくていいですし、衛生的にも時代に合っていますね。
牛島 - 素晴らしいですね。AIカメラは読み間違えなどのエラーはないですか?
大曲店長 -
最初はありましたね。似ているパンや、袋に入っているかいないかで判別エラーが起きていたので、そこは業者さんにフィードバックしてどんどん改善してもらいました。AIに商品を覚えさせるためには、一つの商品をいろんな角度から撮影して読み込ませるのですが、会計を重ねる毎に精度が上がり成長していく感じです。
大曲店長 -
人間と違ってAIには疲れた、とかないですからね(笑)。そして、アプリですが、パンの焼き上がり時間や予約の依頼などを受付けできるので、お客様も私たちスタッフも双方で便利になりました。せっかく来店いただいても目当てのパンがないとがっかりさせてしまいますし、こちらも機会損失になりますので、それが防げるようになったのは嬉しいです。
「SCOL SHOP」同様、閉店後のレジ締めが不要になったことで業務が格段に早く終わるようになったと言う大曲店長。生まれたゆとりでどんなことに取り組まれているのでしょうか。
大曲店長 -
例えば週末の忙しい日はレジなどの業務に人員を増やさないといけないので、パンをつくる人員が足りず、パンの種類を減らすしかない状況でした。ですがこうしてDXで業務が効率化できたことで表に配置する人員が減り、その分パンの種類を増やすなどお客様へ提供できる商品の充実化ができています。
1-3.マネジメントのDX
ショップとカフェどちらからも喜びの声が聞かれましたが、2つのお店のDXについて笹川社長が良かったと思われる点はどんなところなのでしょうか?
笹川社長 -
現場からも早く仕事が終わるようになったと聞いたと思いますが、管理面でもとんでもなく効率化しました。
牛島 - すごそうですね(笑)!具体的にはどんなところが変わったのですか?
笹川社長 - まず経理面でいうと、弊社にはだいたい毎月20枚弱の請求書が届きますが、各取引先からの請求書を郵送ではなく指定の場所にデータをアップロードしてもらうようにしました。そこに請求書が入るだけで自動的に仕訳まで完了しちゃうので、僕は内容が合っているのかをチェックするだけでほとんど何もしなくてよくなりました。
牛島 - 笹川社長が請求処理のために動くことはなくなったということですか?
笹川社長 - はい、解放されました(笑)。導入した会計システムは振込手数料や軽減税率などの仕訳も全部自動でできますし、新たに始まるインボイス制度にも対応しています。本当に楽になりました。もっと早くすればよかったなって思いますね。
牛島 - もうひとつ、次に何をすべきかの具体的な指示を表⽰させる「戦略マップ」の導入についてもお伺いしたいのですが、その後スタッフの皆さんはどのように活用されていますか?
笹川社長 - 売上やコスト、昨年比の推移など情報が盛りだくさんなので、最初はみんな引き気味でした (笑)。だけど「目標の売上に対して実績が今こうなっている」「Aの商品は伸びてるけど、Bは低迷している」などの情報がわかりやすく見られるので、今では僕が状況を伝えなくてもスタッフそれぞれがタイムリーに課題を把握できるようになりました。
笹川社長 - これらのデータを元に、次に起こすべき行動が「戦略マップ」に示されているので、マネージャーや店長が経営的な視点で考えるトレーニングになっています。
2. 祝完成!オープンメタバースポータル「MYUCA」のご紹介
ショップもカフェもDXの効果が生まれているようです。さらにメタバースの開発について伺っていきましょう。ここからはオープンメタバースポータル(OMP)プロジェクトマネージャーの山下さんにも加わっていただきます。
2-1.特徴とこだわり
前回の記事では「バーチャルの商店街のようなメタモールをつくる」ということでしたが、実際にはどんな仕上がりになったのでしょうか。まずはその全貌を見せていただきました!
牛島 - なんだかゲームのような雰囲気で楽しそうですね!
