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【下岩屋猿浮立】浮立の音色が町に響く〜地区に伝わる伝承芸能〜

佐賀県嬉野市内には「風日(かざび)」または「風願成就(ふうがんじょうじゅ)」などと呼ばれている伝統行事があることを知っていますか?

立春の2月4日から数えて210日目にあたる9月1日は台風や風水害が多い日と言われており、各地域でその前日の8月31日に風止めや五穀豊穣を祈願して浮立を奉納しています。

それぞれの地区を笛や太鼓、鉦などを鳴らしながら歩き、最後は地区に鎮座する神社「氏神」の元へ。他の地区(氏子)も集まり、一緒に鉦や太鼓、笛を吹き競演することもあります!

今回ご紹介するのは、嬉野市嬉野町の下岩屋(しもいわや)地区に伝わる伝統芸能「下岩屋猿浮立」です。

毎年、氏神である熊野神社を目指し、地区内を練り歩きます。

下岩屋地区に伝わる「猿浮立」

8月31日の本番に向けて、練習が始まったのは8月20日。

下岩屋公民館には、地元の子どもたちや浮立を教える大人たちが集まっていました。

下岩屋猿浮立には小学校3年生から参加することができます。

この棒を持って踊っている子どもたちの役割は「猿」

笛や太鼓、鉦に合わせて元気よく踊ります。

猿浮立の始まりは400年以上前。

大きな台風の襲来に気づいた村人たちが熊野神社に集まり、笛や鉦、太鼓を打ち鳴らし風除けの祈りをささげていました。

そこに小さな猿や大きな猿がたくさん集まり、音に合わせて一緒に踊りだしました。
いつの間にか雨風はおさまり、被害もなかったことから「これは猿たちのおかげにちがいない」と信じ、それ以来、風鎮祭や田祈祷・雨ごい・願成就などいろいろなお祭りで村人たちは猿の姿に扮し、鉦や笛などに合わせて舞い踊るようになったそうです。

下岩屋公民館に飾られている写真。

一時途絶えた時期もありましたが昭和55(1980)年頃から地域の人々によって復活。
「下岩屋浮立保存会」も発足し、メンバーは現在約30名。保存会のメンバーが世話役となり、下岩屋地区みんなで浮立の伝承を行っています。

教え、伝える

下岩屋猿浮立の曲は全部で30曲!そのうち、現在練習しているのは16曲。

ゆっくりとした曲から、すこしテンポが速い「中シャギ」、さらにテンポが速い「本シャギ」と大きく3つに分かれています。

大きな太鼓は「大太鼓」と呼ばれています。大太鼓は、ただ打つのではなく、曲に合わせて大きく体を動かすなど決まりがあるようです。

練習では4人の子どもたちが交代で太鼓を打っていました。まだ練習して間もない子は、大人が太鼓のリズムを口と手で伝えます。中学生のお兄さんの姿を見て勉強する姿もありました。

鉦は6つ。一番大きなものが「一番鉦」で一番小さなものが「六番鉦」と呼ばれています。

鉦を打つしなやかな動きも見せ場のひとつ。大先輩たちの指導にも熱がはいります。

一番小さな「六番鉦」は曲の基本となるリズムを刻み続けます。

チッカンカン、チッカンカン......

少しでもずれると全体のリズムが崩れるため、重要な役割なんです。

小さな太鼓は「地太鼓」と呼ばれています

浮立の曲に楽譜はありません。

子どもたちにわかりやすく教えるために、こんな工夫が。

カタカナの横に「右」「左」とタイミングが記され、色で分けてあります。

くるり、くるり......撥さばきも華やかに。

皆さんここで気づかれる人もいたかもしれませんが、「笛」にも楽譜がありません。

耳で聞きながら指使いなどを見て覚えているんです!

練習中は真剣。

休憩中は笑いが絶えません。先生と子どもたちの仲の良さを感じられます。

リハーサル

そして、練習最終日の8月29日。いよいよ衣装を着けてリハーサルです。

衣装が配られると、子どもたちのテンションが上がります。

猿のお面もつけて、最後の練習です。

本番

そして迎えた8月31日。12時に集合し衣装に着替えます。13時からいよいよ出発です。出発前から、子どもたちは元気いっぱい。

保存会のメンバーや地元の大人が参加し、鉦や太鼓を運ぶ手伝いをします。

下岩屋公民館前で浮立を踊ってから出発。

笛や太鼓を打ち鳴らしながら、地区内を練り歩きます。

浮立の音色が聞こえると、地域の方々は外にでて一行を見守ります。

この日はあいにくの天気で途中雨が降り出すこともありましたが、最終地点の熊野神社まで子どもたちは一生懸命役割を務めていました。

継ぎの世代へ。各地に伝わる伝承芸能を披露「第2回 佐賀県伝承芸能祭」

佐賀県内15の団体が一堂に集まり、地域の伝承芸能を披露するイベント。

こちらでも「下岩屋猿浮立」が披露されるということで、ご紹介します。

佐賀県伝承芸能祭 公式ホームページ

佐賀県内には浮立をはじめ、多くの伝承芸能が存在しています。

郷土色豊かな伝承芸能は、地域の歴史と風土に育まれた地域の宝。近年の少子高齢化の進展や住民意識の変化などにより、次世代への継承が困難になりつつありますが、継承意欲の維持向上や伝承芸能の理解・振興を図ることを目的として開催されています。

佐賀県内各地を代表する伝承芸能のほか、広島県「芸北神楽」、長崎県「長崎龍踊り」もご覧いただけます。全席自由、入場無料。タイムスケジュールや詳細は公式ホームページに掲載されているのでご覧下さい。

昨年の記録

昨年20年ぶりに開催され、会場はほぼ満席!

各団体の披露が終わるたび、大きな拍手や歓声があがりました。

下岩屋猿浮立も出演しますよ!!

まとめ

伝承芸能は、地域の歴史と風土に育まれ、人々の教養や娯楽、儀式や祭事などを催す際に行われてきたものと言われています。

今回ご紹介した嬉野で長年続いている伝統芸能「下岩屋猿浮立」も、風止めや五穀豊穣を祈願して行われていたもの。時代と共に、継承が困難になり、なくなっていくものがある中、こうやって保存会の方を始め、子どもたちが受け継いでいく姿はとてもいいなと感じました。

次の世代に繋いでいきたいという人々の思いによって地域に伝わる芸能。

それぞれの団体の思いを会場で感じてみてください。

情報

イベント名

佐賀県伝統芸能祭

開催日時

2019923日(月)

10001700

場所

佐賀市日の出1丁目21ー10(佐賀市文化会館 大ホール

公式サイト

http://saga-denshou.jp

地図

ローカルフォトグラファー

松本 聡子

1984年 鹿島市出身、嬉野市在住。図書館司書、CATV、嬉野市の情報発信業務を経て「ローカルフォトグラファー」の活動を志す。主な...

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