今回の『レッツさがすたいるトーク』は、佐賀市柳町の佐賀市歴史民俗館内にある『浪漫座』で開催されました。
FM SAGAでおなじみのコガ☆アキさんが司会を務め、明るい雰囲気に包まれる会場。YouTubeでのライブ配信は、映像と音声だけでなく、手話と要約筆記も同時配信され、さまざまな人へのやさしさがカタチになっていました。
今回のトークテーマは「誰もが行きたい場所へ行ける佐賀をつくろう」。どんな声が聞けたのでしょうか。
混ざり合うことへの思い
『さがすたいる』は、6年前に佐賀県庁の担当者がさまざまな当事者の方にヒアリングしたことが始まり。フラットな床やキッズスペースなどそれぞれのニーズはあるものの、何より温かく迎えてもらえるウェルカムな雰囲気を希望する声が多かったとのこと。『さがすたいる』では"ハードはもちろんハートを大切にする"機運を高めたい、とWebサイトやSNSでの情報発信、イベント開催などに取り組まれています。
初めに『さがすたいる』について紹介された、県職員の山田さん自身も小さなお子さんがいる子育て当事者。
「赤ちゃんを連れて外食する時に困っていて。ネットで検索して、端の方に座敷があるという情報を頼りに家族で出かけていました。お店の『やさしさのカタチ』を私たちが発信し、ここに出かけてみようというきっかけや、さまざまな人が混ざり合う機会が増えればいいなと思います」。
そんな想いが込められた『さがすたいる』Webサイトには、障がいのある方はもちろん、お子様連れの方などにも役立つ情報が集約されています。
ゲスト紹介
落水洋介さん(株式会社PLS代表取締役)
1982年、北九州出身。PLS(原発性側索硬化症)という100万人に1人の難病に31歳で発症する。PLSとは、身体に命令を伝える神経が少しずつ壊れ、手足や口が動かなくなっていき、喋ることもできず寝たきりになる病気。目標は寝たきりになってもできる仕事をいっぱい作り出し、仲間に囲まれながら毎日自由に楽しくココロが笑顔でいられること。僕の寝たきりの未来は明るい!今が人生の中で一番幸せです。(チラシプロフィールより)
会場でも「おっちー!」と親しみをこめて呼ばれる落水洋介さん。周りを笑顔にするユーモアで、会場の緊張感がほどよく和らぎます。「Peace Love Smile」と自らの病名をポジティブなスローガンにしグッズも展開中。お出かけする際にはスポンサー名が入った車いすや帽子を愛用し、その姿はまるでプロのスポーツ選手のよう。
「自分のことを『車椅子のかわいそうな人』というような腫れ物に触る感じではなく『ただのおっさんじゃん!』と思える体験をしてもらえると思う」。
多い年には100校以上回るなど、講演活動も精力的に行っています。北九州市の折尾駅のそばにある2棟の家『おっちーハウス』も運営。ワークスペースなどのレンタルも行っているそうです。
中嶋弓子さん(フィランソロピープロデューサー)
1986年、京都生まれ。オリンパスで海外営業などに従事後、2014年に日本財団入職。難病の子どもと家族の支援をはじめ、刑務所出所者や障害者の就労支援、助成申請の支援などを担当。のべ300団体以上の新規事業開発や資金調達、PR活動をサポート。2022年9月に独立後、埼玉県入間市など多様なセクターのアドバイザーや「明日から使える!ファンドレイジング講座」を開発し、研修を行う傍ら、「東京おでかけプロジェクト」を主宰。難病の子どもと家族のおでかけイベントを各地で開催している。(チラシプロフィールより)
「日本は世界で一番子どもが死なない国で医療技術が進んでいます。ただ、難病患者の家族には『家族一緒に外出・旅行をする』『自分の時間を持つこと』といった医療や福祉、教育に当てはまらない部分のご希望、お困りごとが上位にあります」と中嶋さん。
「フィランソロピー」とは人々の幸福感を改善していくという意味で使われます。中嶋さんが目指しているのは、社会の空気を変える、街の人の目を変えていくこと。専門家ではない「寄り添う、揺れる、同じ方向を向く」ような視点でできることがある、と独自のプロジェクトを企画し実行されています。
行ける場所<行きたい場所
中嶋さんは「本屋へおでかけプロジェクト」「銀座へおでかけプロジェクト」「お寺へおでかけプロジェクト」の3つの部門で活動を展開されています。
「本屋へおでかけプロジェクト」では、医療用のチューブを使用しているため、周りの人の目が気になるなど、お出かけしづらい当事者の方に、ゆったりと本屋を冒険できる時間をシェア。また、当事者以外の方と混ざりあう時間も設けています。「銀座プロジェクト」では、障がいのある子のお母さんが"○○ちゃんのお母さん"ではなく、名前で呼び合い、おしゃれして自分の時間を楽しんでもらうことにスポットを当てています。
「行ける場所」<「行きたい場所」という当事者の希望を大切にされています。何をしたいのか、どこへ行きたいのかという当事者やその家族の想いに寄り添った取り組みです。
他人も自分も決めつけない
コガ☆アキ -
日本人には気遣いの文化があります。自分の感覚で勝手に決めたり遠慮したりしがち。
もっとフラットに考えることが大切ですね。
中嶋さん -
そうですね。コミュニケーション一つで変わる場合もあります。
山田さん -
私たちはまちの人と当事者の真ん中にいるのかなと思います。さがすたいるの担当になる前は困っている人に声をかけることにためらいがあり、なかなかお声かけできませんでした。
たくさんの当事者の方ともお話ししてみて、お願いすることが申し訳ないと思っていらっしゃる方もいるんですね。お互いすれ違いの状態だったな......と。困ったときには一方的ではなく相互に助け合っていけるようなマッチングができたらいいですね。
コガ☆アキ -
手話を習っているパーソナリティの友人がいます。トークイベントに耳の聞こえない方が参加されると知り、手話通訳さんに来てもらいました。すると、その人たちも一緒のタイミングで笑ってくれるんですよ。その時はすごく感動しました。後から「通訳を入れてくれてありがとう」とお礼のメッセージもいただきました。
山田さん -
そういうことが当たり前に行われる世の中にしていきたいですね。
中嶋さん -
マイノリティ、マジョリティと言われたりしますが、いつ誰がマイノリティという立場になるかわかりません。
そういう想像力を持って、笑いながら助け合っていければと思っています。
コガ☆アキ -
おっちーも全国を飛び回って思うことはあるでしょう?
