【星野源さん、椎名林檎さん、Avril Lavigneさん振付の井手茂太さん振付演出】コンテンポラリーダンス「ギミックス」9月九州公演

【星野源さん、椎名林檎さん、Avril Lavigneさん振付の井手茂太さん振付演出】コンテンポラリーダンス「ギミックス」9月九州公演

ギターを爪弾く星野源。その横では小太りの男がノーネクタイのスーツ姿で伸びやかに踊る。日ごろの仕事のうっぷんをプラス方向に発散するように。体の内側からにじみ出てくる幸福感がこちらまで伝わってくる。星野源さんのMV「夢の外へ」(2012年)。

出演しているのはコンテンポラリーダンサーの井手茂太(いで・しげひろ)さん。

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椎名林檎さん、AvrilLavigneさん、乃木坂46などのミュージックビデオの振付、野田秀樹さん演出NODA・MAP「逆鱗」「贋作 桜の森の満開の下」、三谷幸喜さん演出「子供の事情」などの振付・ステージングも手掛けている。
日本のダンス表現の第一線で活躍する井手さんは佐賀出身。今年9月には振付・演出を手掛けるコンテンポラリーダンス「ギミックス」が九州を巡る。

公演を前に主催する北九州芸術劇場で井手さんと出演者が出席した記者会見が行われた。同公演について、そして佐賀の少年が現代ダンスの担い手になるまでの道のりについて聞いた。

子どもの頃は踊ると疎外感

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井手さんは武雄市出身。子どもの頃から踊ることに興味があったという。「しゃべるのが苦手で、もじもじしていたのでこんにゃく男とか言われていました。物を伝えるのに話すより、動きで何かできないかとずっと思っていて、あるとき踊りって面白いなって思ったんです。姉がクラシックバレエをやっていて、実家の鏡の前でずっと相手をしていました」。

ダンスに興味を持った少年にとって、当時の環境はあまり優しくなかった。「バレエ=女というか、男がやるもんじゃないという雰囲気でした。九州男児たるもの、みたいなのがまだあって。小学校くらいの頃、運動会で踊りをやるんですけど、男の子たちは恥ずかしくてやらない。俺は嬉しくってやるんだけど、それで気持ち悪いと言われる。そういう疎外感はしょっちゅうありました」。

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その後、福岡の高校へ進学。ダンスに本格的に取り組むのは東京の専門学校に入ってから。しかし、そこでも違和感を持ったという。「先生の公演を見に行ったらダンスリサイタルみたいで、作品ではなかった。技術や綺麗さを競い合うだけで面白みを感じられなかったんですよね」。

独自のダンス表現を求めた井手さんは1991年、自身のダンスカンパニーを立ち上げる。同じ頃、学ラン姿が印象的な「コンドルズ」や、ポップでキュートな表現の「珍しいキノコ舞踏団」などが活躍。従来のストイックなダンス観に囚われない自由な踊りは、「コンテンポラリーダンス」として脚光を浴びた。「それまではモダンダンスとか、ポストモダンとか呼ばれていましたが、評論家の方がコンテンポラリーダンスと言い始めたりして、それが定着したようです」

主宰する「イデビアン・クルー」は集団内でのコミュニケーションをモチーフに日常の身振りやダンサーの個性を活かした振付で注目を集める。「癖が強くてついつい見ちゃう人っていますよね。舞台上でそういう動きに照明をあてたら、そのまま現代美術なんですよ。例えば『かゆい』という動きを全員でユニゾン(同じ動きをすること)にしちゃったら、ひとつの作品になります。普段どこにでもある動きを拾っていったら踊りになる、そういったことに取り組んできました」。

似合う洋服を見繕うように振付

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[2017年度『ギミック』舞台写真(C)Tomiyoshi]

今回の「ギミックス」は「北九州芸術劇場ダンスクリエーション」の一環として2017年に上演された「ギミック」の再構築版。「ギミック」には仕掛けるという意味を込めたという。

