「まざる、ひろがる、さがすたいる」をテーマとして、3月20日(土・祝)に開催された「さがすたいるフェス」。お天気の心配もよそに10時には多くの出店者や来場者が集まり、ワクワクするスタートでした。
「さがすたいる」とは
お年寄りや障がいのある方、子育て中の方など、みんなが心地よく外出できる佐賀らしい、人にやさしいまちをつくっていこうという、佐賀県の取り組みです。
公式ウェブサイトでは、この取り組みに協力する県内のお店などを検索することができ、2021年3月現在、770件以上が登録。「さがすたいるリポーター」たちが実際に各店舗を訪れて当事者目線でのリポートを更新しています。
また、誰でも参加できる交流会「レッツさがすたいるトーク」などのイベントも開かれ、会場内でのリアルな交流とインターネットを使ったオンラインでの交流の両方が活発に行われています。
始まる「さがすたいるフェス」
このフェスを企画した佐賀県の目的は、さまざまな背景をもつ人々がまざり合って、一緒の時を過ごすことで相互理解のきっかけを作りたい、というもの。
アートや謎解きイベント、マルシェなどいろいろな企画を同時に行うことで、いつもは接する機会の少ない人々が自然と集まり、まざり合います。そこから、佐賀らしい"やさしさのカタチ"「さがすたいる」の輪が広がってほしい、という思いが込められたイベントです。
ロゴは「創作活動」をお仕事とする就労支援事業所「PICFA」のメンバー・本田さんのデザイン。
ぬいぐるみのモチーフのようにも見えますが、上下左右から見るとそれぞれ違った印象を受けます。一つの視点だけで物を見ることについての問いかけも含まれていて、記憶に残るデザインですね。
「さがすたいるフェス」で行われたイベントをご紹介
バリアフリー映画上映会
シアター・シエマではバリアフリー映画上映会を実施。午前の部では「みないろ会」が音声ガイドや字幕をつけた『今日も嫌がらせ弁当』が上映されました。
「みないろ会」とは「みんなでいろんな映画を見たいからバリアフリー映画をつくる会」を略した団体名。映画愛好家たちやデジタル分野が得意な方、そして視覚や聴覚に障がいのある方などがメンバーとなり、それぞれの立場で意見や技術を出し合ってバリアフリー映画を実現しています。
この作品ではスクリーンに字幕が表れ、音声ガイドも会場全体に聞こえていました。映画の中でお父さんが近づいてくる場面など、セリフだけでは分からない部分もポイントで説明されます。
午後には『えんとこの歌』がバリアフリー上映され、上映終了後には、伊勢真一監督のトークイベントもありました。手話通訳に加え、音声認識技術を使って声を文字化し、会話を見える化するアプリである「UD(ユーディー)トーク」を活用し、リアルタイムでスクリーンにトーク内容を字幕表示し、裏では「みないろ会」のメンバーが一部変換の誤りなどを修正。
たくさんの人が関わり成り立つ上映会だと分かり、驚きましたが、障がいのある方にはどんなに喜ばれるでしょう。これが実現していることが、まさに「やさしさのカタチ」だと思いました。
トークイベント
656広場ステージでは11時からトークイベントを開催。
ゲストはさがすたいるリポーターの「momoちゃん」、さがすたいる倶楽部会員のお店から、佐賀市大和町にある「カフェフクシア」のオーナー・松園由利子さん、NPO法人Ubdobeの代表・岡勇樹さん。佐賀県職員の安冨喬博さんも「さがすたいる」の事業の立ち上げに関わったメンバーの一人として登場しました。
FM佐賀の公開生放送も同時に行われ、パーソナリティのサト☆ユミさんの進行のもと、ゲストの方もスムーズにお話ししていました。
写真左:momoちゃん、写真右:松園さん
17歳の時、脳内出血で左半身麻痺になったmomoちゃん。現在はリハビリに励みながら、SNSやYoutubeなどで当事者のリアルな声を積極的に伝えています。
佐賀の環境に対しては、「心のバリアフリーがあるといいと思う」と提案。「例えば、食事の際にナイフとフォークを使うお店だと、小さく切ってくれたら食べられます。手すりがない階段でも、手を貸してくれたら上り下りができます」。さがすたいるのステッカーが貼られていたら、その意味でも「安心」なお店だと思うとのこと。
助けを必要としている人に気づきやすい人、またそうではない人もいるはずだから、困った時、お互いに声をかけ合えるようになれば、もっと暮らしやすい社会になりそうです。"心のバリアフリー"は奥の深い言葉ですね。
一方、ドッグランを併設した飲食店「カフェフクシア」を経営する松園由利子さんは、お店側の立場から発言。犬連れに向けてもともと広めに取っている空間などが、さまざまな人にやさしい仕様につながっていることに最近気がついたと話します。また、視覚に障がいのある方の来店で「音を立ててほしい」と言われたことなど、新たな発見も多い様子。「"あっ"と気づいたら、積極的に話しかけるようにしている」という松園さん。まさに"心のバリアフリー"を実践中!
