皆さん、こんにちは!長崎県波佐見町に住んでいるライターの「あお」こと、平野蒼です!
長崎県で唯一の「海のない町」に住む私が憧れ続けてきた場所、それが唐津。唐津が好きなあまりプライベートや仕事で頻繁に足を運んでいたところ、ご縁あって北村朱里さんと出会い、この連載を"あおとあか"というコンビで一緒に書かせていただくことになりました!
というわけで今回からは、まだまだ唐津を知りたい私あおが、「唐津ってどんなところ?」を知るべく気になるスポットに出向き、会いたい「人」にお話を伺います。唐津に住んでいないからこそ見えてくる、唐津の魅力を皆さまにお届けしていきます!
海岸で開かれる瞑想会にやってきた
どうやら唐津の海岸で、定期的に行われている「瞑想会」なるものがあるらしい。
そんな怪しげにも感じられる情報をキャッチし、興味を惹かれてしまった私は、実際に参加してみることにしました。
この会を主催しているのは、唐津に本拠を置く企業「Health & Tech株式会社」代表取締役である山田航世さん。瞑想会にはいったいどんな人が集まり、どんな目的で開催されているのか。そして、山田さんは何者なのか......
謎多き瞑想会の真相に迫ります。
「Health & Tech 株式会社」とは......
2024年7月26日、唐津出身のメンバーが中心となり設立。「組織メンタルマネジメントで経営がより簡単になる」との考えのもと、ブレスワークセッションや組織マネジメント研修を活用したメンタルヘルス事業を手掛ける。代表取締役の山田航世さんは唐津市出身。早稲田佐賀高等学校を卒業した後、オリンピック選手のメンタルトレーナーとして従事した経験を活かし、メンタルヘルス事業の展開やオンライン塾の開講など、幅広く活躍している。
瞑想会のスタートは朝の7時。
まだ薄暗い中、波の打ち付ける砂浜にぞくぞくと人が集まってきました。
しかも、参加者の半数以上は高校生が占めていて驚きます。
どんな体勢で座っても良し。寝っ転がっても良し。それぞれがリラックスできる体勢をとったら、いよいよ瞑想会のスタートです。
瞑想には数えきれないほどの種類があるらしいのですが、その中で山田さんが取り入れているのは「ブレスワークセッション」と呼ばれるもの。普段より早いペースで意識的に深い呼吸を続けることで、心や体のさまざまなブロックを解き放つ効果を持つセルフセラピーなのだそう。30分ほどかけて、じっくりとブレスワークセッションが行われていきました。
「はい、鼻から息を吸って。止めて、1、2、3......。次は口からゆっくり吐く。1、2、3......」
山田さんの穏やかな声に導かれるまま、目を閉じて規則的な呼吸を繰り返していきます。ゆっくり、そしてだんだん速く。ただ息をしているだけなのに、なんだか心地よいかも?
そして、山田さんは続けます。「それでは2分間呼吸を止めてみて」。
え! 2分間なんて無理でしょ⁉ と完全に疑ったままとりあえず息を止めたのですが、30秒ではまだ余裕、1分でもまだいける、1分10秒、20秒......あれ、なんで? 苦しくない!
2分経過の合図があった頃には、不思議と「自らの呼吸をコントロールしている」という感覚になっている自分がいて、とても驚きました。
ブレスワークが一段落すると、瞑想会は次なるステップへ。目を閉じて呼吸を続けたまま、自分自身の内面をさらに見つめていく時間です。
「自分が目標を達成できることを思い描いてみて」
「充実感を得た時の感情をここに持ってくるようなイメージで」
さっきまでの山田さんの穏やかな声に力強さが加わり、眠っている自分の中の何かかが目覚めさせられるような気がしました。高校生の皆さんもこうして静かに自分をブラッシュアップしているのかな。
波の音、冷たい潮風、こんなにたくさんの人が集まっているのに不思議と静かな空気、その中に響く山田さんの声。
「無理はしないで。でも、あと少し求めさせて」
そうか、私、まだいけるのかも? そんな良いイメージの自分が頭の中に投影されるような感覚になっていきます。
「では、ゆっくり目を開けてください」
約1時間ぶりにみんなが目を開けたところで、瞑想会は終了。驚いたのは、目を開けた時に景色がすごくくっきりと見えたこと! 「呼吸」で人の心や体はこんなに変わるのか。瞑想会、すごい。そしてますます山田さんへの興味が盛り上がる私でした。
山田航世さんに聞く!瞑想会が持つ可能性、そして思い描く唐津の未来像とは
というわけで、いよいよ瞑想会の主催者である山田航世さんにお話を伺っていきます。
山田航世さんってどんな人?
