佐賀県伊万里市の街なかに、2026年3月、新しいカレー店がオープンしました。
店の名前は「伊万里の小さなカレー屋さん」。看板メニューは、和風だしを使った金沢カレーです。かつおや昆布、しいたけの風味が感じられる、どこかほっとする味わいが親しまれています。
この店を営むのは、長年、福祉の現場で就労支援に携わってきた椎谷さん。働く人たちに、もっと多様な選択肢をつくりたい。 そんな思いから、独立を決意しました。
開業にあたっては、伊万里の人たちの支えや、空き店舗への出店を後押しする補助金も大きな力になったといいます。
なぜカレー店だったのか。そして、なぜ伊万里の街なかに店を開いたのか。
「伊万里の小さなカレー屋さん」が生まれるまでの道のりと、この街に寄せる思いを、店主の椎谷さんに伺いました。
1.和風だしが香る、やさしい金沢カレー
伊万里駅から徒歩約5分。伊万里市の中心市街地、立花町に「伊万里の小さなカレー屋さん」はあります。
観葉植物のグリーンが彩りを添える店内は、明るくナチュラルな雰囲気。お店のロゴには、かわいらしい店員さんがカレーを運ぶ姿が描かれ、親しみやすさを感じさせます。
看板メニューは、石川県金沢市のご当地グルメとして知られる「金沢カレー」。ステンレスのお皿に盛られたカレーに、とんかつと千切りキャベツを添え、先割れスプーンでいただくのが特徴です。
「伊万里のカツカレー」1,250円
カレーのルーはお店のオリジナル。かつお、昆布、しいたけからとった和風だしのうまみが広がる、まろやかな味わいが特徴です。
カレーには、伊万里牛を使った「伊万里の牛ステーキカレー」も。さらに、「チキン南蛮」や「アジフライ」などの定食メニューもそろい、その日の気分に合わせて選べるのもうれしいところです。
手前「伊万里の牛ステーキカレー」2,400円、奥「有田のチキン南蛮定食」1,300円
椎谷さん -
伊万里はご年配の方も多い街なので、若い人だけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんにも安心して食べてもらえるカレーにしたかったんです。スパイスを強く効かせるよりも、和風だしを使った、なじみのある味の方がいいんじゃないかなと思いました。
ありがたいことに、お客さんからは「やさしいカレーですね」とよく言っていただきます。もう少し刺激がほしい方には、山椒、柚子胡椒など、和の調味料で味の変化を楽しんでもらえるようにしています。
では、なぜ看板メニューに「カレー」を選んだのでしょうか。そこには、店を長く続けていくための考えがありました。
椎谷さん -
大きな人気を追うのではなく、長く安定して続けられる店をつくりたいと思っていました。幅広い年代に親しまれて、手早く提供できて、手早く食べられる。お昼休みの限られた時間でも、気軽に立ち寄ってもらえるお店にしたかったんです。
そして、僕がいなくても同じ味を出せるよう、レシピを数値化して、誰でも再現できるようにしたかった。そういう意味でも、カレーは自分が目指すお店に合っていると思いました。
ただ、家庭的なカレーは家でも食べられるものなので、お店ならではの魅力も必要です。そこで、「金沢カレー」というスタイルを取り入れることにしました。
2.働く選択肢を増やしたい。福祉の現場から飲食店経営へ
「伊万里の小さなカレー屋さん」を営む椎谷さんは、佐賀県有田町の出身。大学時代を三重県で過ごしたあと、地元に戻り、福祉施設や教育の現場などで経験を重ねてきました。
伊万里市の福祉施設「にこにこいまり」で就労支援に携わる中、大きな転機となったのが、同施設が運営する飲食店「漬もん屋 鉢瓶」の立ち上げです。
「漬もん屋 鉢瓶」は、障がいのある人たちがスタッフとともに調理や接客などの仕事に携わる、就労継続支援B型事業所。椎谷さんは約10年間、この店の運営を通して利用者さんたちの"働く"を支えてきました。
椎谷さん -
