9月14日に江北町のみんなの公園で開催された『R4レッツさがすたいるトークvol.1』。会場には約20人が集まりYouTubeからも同時配信。オンラインで多くの方がリアルタイムで参加しました!
「みんなが心地よく過ごせるおもてなしとは?」をテーマに、MCのサトユミ☆さんの進行のもと、車いすトラベラーの三代達也さんと、『trattoriYa Mimasaka』オーナーの鳥谷憲樹さん、『佐賀県コスメティック構想推進室』の野田恵さんに、それぞれの立場でのおもてなしの形を聞くことができました。
第一部では、それぞれが感じる心地よいおもてなしについてのトークセッションが行われ、実際に体験した心地よいおもてなしや、接客で気を付けていることについて、お伺いしました。こちらでは、第二部についてご紹介します!
第一部はこちら。
みんなが心地よく過ごせる「おもてなし」について考える! R4レッツさがすたいるトークvol.1|前編
第二部:心地よいおもてなしのために必要なこと
心地よく過ごせるおもてなしができるようになるためには何が必要でしょう?
研修を受けられる環境
野田さん -
改めて、社外に出てみて感じるのが、ANAでは研修の制度というか、学ぼうとする姿勢をサポートする制度というのはすごく充実しているということ。ユニバーサルサービスの教育ももちろんあって、実は三代さんにも、ANAのユニバーサルセミナーの講師を依頼したり、実証実験に協力していただいたりしました。
『さがすたいる』のようなイベント的に参加できるユニバーサルデザインの取り組みがあるところは、企業の人やおもてなしを生業としている人だけではなく、いろんな人がまちに関わっていこう、という仕組みがあるんじゃないかなと思います。
マニュアル化されたものがいいという訳ではないんですが、誰が対応しても、気持ちよく過ごせるようなサービスを行っていく、という意味では学ぶ環境があるというのも大きいのかもしれません。
心からの一言は一生もの
三代さん -
野田さんのお話で思い出したんですけど、一生忘れられないCAさんが一人だけいるんです。
想像してもらいたいのですが、僕たちが車いすで飛行機に乗ります。「非常時には荷物を置いて、すべり台から逃げてください」と最初にアナウンスがありますよね。その時の「その滑り台にどうやって乗る?」「滑り台でどうやって動く?」と怖さがあります。
そのCAさんはアナウンスが終わった後に、一人だけ僕のところに歩いて来て「非常時、車いすの方は、何があっても、私たちが守りますから」とおっしゃったんです。圧倒的な安心感の元で、僕はそのフライトを終えることができました。
心から来る一言っていうのは、どの業種においても特別に思えるもの。究極のところはマニュアルを超えた対応が重要でもあるのかなと思い出しました。
多様な声を聞く機会も
野田さん -
機内という空間では、全てにおいて、一度飛んでしまったら限られた中で何が発生しても対応しないといけない。車いすユーザーの方には、機内用の車いすに乗り換えていただかないといけないほど通路も狭いです。
基本的には実践や実際に即した状態で教育をやっていくので、飛行機の中で車いすを押していく訓練や、障がいのある社員も一緒に働いていて、そういった社員のメッセージを聞くとか、外国人のクルーの声を聞く機会もあったりします。
教育訓練は、何か決まった形があって、それに則って、っていうだけではなく、実際の仲間の思いを聞くとか、そういったカリキュラムなどで実践につなげるという意味では自分の実になっていると思います。
バリアフリーチェック!
サトユミ☆さん -
実践で生かせるという意味では、鳥谷さんも『さがすたいるゼミ』に参加されたことがあるんですよね。いかがでしたか?
