ちょっとした時に持っていきたいモノ。
大切なあの人に贈りたいモノ。
「これいいよ」とちょっとだけ自慢したくなるモノ。
もちろん、自分も欲しいモノ。
誰しもお土産に悩んだ経験があるのでは?
「佐賀のいいモノを贈りたい」
つくり人のストーリーと想いに魅了されたエディターが「土産=産地を贈る」という目線でものがたりを綴る。
『土産ものがたり』
名尾手すき和紙
綺麗な水が流れ、鳥の泣き声が響き渡る佐賀市大和町にある名尾地区。
今回訪れたのは、この地で300年以上の歴史を持つ「名尾和紙」を継承する手すき和紙工房。
原料の一つである梶(かじ)の木の栽培から、手すきで紙にするまでを一貫しておこなう受け継がれた製法で、一枚一枚表情の異なる紙を作られている。
名尾地区にはかつて、約100もの工房が軒を連ねるほど紙すきが盛んだったのだが、現在は「名尾手すき和紙」1軒のみ。
明治後期から洋紙がはいってきて、和紙は印刷との相性が良くないことから工房が減少していったと7代目谷口弦さんはいう。
そんな、工房を守り続けながらも「名尾和紙を作っている7代目の自分だからこそできることをしたい」と今回PAPER VALLEYというブランドを新しく立ち上げられた。
新しく立ち上がったブランド『PAPER VALLEY(ペーパーバレー)』
古くから和紙の原料とされてきた梶の木の栽培から、一枚の紙ができるまで。全ての工程を佐賀の名尾で行う手すき紙の新しいプロダクトブランド「PAPER VALLEY」。
豊かな湧き水と原料栽培に適した寒暖差をもたらす谷(バレー)に位置している名尾という土地。紙の産地、最後の工房として「残しておきたい紙」をコンセプトにものづくりをしていくという。
佐賀県の商品開発支援推進事業を通じ、工芸品をベースとした経営コンサルティングを手掛ける「中川政七商店」の支援を受け、発案したのがブランド第1号の商品「milepaper book(マイルペーパー・ブック)」だ。
残しておきたい紙 「milepaper book(マイルペーパー・ブック)」
「milepaper book」は、原料の栽培から紙製作までを一貫して行うことと、人の一生を重ね「人生の節目に残したい紙」として、誕生した。
展開は「出産」「成人」「結婚」「還暦」の4種類。
単行本サイズの箱には、それぞれの「人生の節目」ごとに書き記すための3枚の紙が収められている。
【出産の時の紙】
「命名の紙」
「足形の紙」
「両親からの初めての手紙」
【成人の時の紙】
20年間でうれしかったことや悔しかったことを記入する「記憶の記録」
「〇年後の自分へ」
「両親への手紙」
【結婚の時の紙】
第一印象やプロポーズの言葉を記入する「記憶の記録(妻から夫へ)」
「記憶の記録(夫から妻へ)」
それぞれからの「未来への手紙」
【還暦の時の紙】
「これまでの人生」
「大切な人への手紙」
「人生の教訓」
箱には2センチの厚みがあり、その時に撮った写真や思い出の品も一緒に収納できるという心遣いがまたにくい。
この商品を作った理由や和紙に対する想いを7代目谷口弦さんに伺った。
和紙ってそもそもどういった時に使われるのでしょうか?
「そこって意外とあいまいで、100円均一とかで売られているもので和紙ってありますよね。タイとか中国で作られてても和紙っていう。高級なイメージあるかもしれませんが、消費される和紙も意外とあって」
「うちで作っている和紙ってなんだろう?と考えた時に『手すき』というものがここならではというか......
元々、提灯の紙を作る産地だったんですが、梶の木というのが他の木よりも繊維が長く、その分薄い紙を作っても繊維同士が絡むので紙自体が強い。提灯は光を通すので薄い方がよく、でも強い方がいい。それで名尾和紙を使ってもらっていたんですね」
「大宰府天満宮にあるでっかい提灯とか、祐徳稲荷神社の御払いする紙とか。
長崎精霊流しの灯篭の紙はほぼうちのものだったり、唐津くんちの曳山の修復に使う張り子もうちの紙をつかってもらっています」
「梶という植物は神道のご神木としてあがめられている植物で、繊維が長くて切れにくいことから、縁が長く続いて切れにくいと縁起物として今でも扱われているものなんです」
そもそも、名尾和紙で栽培から一貫して使われている原料「梶」が縁起がいいものなんですね。
今回の、「milepaper book」でいうと「残したくなる紙」がコンセプトですが、なんだか通じるものがありますね。縁とか節目というか、催事というか。
「そうです、もっと言うと、和紙は何かを保存するためにつくられていたんですよ。
江戸時代とかであれば、帳面だったり証明書だったり...