「カフェフクシア」さんは、さがすたいる俱楽部会員店舗。この日はチキンカリーやグリーンカリー、ドリンクを販売するマルシェにも出店されていました。
「NPO法人 Ubdobe」の岡勇樹さんは、東京を拠点とし、音楽やアートをベースにした医療福祉系のイベントを多数仕掛けています。当日は今回の核となる企画の一つ、福祉系謎解きイベント「Mystic Minds」を運営。
そんな岡さんが佐賀の「さがすたいる」を「世界一の取り組みになりうる」と話していたのはとても印象的でした。「ウェブサイトの掲載数をはじめ、マニュアルではないお店の関わり方、リポーターの活動、そして行政の情報などが集約された他にはないプラットフォームだと思います」と岡さん。
福祉系というと世間にネガティブなイメージが持たれがちですが、現場は楽しく、明るい。「Ubdobe」は謎解きイベントや野外フェス、クラブイベントを通して、多くの人に福祉を知ってもらう"きっかけづくり"をしているので、根底にあるものは同じだと言います。ポジティブな福祉の形を発信して入り口とすることは、確かに共通していますよね。
また、今回のテーマの一つ「まざる」ことの大切さについては、「実は混ざりたくないんですよ(笑)」と一言。「同じ方向性、好きなものなどが一致して自然と混ざることの方が好き」と持論を展開しました。お仕着せではない心のつながりが基本との考えに共感もしました。
「さがすたいる」の立ち上げに関わった佐賀県の安冨さんも岡さんの考えに近いと話します。「マルシェがあって楽しそうだから行く」それでいい、と。そこで自然発生的につながりが生まれて、興味がある人たちから広がっていくようなイメージを持たれているそうです。
「さがすたいる」の誕生については「バリアフリーやユニバーサルデザインをもっと佐賀県内に広げていくという宿題があり、進め方を考えた時に当事者の方々と会って、もっと外出しやすくなるにはどうしたらいいか、など話をしました。建物をフラットにするなどハード面の充実に意識が行きがちですが、実は困ったときに声をかけやすい雰囲気を広げていくことが大事なのではと思い、それを発信していくものにしようと思い、立ち上げました」と話されていました。
障がい者の方も居酒屋に飲みに出かけていて、バリアフリーでないお店が、車椅子を上げ下ろししたりと実はホスピタリティに富んでいることが分かり、それも誕生のヒントになったそうです。とても興味深いですね!
ステージ上のモニターにはゲストのトークがリアルタイムで字幕表示されていました。聴覚に障がいのある方にとって目から情報を得ることができるサポートとなったことでしょう。
福祉系謎解きイベント
福祉系謎解きイベント「Mystic Minds」のスタート地点「エスプラッツ」に行くと、子どもたちや親子連れが目を輝かせながらゲームの開始を待つ姿がありました。一体、どんな内容だろう?とドキドキしながら、私も参加者に付いて体験しました!
エスプラッツ2階では、視覚に障がいのある方もスタッフとして説明。2人1組となりアイマスクを着けたパートナーに、パズルを組み立ててもらうのですが、目が見えない状態の人に口頭で説明するのに苦労していました。ここでは、どんな風に伝えれば理解されるか、また道具にさわった時に目印などがあると分かりやすいなど、多くの学びがあります。暗号を聞いて、次のポイントへGO!
白山アーケードに出て、次のポイント「きこえずの森」では、聴覚に障害のある方も参加し、言葉を発さずに手話で話しかけて、ヒントをもらいながら謎を解くもの。これも普段使う脳とは違う脳を使うような感覚で必死に手話に挑戦!音声によらないコミュニケーションを体験しました。
「鏡の町」というポイントでは暗号を解きながら識字障害について知ることができました。山口佐賀県知事の姿も!