落水さん -
講演をしていると、やっぱり病気や障がいのない方は、みんな他人事に感じていると思います。ただし、いつ何が起こるかわからない。将来、年をとって体が動かなくなったりすることを思えば、長い目で見ればみんな障がい者。常に自分や自分の大切な人のことを思い浮かべ、そんな視点で社会を見てほしいな。バリアフリーやユニバーサルデザイン、誰かのことを知ろうとすることが未来につながっていくと思うんです。
聞くことが第一歩
コガ☆アキ -
知ることが大事ですね。今日のお話でコミュニケーションも大事だと改めて思いました。聞く力を持ちたいです。
落水さん -
障がい者の中にもいろんな性格、状態の人がいます。車いす生活になったばかりで心を閉ざしている人もいます。対応が悪いことがあっても、どうか傷つかないでほしい。どんどん声をかけて、聞いてもらいたい。1週間、1ヶ月経てば、知れる、感じられる、触れ合える、それだけなんだなって思います。
コガ☆アキ -
手話での会話に加わっていましたが、はっきりものを言われることがありました。でも悪気があるわけじゃないんですよね。
落水さん -
短い会話で表現するので、イエス、ノーをはっきり言わないと流されてしまう。それと聞こえない人は手話ができると思われがちだけれど、実は手話ができる人は少ないです。でもスマホがあれば意思疎通ができます。ちょっと知っているというのは超大事です!
山田さん -
一人ひとり思っていることは違うので、押しつけやお節介にならないよう、ぜひ会話を交わしてお互いに必要なことを知ってほしい。そういうコミュニケーションが大切なのではというお話を常々させていただいています。
中嶋さん -
私が企画するイベントの中で心がけているのは「普段友達にやっていないことをやるのはやめよう」ということです。例えば荷物を全部持ったり、カレーパンを食べやすいように細かく刻んだりなどと構えず、日常的な小さなお声かけでいいと思っています。
落水さん -
基本的に一人で出かけている障がい者は一人でも大丈夫。声をかける勇気がない人は遠くから見守っていてほしいです。万一断られても、ぜひ自分のことを褒めてあげてください。
お出かけと発信の好循環
山田さん -
当事者目線で発信してもらえると声かけしやすい雰囲気づくりに繋がります。それぞれの「ここに行けたよ」という情報がきっかけで、おでかけ先が1つ、2つと増えるたび、新しいお店の店員さんも声かけの方法が分かります。お出かけ中のバスでもお店でも会話することでお互いを知ることができ、当事者の方々の関係者が増えていくといいですね。ワクワクしたり、楽しくなったりするように見せ方など工夫も大事にしながら、仲間を増やすようなきっかけづくりを進めています。
中嶋さん -
素晴らしいです。47都道府県で探しても、なかなかこういう取り組みはないですね。
参加者やゲストの質問・感想タイム
会場では隣の参加者とのトークタイムも設けられ、思い思いにコミュニケーションをとられていました。
その中で出た感想や質問も興味深かったです。
男性参加者 -
僕は車いすユーザーです。おっちーさん、中嶋さん、ポジティブだなと。話を聞いて、僕もポジティブになりました。
今度、一人で沖縄に行きます。ドキドキしますが、何かアドバイスを!
落水さん -
"不安"を楽しんでね。「俺、不安がってんじゃん!うけるー!」と思えばいいです。
中嶋さん -
『情熱大陸』のテーマを脳内で流す。私はよくないことがあっても、番組の主人公になります。いろんなBGMを流してみます。
それぞれの「不安」の対処法を教えていただく場面もありました。
最後に、登壇された方々から、一言ずつ感想を話されました。
落水さん -
普段、障がいを抱えている方々と一緒に集まることが多いので、こうしてラジオをきっかけに参加していただけているのは、とても嬉しいです。普段は接する機会がない人に広がっていくと思うとやる気が出ます。
YouTubeなどでも発信しているので、ぜひご覧ください。
中嶋さん -
こういう場に来て自分も何かやらなくちゃって負担になったりせず、まずは自分を大事にしてください。その次にちょっと余裕ができたら、何か声をかけるとか情報をシェアをしていただければと思っています。繋がりたいと思ってくださった方はぜひ「東京おでかけプロジェクト」のフォローもお願いします。
山田さん -
こうして登壇させていただくのも一つのご縁で、ありがたいと感じています。『さがすたいる』の輪を広げていく仲間になっていただければ心強いです!
今後もイベントの参加やウェブサイトへのお店のレビュー投稿など、お待ちしています。
まとめ
「行ける場所」ではなく、自分のあるがままの「行きたい場所」へ。
それを実現するのは、街の人のあたたかいまなざしと、そのために何ができるかと寄り添ってくれる気持ちがあってこそ。
当事者、支援者、街のお店、行政などたくさんの人が自然と支え合いながらやさしさのカタチをつくりだしていくことが必要だと感じました。
ぜひ今後のさがすたいるの動きもチェックしてみませんか?
文章:高橋 香歩
編集:相馬 千恵子