笹川社長 - ありがとうございます。ここには今、多久にある様々なお店が入っている状態です。カレーで有名な「アムール」さんとか、「永井さん家のからあげ」さん、すっぽんを養殖されている「大和養殖」さんなどですね。実際には多久にバラバラに所在していますが、仮想空間の中ではぎゅっと凝縮して配置し、見る人を退屈させないコンパクトなつくりにしています。この仮想空間の名称は「MYUCA(ミューカ)」にしました。
一つひとつの再現は細部にまでこだわり抜いているというこの「MYUCA」。例えば建物の影や水面の光の反射など、360°くるくると回したときでもまったく違和感なく変化し、拡大しても画質が荒くなることもありません。しかも動きが遅れることもなく、サクサクと動きます。ゲームのようにポップに見えて、かなり高度な技術が使われているようです...!
山下さん - よく観光地などで取り入れられている手法として、デジタルツイン(※)でメタバース化しているものがありますが、忠実にその場所を再現しているがゆえに、とにかく重たくて動きが遅いものが多くあります。「MYUCA」はスマホのブラウザでもすいすいと簡単に操作できる、特殊な技術で構築した仮想空間です。スマホに特化したものって案外今のメタバースの世界ではありません。日本初と言っていいほど先進的で画期的な仕組みなんです。
2-2. オープンメタバースポータルってどんな仕組み?
牛島 - この「MYUCA」はオープンメタバースポータル(OMP)という仕組みでつくられたそうですが、どういう仕組みなんですか?
笹川社長 - OMPはアバターも使いませんし、ログイン制にもしていません。誰でも簡単にアクセスすることができる"オープン"な空間です。
僕たちは、OMPが事業者の皆さんにとっての情報発信の"ポータル"のような存在になればと思っています。
今の時代は、事業者が情報発信を行う手段として、ホームページやYouTubeのほか、Instagram、Twitter、Facebookなど複数のSNSを使うことも多くなっています。OMPでは建物をクリックすると、その出店者が持つコンテンツが丸いリング状に表示されるようにしていますので、利用者は「このお店Instagramだけじゃなくtwitterもやっているんだ。HPもあるんだ。」といったことが一目で分かります。
2-3. 実際に使ってみよう!
「MYUCA」に再現された「SCOL SHOP」と「SCOL CAFE」の外観。店舗をクリックしてお店の雰囲気や陳列された商品を見て回ることができます。そして気に入った商品はオンラインで購入可能です。
牛島 - お店で陳列されている状態の画像から商品を探すので、本当に来店して買い物しているような気分になりますね...!購入までの過程がリアルで、遠方に住んでいる人でもお店のことをよく知ることができるし、お店のファンづくりにつながりそうです。
笹川社長 - そこが「MYUCA」のポイントのひとつですね。商品自体の情報だけでなく、売っているのがどんな店か?食べ物ならどんな場所でつくられたのか?ということまで楽しみながら理解してもらえる。例えば、「SCOL RICE」。"生産者の顔が見える"という商品はよく目にするようになりましたが、"生産された場所が見える"ということも可能です。
牛島 - 「MYUCA」にはお店だけでなく「多久聖廟」や「鬼の鼻山」のような観光地も盛り込まれていますね。
笹川社長 - クリックすると動画で特徴や歴史を簡単に知ることができ、参拝やおみくじが引けるなどの仕掛けも考えています。
山下さん - また、上空に浮かんでいるライブゾーンではリアルで開催されるイベントをオンライン配信したり、フロアに出店している事業者がライブコマースを行ったりすることができます。さらに、学びと街づくりゾーンでは、子どもたちが「MYUCA」の中にある建物を自分たちでつくりながら、プログラミングが学べるような仕掛けも構築中です。
2-4. 経営に役立つ機能も搭載
多久の楽しいコンテンツをぎゅっと詰め込んだ「MYUCA」。買い物、観光、ライブ中継、教育と幅広い体験ができ、その自由度から今後もますます拡大が見込まれますが、もう一つ大きな特徴があります。それは経営者の成長や業務の効率化など、経営に役立つオプションメニューの存在です。
