2022年1月23日、佐賀県による『さがすたいる』の取り組みの一環として、トークイベントが開催されました。題して『レッツさがすたいるトーク さがすたいる的ミライ会議』。
会場は、佐賀市にある『アルカディアSAGA』。残念ながら、感染症拡大防止のためオンライン配信のみに変更され、参加者の方々が一堂に集うことはかないませんでしたが、それぞれのインターネット環境からYouTube Liveにアクセスし、13時半、トークイベントスタート!
『さがすたいる』とは「さがらしいやさしさのカタチ」を広げていく佐賀県の取り組み。「お年寄りの方、障がいのある方、子育て中や妊娠中の方、それ以外の人もみなさんが安心して暮らせる佐賀県を作っていくことをめざしています。例えば、まちなかで困っている方へのちょっとしたお声かけやサポート、温かい雰囲気が安心して過ごせるまちにつながります」と佐賀県県民協働課の山田由美さんがご紹介。
第1部(1):各ゲストの活動とその奥にある想い
『さがすたいる』は、さまざまな方にやさしい設備やサポートのあるお店に『さがすたいる倶楽部』の会員として登録してもらい、その情報をウェブサイトで紹介しています。現在800以上の事業所が掲載、新しい施設や"さがすたいるリポーター"による記事も更新され、内容も充実!
さがらしい、やさしさのカタチ「さがすたいる」
一人ひとりが暮らしやすいまちのことを自分ごととして考えていくには、ウェブサイト以外にも何らかのきっかけが必要ということで定期的にトークイベントも開催されています。特に若い世代のみなさんに何ができるかを考えてもらいたいと、今回は、SNSなどで積極的に情報発信し、メディアにも登場する機会の多い3人が登壇されました。
ゲスト紹介
●葦原海(あしはらみゅう)さん
みゅうちゃんは、愛知県出身で千葉県在住のモデル・タレント。16歳の時、事故により両足を失ったことで車いすユーザーとなりました。NHK番組内でのファッションショー出演を機に、モデルほかテレビやラジオ、講演会など幅広く活躍し東京パラリンピック2020閉会式ではパフォーマーとしても出演。InstagramやYouTubeなどSNSでも精力的に発信しています。
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ファッションモデルだけじゃなくて、一つひとつの仕事が誰かの"モデル"になったらいいな、という意味で肩書きを"モデル"にしています。
講演の内容も、人生観や物事に対する考え方でその人のヒントやプラスになればと思ってお話ししていますね。
また、地方の観光地や宿泊施設に行ってバリアフリーの状況なども調査しています。私が一番大事にしているのは、"福祉"というよりも、その観光施設とか宿泊施設で感じた良さをどれだけを最大限に生かしつつ、さりげなくバリアフリーを見せるかっていうことです。
知らない人と話しにくいのと一緒で、車いすユーザーに触れるきっかけがないと、どうしても距離感が生まれてしまいます。不特定多数の方に見られる場というのはいわゆるバリアフリー、本当の意味でのバリアフリーが広がるきっかけになると思って活動しています。
●百武桃香(ひゃくたけももこ)さん
momoちゃんは、2015年、17歳で東京旅行中に脳動静脈奇形破裂による脳出血で倒れ、左半身の麻痺があり、リハビリに励みながら、ブログやYouTube『momoちゃんねる』、SNSなどで当事者のリアルな情報として発信しています。自著『Keep your smile ~半身麻痺になってしまった女の子が綴る、ハッピーでいるための15のコツ』も出版。福岡県と佐賀県を拠点に、モデルや講演活動、さがすたいるリポーターとしても活躍しています。
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発症前については、3歳ぐらいからずっとバレエを踊ったり、中学生の頃アメリカに留学したり、海外の大学を目指してハワイの大学のオープンキャンパスに行ったり、結構アクティブな性格でした。海外旅行好きで国際線のCAを目指していました。
その活発さは現在のSNSでの発信にも表れて、リハビリ専用InstagramアカウントやYoutubeなどを通して、障がいを持っている人とのコミュニケーションを重視しながら、現在再生医療を受けている様子もSNSで紹介しています。モチベーション高くひたむきに向き合う姿が印象的で、たくさんのファンに応援されながら貴重な情報を発信し続けています。
●太田尚樹(おおたなおき)さん
太田さんは、LGBT当事者としてエンタメサイト『やる気あり美』の編集長を務め、雑誌『ソトコト』での連載「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」ほか執筆活動も行いながら、企業向けにLGBT研修を行うなどの活動やLGBTに関するコンテンツ作品を多数つくられています。今回はファシリテーターとしてゲストのお話をうまく引き出していました。
『やる気あり美』とは気になる名前と思う方もいらっしゃるでしょう。
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"世の中とLGBTのグッと来る接点をもっと"というコンセプトで、アニメや音楽、広告などとにかく何か作るのが好きなメンバーが集まっています。ものづくりのコンセプトとして大事にしていることは、それを頭でわかってもらうだけじゃなくて、なんとなく愛着を持ってもらうとか、身近に感じてもらうとか、好きかも......みたいなことを思ってもらうこと。
3人のSNSやウェブサイトでの発信はそれぞれの思いが感じられると思います。ぜひ覗いてみては?