私自身、それまでは福祉の仕事ばかりで、包丁もまともに使えないような状態だったんです。料理を一から覚えて、それを施設の利用者さんたちに伝えながら、お店を運営してきました。
福祉の世界では、働いた対価を「工賃」と呼ぶんですが、お店としてしっかり売り上げをつくり、利用者さんたちに少しでも多く支払いたい。そんな思いで取り組んできました。
ただ、一般の雇用とは仕組みが違うので、収入の面ではどうしても限界があります。
もちろん、お金がすべてではないという考え方も、その通りだと思います。安心できる環境で働くことに幸せを感じる人もいる。一方で、もっと働いて、もっとお金を稼ぎたいという人だっている。大切なのは、働き方を選べることだと思うんです。
だからこそ、その選択肢のひとつとして、最低賃金を保障できる場所を、僕自身がつくれたらと思いました。
その思いを実現するために、長年勤めた福祉施設を離れ、自ら飲食店を立ち上げることを決意した椎谷さん。現在は、障がいの有無にかかわらず、スタッフがともに働くお店として、目指してきた働き方を少しずつ形にしています。
店名にある「小さな」という言葉にも、椎谷さんの思いが込められています。
椎谷さん -
これまで大勢の利用者さんや職員さんと関わってきました。そんな中で、これからの自分のことを考えたときに、まずは自分の手の届く範囲にいる人たちを、しっかり幸せにしたいと思ったんです。大きく儲けたいというよりも、一緒に働く人たちが、「ここで働けて幸せだな」と思ってくれたら、それでいい、と。
それに、もしお店がうまくいったとしても、最初に誰を幸せにしたかったのか、何のために始めたのかは忘れたくない。そんな思いもあって、店名に「小さな」という言葉を入れました。 お客さんもスタッフも、一人ずつ、一人ずつ。小さな幸せを積み重ねていけたらと思っています。
3.物件との偶然の出会い。伊万里の人たちに支えられた開業
独立を決めた椎谷さんが、店を開く場所として選んだのは、長年働いてきた伊万里市でした。
椎谷さん -
単純に、伊万里という街が好きなんです。これまで仕事をする中で、本当にたくさんの人たちに支えてもらってきたので。恩返しというと大げさですけど、自分もこの街のために何かできたらなと思いました。だから、店名にも「伊万里」という言葉は絶対に入れたかったんです。
伊万里駅周辺の風景
開業に向けて動き始めたのは、2025年のこと。
当初は、伊万里駅前の商店街にある空き店舗への出店を考えていました。建築士と設計を進め、いよいよ契約というところまで話が進んだものの、事情があって白紙に。開業の目標時期も決めていたため、途方に暮れたといいます。
ところが、その日のうちに、思いがけない出会いが待っていました。
椎谷さん -
ちょうどその日、融資の相談で地元の金融機関に行く予定があったんです。物件がダメになった話をしたら、担当の方が「ちょうど今、ここが空いているよ」と教えてくださって。
それで、今のお店のオーナーさんを紹介していただきました。
すでに何件も入居の相談が来ていたそうなんですが、僕の事業計画をお話ししたら、「本気なら貸すよ。」と言っていただいたんです。本当に不思議なタイミングでした。一日でもずれていたら、ここでお店を開くことはなかったと思います。いろんなご縁が、パズルのようにはまっていった感じですね。
以前は韓国料理店だったという店舗
店舗が決まったあとも、初めての独立にはわからないことばかり。経理や融資、雇用の手続きなど、これまで経験したことのない仕事が次々と出てきました。
そんなときに支えてくれたのが、伊万里の街の人たちでした。
椎谷さん -
本当に何から手をつけたらいいかわからなくて(笑)。商工会議所の方や、同級生の会計士、周りの飲食店の方々が、いろいろ教えてくれました。「ここに相談した方がいいよ」「こういう補助金があるよ」って。伊万里の人たちがいなかったら、今の自分も、このお店もなかったと思います。
周囲の人たちに支えられながら、開業準備を進めた椎谷さん。その際に活用したのが、空き店舗への出店を支援する補助金でした。