実際に車椅子に乗って、車椅子ユーザー目線で謎を解いたり、段差を体験したりするポイントもありました。ここでも積極的にアドバイスをする、車椅子ユーザーのみなさん。行列ができていましたが、待ち時間にも車椅子のたたみ方など豆知識を披露するスタッフがいたりと「やさしさのカタチ」が見え、たくさんのコミュニケーションが生まれていました。
今回の謎解きイベントは、117組(400名)がゴールをしたとの報告も!スタッフさんの一人が「子どもの参加者の方が、謎解きの暗号をすらっと解けて、頭がやわらかいんだなと改めて思いました」とぽつり。小学生高学年からを対象にした本企画に小さいお子さんが参加し、無事にゴールしていたのを見て、私も痛感しました。
まちなかアート
今回、エスプラッツやさがすたいる倶楽部のお店であるLIFT COFFEE、GRANでは、「まちなかアート」として、多くの作品を展示。
一人ひとりの個性の違いが全面に表れて、観れば観るほど引き込まれていきます。
線や色づかいが独特な絵画から、ダイナミックな造形作品まで!中にはゴミ箱にアートを施した斬新な作品もありました。
ワークショップ
656広場では、医療、福祉、子育て、男女協働など、それぞれの分野で活動する団体や企業がワークショップや体験・展示ブースを出展。
「いまパパ.~いまりパパネットワーク~」は男性の子育てにおける意識改革をテーマに活動され、パパ参加型イベントなどを企画しています。
今回は家族で作る手形ツリーアート体験ブースを出展!赤ちゃんから、おじいちゃんおばあちゃんまで、家族みんなでつくることができる、世界に一つだけの素敵な作品ができあがっていました。数年後にその時の手と比べたり、成長の証としても貴重ですね。
赤ちゃんと触れ合ったり妊婦体験をしたりする「パパ&ママなりきり体験」ブースは「ママの働き方応援隊 佐賀校」が出展。意外だったのは、高校生も積極的に参加していたこと!
生身の赤ちゃんを抱っこする際、戸惑いながらも彼らの目は未来の「お父さんの目」に見えました。当日は育児の素朴な疑問にオンラインで先輩ママが答えるなどの企画も。
さがすたいるマルシェ
呉服元町の通り全体には飲食や物販のマルシェがズラリ。さがすたいる俱楽部会員のカフェや就労支援事業所などを中心に、それぞれの自慢のメニューや商品を揃えていました。マルシェ単体でもイベントが成り立つくらい、参加店多数!オープンエアーな席も用意されていました。
それぞれの店先全てには「やさしさのカタチ」として、お店の設備面での配慮やホスピタリティに関する宣言が掲げられていました。各店の思いをうかがい知れ、このパネルも取り組みを知る、いい企画でした。当事者の方にも「安心してサービスを受けられそう」などと参考になったのではないでしょうか。
イベント終了時には圧巻の作品が完成!
いよいよ、イベント終了となる頃、PICFAのメンバー4人が一日がかりで描いたアートも完成。
真っ白な特大パネルがあるだけのスタートの頃には想像もできなかった作品が生み出され、圧巻です!この空間、このイベントの中で、多くの人に見守られながら描く、その過程と各作品を拝見し、アーティストたちの内に秘めた力を感じました。
最後に
今回のイベントに、実は約80名程の学生を中心としたボランティアサポートスタッフが参加されていたとか。困ったときにサポートで頼れる存在があることで、みんなが心地よく参加できるイベントに近づきますね!
また「さがすたいる」の存在を知らず、マルシェイベントということで来場した方もいらっしゃいました。そこでは生き生きと暮らす当事者たち、そばで応援する人たちとのさまざまな接点も生まれていて、新たな視点も得られる入り口になったのではないでしょうか。
今まで「さがすたいる」ではトークイベントなどは開かれていましたが、「さがすたいる」に関わる方が一堂に集まる機会というのは初めて。出店者の方も「県内にはこんな活動をしている事業者があるのか」など、それぞれ発見があり、刺激にもなったようです。
「さがすたいるフェス」は普段のウェブサイトという枠を飛び出し、開かれたイベントとして開催されました!いわばこの取り組みの「おひろめ」のような意味もあったのかなと思います。
「さがらしいやさしさのカタチ」を一人ひとりが考えるきっかけになり、これからどんどん多くの人に広まることを願っています。
サイト名 |
さがすたいる ~さがらしい、やさしさのカタチ~ |
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公式サイト | https://saga-style.jp/ |
ライター:髙橋 香歩