第1部(2):二人に共通するのはポジティブさ!
太田さん -
SNSでの発信を積極的に行うみゅうちゃんとmomoちゃん。
SNSで情報発信し始めた動機はあるの? そしてそのポジティブなエネルギーはどこから来るんだろう?
みゅうちゃん -
SNSは個人的に趣味でしたが、オープンに発信しようと思ったのはモデルを始めてから。
発信することで、それに対するコメントや反響をいただいたときに、やりがいを感じたので、もっと本格的に始めました。
みゅうちゃんの活動の背景には強い思いがあって、グラビアモデルの仕事をするのも、まずは障がいのある人がもつ常識を取っ払う目的がある、と言います。「障がいがあるからできる、できない、じゃなく、やろうという発想に至らない」と。そこに問題意識を持ち、もっとみんなが夢を描けるようになってほしい、と自ら「モデル」となって選択肢の幅を広げていく、熱がこもった主張でした。
みゅうちゃん -
自分の得意分野、不得意分野、好きとか嫌いとか割とはっきりしているタイプではあったけれど、今は、そこからさらに物理的に「できる」こと「できない」ことがはっきりして、その限られた選択肢から努力してでもやりたいことがある。選択肢が狭まった分、一番力を注ぐところがわかりやすくなって生きやすいという言い方もできるなって。
momoちゃん -
東京から転院するときに、「今後の情報を知りたいからLINE交換しよう」と何人もの看護師さんから言われて、複数の人とのLINEのやり取りは大変だから、まずブログを書き始めたのが始まりです。その後退院して1年後あたりでInstagramやってみようかな、と。日記みたいに書いていたブログだと日常生活が丸見えになってしまうので。
それと、常に心がけていたのは笑顔です。病床では、親の泣き顔を見たくなかったので、泣いたりくよくよしたりしないで「笑顔」っていうのも自分の中で決めて過ごしていました。
すると、周りの人から「momoちゃん笑顔だね」と言われて、みんなもつられて笑顔になってくれるので、私もますます笑顔になれるかなって。当時から心に決めて常に笑顔でいようと心がけています。
ファシリテーター太田さんの投げかけにも、その当時の心情を率直に話してくれたmomoちゃん。当時のことを想像するとぐっとこみ上げてくるものがありました。
momoちゃんの発信では、片麻痺やリハビリで困っている人に向けて、実践的に答えるという姿勢が満載。淡々と話すmomoちゃんにもその強さやポジティブさの原動力を知ることができました。
第1部(3):当事者以外の人に向けて
太田さん -
いろんな情報発信をするにあたって、当事者やそのサポート側の人には、その人たちの声に応える、って感じだと思うんだけど、いわゆる福祉から縁遠い人に日々何かを伝える上で工夫していることとかある?
momoちゃん -
そうですね、例えば私は割り箸を片手で割ったりおしぼりを片手で開けたりできないんですが、『ごめん、これしてくれる?』とか言いがちですよね。
「ごめん」って言われると、聞く側も、なんで謝られているんだろう、とマイナスな気持ちになりやすい。「これ、○○してくれる?ありがとう」と言われた方が気持ちいいかなと思って、気をつけるようにしています。
みゅうちゃん -
例えば三世代旅行で宿泊先を選ぶのは子どもたちだったりします。だから私は車いすユーザーに絞って発信するよりも、不特定多数の方がそこに行きたいと思える、その土地の良さとか、旅館とか施設の良さをアピールすることが一番大事だと思っていて、発信の仕方を工夫しています。
『福祉』というよりも、その観光・宿泊施設で感じた良さを最大限に生かしつつ、さりげなくバリアフリー要素を取り入れています。
意見を交わし合う3人。「バリアフリーが整っていることよりも、自分のお店はこんな場所ですよ、と発信をすること自体がバリアフリーになります。そういった方たちが来たときにどう対応するか、どう受け入れるかというバリアフリーを考える方が、時間もお金もかからないと思う」とみゅうちゃん。
発信できる人がその状況や状態だけでも発信していくことが大事だ、それは一つの優しさの表れで「心のバリアフリー」にもなると言い、"発信"は今回のキーワードになりました。
第2部(1):ハート&ハード両面からのお店の魅力
第2部では、やさしさのある取り組みをされている『アルカディアSAGA』のウェディングプランナー・久峩波音さんと『嬉野温泉 旅館 大村屋』の15代目・北川健太さんも交えてバリアフリートーク!