――山田さんは生まれも育ちも唐津市だとお聞きしました。子ども時代はどんな風に過ごされていたんですか?
山田さん(以下山田):釣りがとにかく大好きだったので、毎日のように海に遊びに行っていました。当時はキスがよく釣れていたんですよ。僕が釣ってきたのを母が唐揚げにしてくれていて「あれは最高に美味しかったよね」なんて、今でもよく家族と話します。
祖父もよく釣りに連れて行ってくれたのですが、楽しみすぎて祖父が車で家に迎えに来てくれるのが待ちきれなくて、親にも言わず一人で家を飛び出して後で怒られたことも今となっては良い思い出です(笑)
――子どもの頃から自然あふれるふるさとが大好きだったんですね。高校までは唐津にいたそうで。
山田:早稲田佐賀高等学校(以下、早稲田佐賀高校)でテニスに打ち込んでいました。自らを鍛えて努力を積み重ねるという、人としての基礎をつくってくれた大切な僕のルーツです。
――そんな山田さんも高校卒業後は唐津を出られたんですか?
山田:海外留学していた姉の影響もあって、大学進学を機に唐津を出て台湾に移り住みました。テニスを続けたかったので体育大学を選び、学部はスポーツプロモーションを専攻して本格的に学びました。一方で起業したいという夢もあったのですが、大学1年生でそれを実現。テニスではインカレ出場を果たすこともできまして。
――すごい! すべてが順調で......
山田:自分でもそう思っていたのですが、そこから大きな挫折を経験しました。1、2年生の時のハードワークが祟って、うつ病に陥ってしまったんです。あんなに好きだった勉強にも仕事にもテニスにも打ち込めない時期が続いて、もう本当に辛くて。
そんな状況を一変させてくれたのが、3年生の時に学んだ心理学でした。その中にあったメンタルトレーニングというのをやってみたところ、自分でも驚くほどに心が回復していったんです。もしあのとき心理学を履修していなかったら、今のような人生はありませんでした。本当に救われたと感じています。
――よかった......! それが山田さんにとって大きなターニングポイントだったわけですね。
山田:それ以来、メンタルトレーニングのことを伝えていくようになりました。すると興味を示してくれた方がいて、オリンピック候補生をメンタルトレーナーとして指導する機会をいただいたんです。指導した選手が実績を残してくれたこともあり、講演だったりトレーナーとしての仕事が広がっていきました。教え子がパリオリンピックで金メダルを取ったときは、本当に感動したなあ。
――パリオリンピック! ご自身が救われた経験をもとに、世界の舞台で輝く方たちを陰で支えていたんですね。
瞑想会は自分自身の基礎を培う場所
――こうして世界で活躍してきた山田さんが、今また唐津での活動に力を入れるようになった経緯を聞かせてください。
山田:僕のメンタルトレーナーとしての実績を知った母校・早稲田佐賀高校の方から声をかけていただき、テニス部の外部コーチを任せてもらうことになりました。それをきっかけに学校の授業や講演会などで登壇させてもらう機会が増えまして。
――高校生に話をする時、どんなことを思っていたんですか?
山田:「自分が高校生だった時は、大人にどんな話をしてほしかっただろう?」ということを常に考えていました。なので例えば「早稲田大学に入れても、卒業後に必ず希望の進路に進める保障はないんだよ」みたいな、現実的な話もしていて。こんなことを言う大人はあまりいないかもしれませんが、ちゃんと現実を知ったうえで「じゃあ、自分は今と未来をどう生きる?」と考えることが本当に大事だと思うんです。
――わあ、そんな大人、私も高校生の時に出会いたかった。
山田:そういう僕の想いを受け取ってくれたのか、学生たちからけっこう評判で。早稲田佐賀高校で過ごしている生徒たちは、クラスメイトでありながら、お互いが早稲田大学を目指すライバルでもある。県外から進学してきている子も多く、いろんなプレッシャーを抱えて日々を過ごしていると思います。そんな中で頑張っている母校の生徒たちに、もっと良い刺激を与えられないかな、と考えた結果、生まれたのが瞑想会なんです。
――だから今でも参加者には高校生が多いわけですね。会場に海岸を選んだのはなぜですか?