「舞台の上って、仕掛けだらけなんです。例えば暗転。明るくなるといつの間にか人が立っている。それだけでも一つの仕掛けです。映像では伝わらない空気感というか、あれっ、これって騙されてるかな、というのがじわじわくる。そういった作品にしたいなというのがありました」。

出演者は九州に縁のある男女8人。「他の土地から来たオーディション参加者に対して厳しくしたわけではもちろんないですが、せっかくだったら関わりのある人と一緒の方が面白いじゃないですか。地元で騒ぎたいというのが一番の目的でしたし。ワークショップから発表まで持っていくというのは全国各地でやってますけど、劇場できっちり入場料を取ってというのは初めてに近かったのでプレッシャーもありました」。

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[2017年度『ギミック』舞台写真(C)Tomiyoshi]

井手さんはメンバーとともに北九州に滞在しながら創作。「こういうテーマでやるよ、といったときに一人ひとりの個性を見ながら、あたかもその人に似合うような洋服を見繕ってあげるように、ある程度の動きを作ってあげて、そこから広がっていくものを引き伸ばしていくみたいなイメージです。メンバーに全て受け身ではなく、提案してもらいながら共同作業で作り上げていくようなクリエーションでした」。

再構築版である今回の公演では、前回メンバーを中心に男女7人が出演。ダンサーだけでなく、俳優や女優もいる。痩せている人もいれば、ぽっちゃりの人もいる。

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「僕もどうみたってダンサー体型じゃないじゃないですか(笑)。多様性の時代というか、いろんな人がいる。踊りってセリフもストーリーもあまりないから、言葉では分からないけど見るだけで伝わるものって、なんか幸せな気分になりそうな気がする。そういうのが生まれてくれば良いなと思っています」。

公演の予定所要時間は前回より長くなるという。「前回は初めてだったし作り上げる時間も少なかったので今回はもっとクオリティを足していきたい。内容は基本的にあまり変わらないです。そこにもう少し個々の動きやダンサーの面白いところをさらに引き出して、もっともっと人間性あふれるような動きを見せたい。本当にいろんな人たちがいるんだな、とか日常の仕草やなんやらが明かりを当てるだけで絵的に踊りに見えちゃう。そういう綺麗な感じになりそうな気がします。個々のキャラクターが合体したときに、あったかい雰囲気になれば良いなとちょっと思っています」。

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あったかい雰囲気?  「...いや違う、何にしようかな(笑)。あったかい雰囲気...。なんだろうな、なんて言えばいいのかな。あったかい雰囲気、チームワークというか...。見どころは...決してふざけてはいないんですけど、すごく遊びごころがあるような仕掛けがある。子どもじみてんじゃん、と言われるかもしれませんが、それを良い大人たちが、なんかすごく一生懸命遊んでいる姿が愛らしくて面白いのではないかと思います」。

舞台でしか得られない体験

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記者会見で印象に残ったのが、記者陣から、公演の構成や音楽、衣装など具体的な内容への質問が飛んだときだった。

井手さんは「それを言ってしまったら商売できないですよ(笑)。"生物(なまもの)"が消えてしまうじゃないですか」と戸惑いつつも「一つのロープがありましてずっと引っ張っていったら......」と説明を絞り出していた。コンテンポラリーダンスにはお芝居的なストーリーはない。どう解釈するか、どう感じるのかは観客の自由だ

お化け屋敷に足を踏み入れる前に、どこに仕掛けがあるか調べるだろうか。それじゃ全然怖くない。「あんまり難しい感じで見ないでほしいですね。動く絵とか回転寿司を見ているような、流れているような動きに面白さを感じていただければ。ぼーっとしていても面白いと思います」。

