定年後の新たな挑戦:元教員が営む佐賀の焼き物工房「猿の居場所」

定年後の新たな挑戦:元教員が営む佐賀の焼き物工房「猿の居場所」

佐賀の山々に囲まれた静かな場所に、ちょっと変わった名前の工房があるのをご存知ですか? その名も「猿の居場所」。
武雄市の山あいに佇む小さな工房には、長年教壇に立っていた男性が定年後に見つけた新たな人生の居場所があります。焼き物の世界に飛び込んだ彼の情熱は、一つ一つの作品に込められ、訪れる人々の心を温めています。

今回は、そんな魅力的な工房と、そこで生まれる温もりのある作品たちをご紹介します。

教壇から陶芸の世界へ 「猿の居場所」誕生秘話

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佐賀県武雄市にある焼き物工房「猿の居場所」。この可愛らしい名前の工房を営むのは、浦郷正一郎さんです。浦郷さんは、4年前まで有田工業高校デザイン科で教鞭を執っていました。36年間の教員生活を経て、新たな挑戦として選んだのが陶芸の世界だったのです。

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「定年の3年前に陶芸に興味を持ったんです。そこから3年計画を立てて、少しずつ準備を進めていきました」と浦郷さん。教員としての仕事をしながら、空き時間を見つけては窯や工房づくりに励んだそうです。

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工房から作品まで手作りへのこだわり

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「猿の居場所」の魅力は、何と言ってもそのこだわりの手作り感。陶芸を始める前から準備していた工房の建設は、なんと土地の整地から始まり完成まで浦郷さん自らの手で行ったとのこと。

工房に足を踏み入れると、そこにある棚や机、椅子まで全て浦郷さんの手作り。「良い材木が手に入ったら、つい作りたくなるんですよ」と笑顔で語る浦郷さん。教員時代にシーカヤックを作った経験もあるそうで、家具作りはお手の物なんだとか。

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作品づくりにおいても、その姿勢は変わりません。土や釉薬も自ら配合し、一から作り上げていきます。「自然の恩恵を受けながら、自分で作っていくことが大切なんです」と浦郷さん。その言葉には、ものづくりへの深い愛情が感じられます。

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窯元名の「灰土窯」は、昔阿蘇山が噴火した時の火山灰が地層として工房の裏に残っていたことから名付けられました。その火山灰を釉薬の原料として混ぜて使うこともあるそう。陶芸の原料から道具、窯まで全て自然にあるもので手作りとは、工房の端々から作品作りへのこだわりが伝わってきます。

年に2回の火入れを行う焼き窯の魅力

浦郷さんが特に魅力を感じているのが、焼き窯での作品づくり。「電気窯と違って、灰を被った想像できないものが出来上がるんです。そこが面白いんですよ」と目を輝かせます。

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年に2回ほど行われる焼成は、2日間窯に付きっきりの大仕事。「火入れを行う2日間は、窯内の温度を下げないようひと時も目を離さず木をくべ続けなければならないんです。大変ですが、それだけに出来上がった作品への愛着も格別ですね」

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焼き上がった作品たちはどれも動きそうなほど生き生きとしていて、温かさとともに力強さが感じられます。

自由な発想から生まれる作品たち

「猿の居場所」の作品は、主に人形が中心。「佐賀では器を作っている窯元が多いんです。でも私は、自由に考えたものを形にできる人形作りに惹かれました」と浦郷さん。

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作品の着想源は、自分が作りたいもの、欲しいものだそう。「細かくテーマを設定したりはしません。なんとなくこれを作りたいなと思ったら、そこから形作っていくんです」

そんな自由な発想から生まれた作品たちは、見る人の心を和ませます。琵琶を持つ人物や、愛らしい表情の動物たち。一つ一つに浦郷さんの温かな眼差しが感じられます。

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美術教育の経験を活かして

浦郷さんの作品が、陶芸を始めて4年とは思えない完成度を誇るのには理由があります。「美術教師は、生徒からこういうものを作りたいと相談されれば教えることができなければならない。だから、その分たくさん勉強させられました(笑)。教えることは学ぶことでもありましたね。」

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長年の美術教育の経験が、今の作風や技術に活きているのですね。バランスの取れた人形や、繊細な表情の表現。そこには、教育者としての眼と、陶芸家としての感性が融合しているのを感じます。

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「猿の居場所」で出会う、心温まる時間

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年に2回、春と秋に開かれる工房での展示会。「初めて展示会を行った時は、200人もの方が来てくださったんです」と浦郷さん。SNSでの告知を見て訪れる人も多いそうですよ。

今年の秋の展示会は11月22日から25日に予定されています。工房に並ぶ色とりどりの作品たち。そこには、浦郷さんの温かな想いが込められています。

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「猿の居場所」を訪れれば、きっと心が温かくなるはず。教壇を離れ、新たな道を歩み始めた浦郷さんの情熱が、あなたの心に響くことでしょう。
武雄市の山あいで、温かな作品との素敵な出会いを楽しんでみませんか?

工房名 猿の居場所
住所 佐賀県武雄市武内町梅野乙16848-5
公式SNS Instagram @yellow_box_rab
地図

EDITORS SAGA編集部 中島

EDITORS SAGA 編集部

編集部

今までなかなか紹介されていないような佐賀の隠れた魅力や新しい情報をお届けするべく日々、奮闘中!...

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