山田:この砂浜、部活のトレーニングでよく使われる場所なんです。僕も高校生のときは6時半に起きて砂浜に集合し、毎日のように走り込みをしていました。つまりここは、僕にとって基礎をつくってくれたルーツの象徴となる場所なんです。当時の僕と同じ景色を見て、同じ音を聞いて、同じ香りを感じながら、高校生や参加してくださる皆さんにも「自分の基礎」を築いていくような時間をつくりたいと思っています。
――今や高校生はもちろん一般の方も受け入れて毎月開催されている瞑想会。どんな方に参加してもらいたいですか?
山田:瞑想って心を整えるイメージが強いかもしれないんですけど、この瞑想会は整える「その先」まで行けるものにしたいと思っていて。なので、どうしても達成したい目標があるとか、夢をかなえたいとか、何かしら今の自分をステップアップさせたいと考えている方に来ていただきたいです。必ず一歩先に進むための力になると思います!
唐津の「何もない」に攻め込む変人がもっと増えて欲しい!
――唐津に生まれ、海外に飛び出し、そして今また唐津に軸足を置いている山田さん。今の唐津にどんなことを思いますか?
山田:唐津の人は、自分の住んでいる地域に対して「何もない」と言ってしまいがちです。でも僕はそれを「本当にそうかな?」と思っていて。
例えば早稲田佐賀高校の生徒たちは、そのほとんどが卒業後は別の土地に移ります。他の高校生も、唐津には大学がないので市外に進学するケースが多いです。大人にもライフステージの変化があるので、一生唐津で暮らし続けられる保障はどこにもない。縁あって限られた時間を唐津で過ごしているのに「何もない」の一言で片づけてしまうのはもったいないと思うんです。
――本当は、何もなくなんかない。唐津の人は、唐津にある魅力に気づいていないということでしょうか?
山田:そうですね。たとえば、唐津って本当に食べ物が美味しいじゃないですか。人の体や心は口にするものでできているので、新鮮で美味しい物をいつでも食べられる環境にあることはメンタルヘルスの観点から見ても非常に良い状態だと言えます。しかも唐津は自然災害も少なく、こういうきれいな海辺の環境もあって、平和な時間が流れている。唐津は他の土地と比べてもウェルネスの効果が高い場所だと言えるんです。
でもその反面、これだけ欲が満たされている状態は、成長しなくても良い環境を作ってしまっているとも言えまして。
――おお、ちょっとドキッとします。
山田:欲が満たされていると、人は「守り」の姿勢に入ってしまいます。でも、唐津はこんなにも質の高い生活が約束されている素晴らしい環境だからこそ、もっと大胆に「攻める」ことをしたほうが新たな魅力を発掘でき、もっといいまちになると思うんです。
僕が行っている瞑想会だったり研修などの事業は、自分の住むまちを「何もない」と見てしまうようなネガティブな意識を変えて、目の前にある魅力に気付けるようなポジティブな感性を養えます。だから、この活動には唐津を救う力があると思うんです!
――唐津には「攻め」に転じられるポテンシャルが秘められていると。とても面白い考え方ですね!
山田:「何もない」って、裏を返せばすごく良い余白があることだと思うんです。余白があれば何でも挑戦できるし、新しい何かを生み出せる。この余白を使って、人が想像できないことをやってのけるような「唐津を愛する変人」がたくさん出てきたら、唐津はより面白いまちとして成長していけるんじゃないかと思います。もちろん僕自身もこれからもたくさん挑戦していきます!
最後に......
唐津に守られて育った少年は、いつしか唐津に「攻め」の風を吹かせるチャレンジャーに。
地元の未来を大切に思うからこそ「何もない」余白に新たな価値を生み出したいと、山田さんはあの穏やかな笑顔で唐津も海外も走り回るような日々を送っている。
それほど人を突き動かす唐津の魅力っていったい何なんだろう。今回少し見えたけれど、まだまだたくさんありそう。目を瞑ると波の音が私の背中を押してくれて、もっともっと唐津の魅力を知りたくなってしまった。
瞑想会の次回開催日などのお問い合わせ先
Health & Tech 株式会社 公式LINE
https://line.me/R/ti/p/@834procs?oat_content=url&ts= 08111807
取材・撮影・執筆:平野蒼(あお) 編集:北村朱里(あか)