鳥谷さん -
『さがすたいるゼミ』では、複数の車いす利用の方にお店に来ていただきました。実際にお店の中を使って、大いにダメ出しをしてもらったんですよ。
お店を開業するときに、建築家と一緒に考えながら作っていたんですけど、例えば「お手洗いはこれくらいの広さがあったらきっと使いやすいんだろうな」「車いすでも入れるスペースがある」となんとなくのイメージだけで作ってしまったんです。
ドキドキしながら、いざお手洗いを覗いてもらうと、言われたのは「あー、この向きかー」というリアクション。真正面向きではなく横向きについている便座の向きでだったんですよ。スポーツもする若い車いすユーザーの男性からも「僕でもきついと思います」と言われました。
入り口にもスロープがあれば、お店の中に入れると思い込んでいたんですけど、スロープの先に開き戸があるんですよ。そうすると車いすユーザーの方にとって、坂道の途中で扉を後ろに引くことが、かなりの負担ということが、お話を聞くまで想像もできなかったです。
サトユミ☆さん -
そういう時、誰かがいないと、ということになりますね。
三代さん -
そうですね。お店の人が気づいてくれるか、電話して難しいですと言って呼ぶか。
少しでも車いすユーザーの友達や知り合いがいらっしゃったり、そういう本を読む、映画を見るとかしていたら、気づくヒントがあったのかもしれませんね。
相互理解のためのエンカレッジという方法
サトユミ☆さん -
『さがすたいる』では、いろいろな背景を持つ方々がお互いの考えや思いに触れる機会を増やしたり、体験したりすることで相互理解を図って、相手の気持ちに寄り添った対応ができるようになることを目指していますが、今のお話をとっても、相互理解というのが必要なんだなと感じました。いかがでしょうか?
野田さん -
乗務では、お客様の前にクルー同士の相互理解が必要で、数千人のクルーが毎日ほぼ初めましてのメンバーで乗務を始めるという感じなんですね。
その組織作りとか相互理解のためにANAのクルー同士でやっているのが「エンカレッジ」です。直訳すると、元気づける、勇気づける、という活動なんですけど、具体的には「関心を持つ」「声をかける」「理解しようとする」「感謝しようとする」などを意識してやっていくことです。
何か気になったら「声をかける」。何か助けてくれたらそれに「ありがとう」とちゃんと伝えていくのも、お客様に何かを伝える前に、クルー同士でちゃんと伝え合います。
よかったことをフライト後に発表し、ほめ合う。あとは形にして渡すということで、「グッジョブカード」「サンクスカード」があります。クルー以外でも配膳の運搬業務をされている方へも「今日の作業は丁寧でスピーディーでした。ありがとうございました」など簡単なことでも、感謝を言葉にしていこうという組織づくりを推進しています。バックグラウンドの違う人を理解する上で役に立っているなあと思います。
褒めることでさらにいい循環!
三代さん -
佐賀のまちを通って、この会場に車で連れてきてもらったんですけど、『さがすたいる』のシールがお店の前に貼られていますよね。あの取り組みがすごくいいなと思うのは、ちょっと段差があるお店でも、あのシールが貼ってあるだけで、どれだけ声や電話をかけやすくなるか。ありがたい配慮ですね。
僕ら自身ができることで「褒める」というのはよくやりますが、例えば、シールを貼ってくれたおかげで「シールを見て、気づいて入ることができました。ありがとう」とか「気持ちの良い接客で美味しいものを食べて、とってもいい1日だったな」なんて会話をしたり、それを店員さんが聞いてたら「よし、もうちょっと何かやってみようかな」とか思うんじゃないかと思うんです。あのシールは、アイディア含めいい循環が生まれたりするんじゃないかと。