洋紙は低コストで作れて、そのまま消費するものなのでそこまで痛まないよねというところでよしとされるので、そもそもの考え方が違うといいますか。
僕ももちろんコピー用紙をたくさん使うし、それはそれでいいんですよ」
「でもその住み分けをはっきりしたかったんです。僕らが作っている手すき和紙は栽培に1年かかる。そこからその原料を使って紙をすいていろんな工程をふんでやっと一枚の紙になるんです。人生においてもそうですが、ストーリーあってからこそなんですよね」
「消費され、大事にされない紙もある。色々な紙がある中で、僕らは『残しておきたい紙』を作ろう!となったのがこのブランドを立ち上げた理由です。
純粋に、丁寧に真心込めてつくったモノを残しておいてもらえたら嬉しいですしね(笑)」
贈り物にも活用していただけたらと言われていましたが、どんな人に贈ってもらいたいとか使ってもらいたいとかあれば教えてください。
「本当に大事な人に贈って頂けたらいいですね。みんながみんな贈れるようなものでもないですので」
「これを贈りたいって思うのは大切な人だと思いますし、贈った人も受け取った人も、その気持ちを再確認するというきっかけにもなるんじゃなかと思います」
「例えば誰かに贈るために文字を書くとかなると、はっきりいって普通の紙の方が書きやすいんですよ。でも、丁寧に書かないと逆に書けないんですよね。和紙って。
でも、そうやって丁寧に書いたことが思い出になるし、書くこと自体をあんまりしない時代なんでそれも含め思い出になって、一つのイベントになると思うんです。
モノを贈るという感覚よりも一つのコト"イベントを贈る"というイメージでとらえていただければなと思います」
「例えば、『出産のときの紙』であれば、贈られた人が10年後20年後とかに見る。赤ちゃんだった子が10才20才で見る。
『ああこんなんだったんだ俺』みたいな感じで思うわけです。アルバムってみますよね?でも、文字まで書いているってなかなかないじゃないですか?
『結婚の時の紙』とかは、プロポーズの言葉とか妻の第一印象は?とか書かれているんですが、『あなたこの時こんなこと言ってたのに!!』とかそうやって笑ってもらってもいいですし、そういう人生の節目に思い出に残るようなものになってもらえれば、嬉しいですね」
色々なギフトがありますが、基本すぐ使えるのが気が利いていていいときが割と多いと思うんですけど、こういうタイミングで残しておこうみたいなものはないと思うので、贈られた方は嬉しいですね。
これもストーリーがあってこそ。コトを贈るっていいですね。
「それができるのも、手きすの和紙だからいいよねという風に思ってもらえればもっと嬉しいですね。
伝統と一口に言っても『僕が残しておかないといけない!』という想いでやってもなくなるものはなくなるわけですし、でも、そうしないとなくなるものなのか?というとそういうものでもないような気がしているので、自分自身がワクワクしたり楽しいことを信じて届けていけたらいいですね」
まとめ
300年以上の歴史を持つ「名尾手すき和紙」。
今回新しく立ち上がったブランドだが、今までの伝統を引き継いだからこそできる提案の形。真新しく見える「マイルペーパー」もつくり人の想いと産地ならではの歴史が重なって生まれたモノだと感じた。
贈られた方としては、もちろん嬉しいが、「milepaper book」のようなかけがえのないモノを贈ることができるそんな人間になれたらと自分自身を見つめなおすきっかけとなった。
今回紹介した商品は、「中川政七商店」オンラインショップと全国の同店店舗で販売している。
また、5月26日から「名尾手すき和紙」直営店でも販売する予定だ。
あなたも産地ならではの想いと共に、大切な人の人生の節目にこの1冊を贈ってみては?
イベント情報
工房開き
開催日:5月26日・27日
時間:午前9時30分~午後17時
住所:佐賀市大和町大字名尾4756
問い合わせ:0952-63-0334
tani@naowashi.com
【内容】
①本物の道具をつかった紙すき体験会
②ちぎってぺたぺたうちわ作りワークショップ
③自家製干し柿アイスの販売
④オールドマンプレスの活版印刷ワークショップ
⑤アロマセラピストによるアロマor石鹸作りワークショップ
⑥日本茶インストラクターによる振る舞い茶
⑦株式会社ANGLEによるオリジナルムービーのお披露目
⑧鶴屋の名尾手すき和紙コラボ丸房露
⑨BGM BY DJ TAIJI&hinemosu
お問い合わせ
名尾手すき和紙
住所:〒840-0205 佐賀市大和町大字名尾4756
TEL:0952-63-0334
WEB:www.naowashi.com
https://paper-valley.com/
撮影・編集/水田秀樹
文/EDITORS SAGA編集部 中村美由希