椎谷さん -
この補助金を知ったのは、伊万里商工会議所の創業塾に参加したときでした。対象エリアや開業時期などの条件があったんですが、無事に活用することができました。
補助金を店舗の内装費に充てられたことは、本当に大きかったですね。当初は自己資金をすべてつぎ込むような事業計画だったので、その分を運転資金として残すことができたんです。おかげで、気持ちの面でも少し余裕を持ってスタートできました。
こうして店内の改修を進め、2026年3月、「伊万里の小さなカレー屋さん」がオープンしました。
4.街の人たちに支えられ、小さな幸せを届ける店へ
オープンから半年が過ぎた今、開業後のお客さんの反応について伺いました。
椎谷さん -
平日のお昼休みには、近くで働く会社員の方や工事関係の方が来てくださっています。そういう方に手早く食べてもらえる店にしたかったので、うれしいですね。
週末には長崎県佐世保市など、市外・県外からのお客さんもいらっしゃいますし、以前働いていた「漬もん屋 鉢瓶」の頃のお客さんも顔を見せに来てくださるんです。本当にありがたいですね。
地域の人たちとのつながりは、店の外にも広がっています。
椎谷さん -
朝、店に来ると、近所の方が「おはよう。」「頑張りよるね。」って声をかけてくださるんです。この街の人たちは、本当に温かく迎えてくれます。挨拶がしやすくて、笑顔があって。そういう空気が伊万里の魅力だと思います。
最近は、街なかに新しい飲食店が増えている印象がありますね。伊万里は特定の通りに人が集まるというよりも、一つひとつのお店の魅力や、そこにいる人の魅力で人が集まっているように感じます。お店同士も、普段からコーヒーを飲みに行ったり、雑談したり。そういう日常の中で自然につながっている感じですね。
そんな伊万里の街で、これからどのようなお店を目指していきたいのでしょうか。
椎谷さん -
まずは、自分自身も、一緒に働くスタッフも、お客さんも、ちゃんと幸せにすることですね。ご飯を食べておいしかったとか、家族や友達といい時間を過ごせたとか。そんな日常の中の小さな幸せを感じてもらえるお店でありたいと思っています。
それから、いろんな世代の人たちが支え合い、新しくこの街に来た人も、何かに挑戦しようとする人も、温かく迎えられる街であってほしいですね。僕自身、ずっと支えてもらってきたので、今度は自分が何かを始めようとする誰かの役に立てたらと思います。
最後に
長年の福祉の仕事を経て、自分の思いを形にするために開いた「伊万里の小さなカレー屋さん」。物件との偶然の出会いや、地域の人たちの支え、補助金の活用など、さまざまな後押しを受けて誕生しました。
椎谷さんが大切にしているのは、目の前の一人ひとりと向き合い、小さな幸せを積み重ねていくこと。その思いが、訪れる人たちの笑顔や、伊万里の街の新たな活気につながっていくのかもしれません。
伊万里の街なかを訪れた際は、和風だしのやさしいカレーを味わいに、ぜひ立ち寄ってみてください。
地域商業活性化支援事業費補助金のご紹介
佐賀県では、市町と連携し、空き店舗等への新規出店に挑戦する事業者を応援しています。
店舗の改装費や備品購入費などを支援することで、地域の商店街に新たなチャレンジが生まれる環境づくりを進めています。
※対象者、補助対象経費、補助率・上限額、申請方法等については、各市町のHPで最新情報をご確認ください。
| 店舗名 | 伊万里の小さなカレー屋さん |
|---|---|
| 住所 | 佐賀県伊万里市立花町3421 |
| 営業時間 | 11:00~15:00(L.O.14:30)※食材がなくなり次第終了 |
| 定休日 |
火・水曜日 |
| 駐車場 | あり(15台) |
| SNS | https://www.instagram.com/little_curry_house_imari/ |
| 地図 |
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