ただ、こういう話は、勉強したりトークショーに参加したりしない大多数にとっては気づいていない方も多いと思います。その層にどう届かせるか。僕は4年前に24時間テレビに出て、嵐の松本潤さんと浅草を散歩するという企画があったんです。その時に「浅草はこんなに坂や段差がある、入れないお店があるんだと分かった」とおっしゃった際に、僕が「イタリア人男性が、俺たちがいるとバリアがバリアではなくなるだろう、って言ってくれたんです」ってさらっと紹介したら「そういう話を教育にしたらいいと思う」って松本さんが言われたんです。
若くていろんなことを吸収する時に「車椅子ユーザーって普通にその辺にいるんだ」という現状を知れば、その子たちの人生がより広くなって、20、30年後に店開く時に階段の脇にスロープをおいとこうと考えたり、視野も広がるんじゃないかなと思いました。
一歩踏み込む勇気
鳥谷さん -
相互理解という点で感じることは、飲食店側や働く側も、日本においては、一歩踏み込む勇気が出ないことがかなり多いですね。例えば車いすユーザーの方に対して、何をするのがベターなのか、どんな質問がタブーかなど、いろんなことを頭の中でぐるぐる考えながら、結果何も行動に起こせないとか。
東京のホテル時代に一度、ご指摘を受けたことがあって。ご夫婦でいらっしゃり、ご主人は耳が聞こえない方。僕はそのテーブル担当になった時、満足していただきたいからできるだけのことをしなければと思ったんですが、必死に僕はご主人に手話で伝える奥さんの方に一生懸命話をしていました。
そのご夫婦がレストランを出られる時に「とてもよくしてもらったのは分かるんだけれど、もっと主人の方を見て話してほしかった。主人はあなたの声が聞こえないけれども、一度も主人の方を見ないと、主人はまるで自分がここに存在しないかのような気持ちになってくる。耳が聞こえないけれど、口の動きでわかる場合もあるし、障がい者でも、もっとその人を見て対応してくれた方が私たちにとってはいいのよ」と優しく教えてくれました。
サトユミ☆さん -
その時の一言があったからこそ、今の接客業についても、忘れずに生かせているということがありますね。
鳥谷さん -
まさに三代さんがおっしゃった教育というところに紐づくんでしょう。お客様からの「教育」のワンシーンでした。
子どもの社交性
鳥谷さん -
子どもたちにということで申し上げさせていただくと、5歳と3歳の子どもがいるのですが、スーパーへ買い物に連れていくと、挨拶できるし、レジで「お願いします」「ありがとうございます」が言えるんです。
今は社交性があって、このまま大きくなればイタリア人みたいに「目の前に困っている人がいたらどうしたんですか?」って言える大人になっていきそうな気がするので、子どもたちが持っている自主性みたいなものが消えない教育のあり方は大事なのかなって考えさせられます。
サトユミ☆さん -
小さなお子さんとかに「これはどうなの?」「あの人はどうしてああなの?」と言われることがあると思います。
その時に、「こうなんだよ」「こういうときは手を差し伸べるんだよ」「当たり前のことなんだよ」「あなたも転んだら誰かが声かけてくれるでしょ」って自然に返せる大人でありたいなと思いました。
2部のトークでは、心地よいおもてなしについて「こういうおもてなしができたらいいな」とは思うけれど、何から始めたらいいのかわからない、という人のためにヒントになるキーワードがたくさんありました。研修、具体的な手法、そして褒める、勇気などの心がけでより磨かれていくおもてなし。そして子どもたちの教育に目を向けたお話も。ふだんの生活や身近に接する人との関係にも生かせそうな「できること」「実践」のイメージがさらに広がりました。
参加者からの質問
Q.佐賀に来てもらう人にまち全体で安心して過ごしやすい数日間を送っていただくため、お店や施設以外の人がどんなことをすればいいか、何かアイディアはありますか?