●久峩波音(くがなお)さん
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『社会に感動の幸せを』というスローガンをもとに「何でも挑戦していい。失敗したら元に戻せばいいだけだから」と社長は温かい目で見守り社員を育ててくれます。『予想を超える結婚式を作る』ために日々奮闘しています。
ハード面としては、段差を使わずにワンフロアでゲストの方が会場で迷った時にも、一周ぐるっと回ってくれば会場に戻れる移動できるつくりが特徴です。多目的トイレも各会場に設置しています。
チャペルに上がる前に階段がございますが、スロープを併設しており、ご年配の方にも優しい作りとなっております。
チームワーク・スタッフ力としてはどのグループの店舗もそうなんですが、スタッフがすごく仲がいいです。会議で代表が直接話をし、スタッフ同士の距離感が近いというのがずっと感じているところです
久峩さんは視覚に障がいをお持ちの新郎新婦の結婚式を担当されたとか。
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最初は弱視でいらっしゃるお二人をどのようにお手伝いするか手探り状態でしたが、新郎新婦様も「こういう時はどう動いたらいいですか」とか、前向きなお二人だったというのもあって、毎回お打ち合わせもとても楽しかったです。お二人の結婚式に対する気持ちとしても、普通どおりに挙げたいっていう言葉をよくうかがっていたんです。
例えば会場では明るいほうがお二人も歩きやすい、ただ演出としてはお客様に喜んでいただきたい。当日は先導するスタッフが、新郎様にも見えるよう白の手袋を目印に手を挙げて、当日も無事真っ暗な中、スポット一つでお二人にご入場を頑張っていただきました
●北川健太(きたがわけんた)さん
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私で15代目になる嬉野では一番古い旅館です。
湯上りに音楽を楽しむ宿というコンセプトで館内に3,000枚のアナログレコードが聴ける部屋のほか、お風呂がついているお部屋とか、古い老舗旅館の形にこだわらず、いろいろと変革しています。
私も音楽業界に行きたかったという自分の頭にあった勝手な"バリア"を取り払って、旅館の中で音楽ライブやロックイベント、DJイベントを催したり。地方に生まれても、面白い体験ができるというところで活動をしております
みゅうちゃんが以前泊まったお部屋も紹介し、いわゆる"バリアフリールーム"に見えないお部屋を作りたかった、とのこと。
北川さん -
バリアフリーの基準に達しながらも、既製の介護用品などを使わずに地元の大工さんや設計士さんとともにこうしたお部屋をつくりました。
みゅうちゃん -
わたしの発信したいもののテイストに近い!
第2部(2):バリアフリーのバリアって?
北川さんは、嬉野温泉のバリアフリーについてお話しされました。
北川さん -
うちは他の旅館に比べてバリアフリールームを作るのが遅かった。玄関も昔ながらの玄関なのでスロープなどなかったんですが、ここにスロープつけるのは如何なものかとずっと思っていたんですよ。
それまで車いすの方が来たらタイヤを拭いて、タイヤカバーをつけてあげると、あとはエレベータで行き来できる状態だったんですが、最近は玄関のデザインに合わせたスロープとか、大村屋のコンセプトを壊さないようなバリアフリールームをじっくり話し合いの上、新設しました
久峩さんも北川さんも共通して重要なのは"対話"だと言います。対話を重ねてコミュニケーションを取ることはお互いの歩み寄りにつながり、よいカタチが生まれていくのでしょう。
嬉野温泉には『佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター』というサポート体制があり、こちらも例えば地元のヘルパーさんと提携して入浴介助に来てもらえるなど、必要に応じたお手伝いをするという取り組みが行われているそうです。そして、バリアフリーに見えないのにしっかりその役割を果たすこれは他の旅館業界と比べてもかなり先進的ですね!