笹川社長 - 「MYUCA」の中には実は会計事務所の建物をつくっていて、そこでは、出店者の方が戦略的な経営を進められるよう、会計ソフトや戦略マップなどのシステムをオプションメニューとして使えるようにしています。
笹川社長 - 「MYUCA」を使って多久を盛り上げていきたいと考えていますが、それぞれの事業者の経営が安定していないとこうした新しいチャレンジがしにくいと思います。だからこの「MYUCA」では、地域の人たちが経営力を伸ばしていけるような仕組みにしたいと思いました。
山下さん - 笹川さんの情熱と構想を基に、私たちが技術面を支援して、ようやくここまで出来上がりました。そもそもこういう経営や会計システムまで包括的に組み込まれたメタバース自体をオリジナルでつくるって...聞いたことないですよ(笑)。
笹川社長 - 今はあくまでも多久のモデルですが、これは別の地域でも展開していけると思っています。例えば、移住者向けに空き地や空き家を載せておけば、設備や風景を見せることもできるし、その街にどんなお店や名所があるのかも一緒に知ることができるから、移住者は具体的な検討がしやすい...とか、こんな風になんでもできちゃうのでアイデアが尽きないんですよね(笑)。
3. 今回の取組を振り返って
自社にとどまらず、その先の地域活性を見据えた今回のDXの取組。全体を振り返ってみての率直な感想を伺いました。
3-1. DXで気をつけたことは?
牛島 - 笹川社長がDXを推進するにあたり気をつけられたことは何ですか?
笹川社長 - ショップとカフェの業務改善でも「MYUCA」の構築でも、構想段階からみんなと意見交換していいアイデアはどんどん取り入れて反映しました。それってすごく大事で、みんながこの取り組みを"自分ごと"として捉えてくれるようになったんですよね。例えば、僕が一人で「MYUCA」を考えてつくって、そのあとで「多久のメタバース出来たので出店しませんか?」といってもたぶん伝わらない。そこは気をつけたというか、みんなと一緒に進めて正解だったなと思います。
3-2. 今後の展望について
構想段階から周囲に計画や想いを伝えて巻き込んでいくことで、DXの推進がスムーズに行えたと振り返る笹川社長。今後の展望とは?
笹川社長 - 「SCOL SHOP」、「SCOL CAFE」については新規出店を進めています。DXでバックオフィス業務が効率化できており、新しいお店でも同じように取り組むことで、無駄を払拭し効率的な店舗運営が可能となります。だからこそ安心して新しいことにチャレンジできます。DXってこういうことだよなってすごく感じますね。これがもしDX前の状態だったら、とても手が回らないしできなかったと思います。
牛島 - 続いて「MYUCA」についてはどうでしょうか?
笹川社長 - 実際にお店を出す前にテストマーケティング的にここで経営してみて、いけそうだったら実店舗経営に進むとか、そうした活用も考えられますよね。「MYUCA」は事業者さんたちと一緒に成長していけるようなプラットフォームなので、地域の横のつながりを強めていけたら嬉しいですね。それこそが大手には真似できない、地方の中小企業だからこそできることだと思っています。
店舗の業務改善から、これまでにないメタバース構築までの壮大なDXの構想を見事実現させた「アシス」。前編取材時の想像をはるかに超える仕上がりになっていて驚きの連続でした!今後の展開がとても楽しみですね。
日本初となるオープンメタバースポータル「MYUCA」についてわかりやすく紹介された動画が公開されていますので、ぜひご覧ください!
店舗名① | SCOL CAFE スコルカフェ |
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定休日 | ⽇・⽉曜⽇ |
営業時間 |
10:30~18:00 |
問い合わせ | 090-2850-2921 |
店舗名② | SCOL SHOP スコルショップ |
定休日 | ⽉・第3⽇曜⽇ |
営業時間 | 10:30~18:00 |
公式サイト | http://scol.jp Instagram→ scol.jp |
住所 |
846-0002 佐賀県多久市北多久町⼤字⼩侍1108-4 |
地図 |
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