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今回は北九州(9/14,15)、宮崎(9/21、22)、熊本(9/29)で巡回公演する。北九州芸術劇場のコンテンポラリーダンス公演としては初めての試みだ。「地方には、舞台でしかできない、舞台でしか感じられないものを体験する機会が少ない。テレビの世界だけになりがちです。劇場にいると息遣いの音まですごくリアルに聞こえてきます。客席と一緒に舞台を作っているというか、お客さんも同じ共演者という雰囲気をお互い実感することがあります。ダンスはそういう部分を他の芸術よりも強く感じることができると思うんです。身体は本当に嘘つけないから。こういう舞台芸術で体験したちょっとした出来事が日常になれば、もしくはそれに気づく人がひとりでもいれば、という思いがずっとあったので、九州各地に広がっていくことを嬉しく思います」。

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残念ながら今回、佐賀での公演はない。地元について聞くと「県民性が真面目すぎるな、と思います。ちゃんとしっかりしなさいとか、みんなと同じようにやりなさいとか、そういった感じを強く受けます。数年前に佐賀でワークショップをやって、3日間舞台稽古して最終日にパフォーマンスをやってもらいましたが、やっぱり踊り=習いごとの延長という印象でした。きれいに踊ろう、とか、ちゃんと踊る、という意識が強い。そういうことを求めてるわけではないんですけどね」。

そういう意味では佐賀県民の頭を少しだけ柔らかくするにはコンテンポラリーダンスはうってつけかもしれない。体験することで「分からないけど面白い」という新鮮ともいえる感覚を身につけられるのではないだろうか。「想像する力が必要だと思います。だからコンテンポラリーダンスだけではなくて、いろんなものを体験して、自分なりの感覚を育てていってほしいです」。

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[(C)岡崎デザイン]

ちなみに同公演のポスターは九州7県の形を出演者が表現している。気のせいか、佐賀に一番躍動感を感じる。「一番若いメンバーが飛びたそうだったから、ジャンプしてもらったら上が玄界灘で下が有明海になりました。佐賀、飛べっという感じで」。

佐賀からは9月29日にある熊本・ながす未来館での公演がオススメ。佐賀市からは一般道でも1時間15分ちょっと。県西部の人は長崎・多比良港から有明海フェリーで行くと楽しいかも。ぜひ"お化け屋敷"にでも行く感覚で「分からないけど面白い」井手茂太さん演出のコンテンポラリーダンス「ギミックス」を体験してほしい。

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[左から、ダンサー:乗松薫さん、振付演出:井手茂太さん、ダンサー:鉄田えみさん]

情報

日程・会場

北九州芸術劇場 小劇場

日程 2019年9月14日(土) 14:00
     15日(日) 14:00
WEB http://q-geki.jp/events/2019/gimmicks/

メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)イベントホール(宮崎)

日程 2019年9月21日(土)18:00
     22日(日)14:00
WEB http://www.miyazaki-ac.jp/?page_id=964

ながす未来館(熊本)

日程 2019年9月29日(日)14:00
WEB http://nagasu-miraikan.jp/

チケット取り扱い

北九州芸術劇場オンラインチケット(全会場取扱)

https://yyk1.ka-ruku.com/kicpac-s/showList

メディキット県民文化センターオンラインチケット(宮崎公演のみ)

https://piagettii.e-get.jp/web5ap0317/pt/?G=k1e41ng7&app=s3pt0&RTNfld=kengeki&RTNent=pe&RTNmyp=pm&RTNtik=pt&k=4c9f2ab6d61735d65b4eed55d5db9a2265e92460jzmhsl28

セブンチケット(熊本公演のみ)

http://7ticket.jp/search?q=ギミックス&sk=3

チケットぴあ

0570-02-9999(Pコード:491-440【北九州】、491-441【宮崎】、491-443【熊本】)

ローソンチケット

0570-084-008(Lコード:88832【北九州】、88833【宮崎】、88835【熊本】)

料金

日時指定・全席自由
 一般2,000円、高校生以下1,000円(枚数限定・入場時要学生証提示)

※当日500円増
※未就学児入場不可

お問い合わせ

北九州芸術劇場 TEL 093-562-2655(10:00~18:00)

EDITORS SAGA 編集部

編集部

今までなかなか紹介されていないような佐賀の隠れた魅力や新しい情報をお届けするべく日々、奮闘中!...

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