"バリアフリー"という言葉、車いすを使う人にとっては? みゅうちゃんはこう話していました。
みゅうちゃん -
訪れる予定の施設に5cmの段差がある場合「だからバリアフリーじゃないんですよ」と断るのではなく「5cmの段差があります」とアピールしてくれることによって「じゃあ、一人では行けないな、だけど、友達や家族に言えば行けるな」とか。もしくは「10段の階段があるから、ここは女同士では難しいけど、男友達だったら行けるな」とか。
バリアフリーかどうかって、お店側が"バリアフリーです"ってアピールするのは、ちょっと違うと思っています。行く側がどこにバリアを感じるかはそれぞれ違うじゃないですか。「俺5cmセンチの段差だったら一人で行けるわ」っていう車いすユーザーもいれば「5cmだったらいけないわ」という人もいるし。
第2部(3):振り返りでさらに深まる学び
最後に、今日印象に残ったお話をみなさんがそれぞれ発表。
北川さん -
太田さんに控え室で出たLGBTという観点からのお話。太田さんは「カップルプランは男女の前提で作られているのでしょうね」と言います。大村屋ではカップルプランは販売していないし、男性同士のカップルでも気にしていない、ウェルカムです!
太田さん -
同性同士であってもOKであることをウェブサイトのどこかに表示してくれたり、接客の時に気持ちで表したりしてくれると本当に嬉しい。
心のバリアフリーというのはそれぞれの"祝福の気持ち""歓迎の気持ち"とも言えそうですね!
momoちゃん -
『さがすたいる』で発信する立場からみゅうちゃんのお話で、"写真に車いすを載せる"ってすごくいいアイディアで学びになりました。
杖でもこの辺りに行けたと伝わる写真の撮り方も素敵だなと思って、私もそういう風に撮ってみようかなと学ばせてもらいました。
久峩さん -
私たちが最初にできる新郎新婦様へのお手伝いは、気兼ねなく入れるお店づくり。その上でInstagramでのフラットな気持ちで発信などは、それが実現できそうで参考になりました
みゅうちゃん -
こういう『さがすたいる』のようなイベントで、いろんな当事者の方とかいろんな経験をされた方が一緒に集まってお話をする機会があるっていうのは、見ようとしていなかった情報まで得られるいいきっかけになりました。
北川さんはお子さんの父親でもありることから、疑問を当事者のみなさんに投げかけました。
北川さん -
子どものころからの体験とか経験ってすごく大事。
子どもに対して今こそLGBTも含め小さいころからそれが当たり前の世界に見せるためにはどうして行けばいいのかな?
みゅうちゃん -
動画など身近なツールで見慣れていることは大事。私たちが発信をするという課題でもあると思います。
momoちゃん -
「見ちゃダメ」とか「邪魔になったらいけないからどきなさい」とか、それで終わるのではなく、これはどういう人が乗るものなんだよとか、杖をつくものだよっていうのを手短に教えられたらいい。説明の仕方に気をつけてほしい。
太田さん -
みゅうちゃん、momoちゃんの意見に同感ですが、まず、絶対的に不幸な人とか、絶対的に可哀想な人って基本的にほとんどいないと思う。どんな人も幸せのなり方が違うっていうことを僕自身は一ゲイとしてそれを公表して生きて行くってことを思ったから、すごく実感しているんですね。
だから、まずその親御さんがそういう目を向けていないかと、まず自分に問うてほしい。お子さんたちに何かを伝えていく上でも、あの人可哀想でしょとか、可哀想な人だよね、って伝えることはしない。あんな人もいるんだよ、あんな人もいて当たり前なんだよ、っていうところを伝えていくってことがすごく大事なのかなと思います。
当事者としての考え方を伝える言葉で締めくくりました。
まとめ
今回、当事者の方のバリアフリーに対する意見や、温泉旅館、結婚式場の施設側のさまざまな取り組みも聞いて、ふだん抱えている疑問やその場で感じたことをお互いに投げかけ受け止める、理想的なキャッチボールだと思いました。
新しい発見にもつながるお話があり、それは自分が持っていた"バリア"に気づけることだとも思うので、これからもこんな機会を持てる場が増えたらいいですね。
また、"○○の当事者の○○さん"などと表しがちですが、属性で見てしまうということについても考えさせられました。これについてもいろんな意見を交わし合うことが、心のバリアフリーにつながると思います。
そして、『さがすたいる』は、福祉・子育てだけではなく、教育・観光・就職・文化・まちづくりなどのさまざまな分野にも連携が広がりそう。そんなイメージを持ちました。
ライター:髙橋 香歩