三代さん -
事例からお話しすると、1つは今年5月に東京都の錦糸町の道路をジャックして『インクルーシブパレード』というのをやったんですよ。障がい問わず全国から何百名と集まってのパレード。なんとなく面白そう、と車いすユーザーの友達と歩くことで、片手だけの車椅子ユーザーの方もいれば、杖の人もいるし、サポートしないといけない状態が自然にできあがって。
「私半身麻痺なんだけど、杖を持ってる手の方でサポートされても邪魔なの。麻痺している方が重要なのよ」と会話をしているのを見た時に、何か生まれているという気がしたんですね。
どこかエンタメ性があるようなものをやることによって、ちょっと楽しみ半分で行って気づいたら車いすユーザーの友達ができて、その友達と遊んでたら困ってることに対する会話の中で「実はトイレの時こうで......」とか教えてもらったり、セミナーよりエンタメを通して学べるものもあります。佐賀がどんなエンタメがあるのかわからないけど、そういうのが生まれたら、僕は遊びに行きたいですね。
鳥谷さん -
教育とも繋がると思うんですけど、やっぱり成功体験が必要だなと思って。道聞かれた、教えてあげた、それで自分はその後いい気持ちになったというような経験が絶対的に少ない。聞く人も教えてあげたという経験もないから動き出せないという人が多い。
イタリアの場合、日常的にそれがあふれていて、多くの市民がやったことがあるから、道を尋ねられたりするとウヒャヒャってまちの自慢をして歩き回るんですよね。草の根運動みたいな感じで、成功体験を積み重ねることが一番の近道かなとも感じました。
心地よく暮らせる街に必要なこと
トークセッションの最後に、『さがすたいる』の思いをくんだ、心地よく暮らせるまちに必要なことやこれから期待すること、問題提起、感想などを3人の登壇者から伺いました。
三代さん -
今回の話に参加しているだけでも一歩を踏み出しているという自信にしてもらいたいです。友人の講演で言われていたことですが、困っていそうな人に声をかけて、もしかしたら機嫌が悪かったかもしれない。でも「もういいよ」と思わずに自分だけは褒めてください、と。やり方は間違ってるかもしれないけど、自分が困っている人に対して動けたというその行為に対しては、自分を褒める。それが一歩を踏み出せるきっかけになるのかなと思います。
鳥谷さん -
接客の世界からは、周りにまずは関心を持つこと。自分のこと、ケータイしか見ないのではなく、あえてキョロキョロしてみる、ゆっくり歩くでもいいですし。なんだか今の時代、スピード感あふれすぎて、他者に興味を示すというちょっとしたことすらも減っている気がするんですよね。自分の周りの世界に関心を持つことが第一ステップ。立ち止まるのは勇気かもしれませんが、立ち止まる重要性を最近はよく考えています。
レストランシーンでは、マニュアルなんかなく、十人十色なんですよね。その人が何を欲しているか、というのを常に考え続けることをやめないこと。その人を見て、その人が何に喜んでいるか、つぶさに見るっていうのはそんなに難しいことではないはず。コミュニケーションから生まれて来るものなので、佐賀のまち全体でそれをどんな人でもやれるようになっていくといいなと思います。
野田さん -
いろんな人に会い、いろんな経験をして、いろんな友人もできて経験と知識が増えてくると、どうしても、障がいをお持ちの方に接したときなど、これまでに会った人の顔が思い浮かんでしまうことがあります。
私の場合、時としてそういった決めつけが邪魔になって、固定観念や決めつけ、こういう風にしたら喜んでもらえたな、今回もやってみようではなくって、そのとき自分の目の前にいる人を大切にしようという気持ちでいるといいまちになるんじゃないかなと思います。
会場での参加者からの感想
Aさん -
自分の知らない世界のお話を直に聞きたかったので参加しました。トークの横で行われている手話にも目が行き、あれほど集中して、忙しく手を動かし続けるなんて、すごい!とずっと注目していました。みんな、一人ひとりちょっとしたことで一歩を踏み出せるようになればいいと思います。
Bさん -
自分が思っていた以上に感動しました。レストランの鳥谷さんが耳が聞こえない方に接しての失敗談を話してくださり、そういう経験も生かしいろんなことに配慮しながらお仕事をされているのだと分かりました。
車いすを使ってここまで来ましたが、電車で介助のための予約とかを取らなくても出かけられる設備が整ったらいいなと思いました。
まとめ
たくさんのお話の中で、おもてなしやコミュニケーションに関するさまざまな学びがありました。三代さんが世界の旅で経験されたことでの壁がなければ「見る」「気づく」そしてすぐ体が「動く」ことができ、海外の方々に学びたい一つの文化であると感じました。
またこの気づきから始まるおもてなしを鳥谷さん、野田さんもじっくりと大切に育ててこられて今があるのだと思います。
「心地よく暮らせる街」のためにこれからも楽しみながら、学びながらできることはいろいろありますね。
配信の様子はこちら
文章:髙橋 香歩
写真:相馬 千恵子