おいしい取材。冬が旬の『菊芋』入門! 農のスタイルにも注目の『恵良農園』とは?

おいしい取材。冬が旬の『菊芋』入門! 農のスタイルにも注目の『恵良農園』とは?

菊芋を知っていますか?

おいしくて栄養豊富、しかも畑においては「野生の植物より強い」といわれる、なかなか個性的な作物です。

食物繊維(イヌリン)・タンパク質・ミネラル・カリウムを多く含み、一時は「スーパーフード」と騒がれたことも。

一方で、スーパーや直売所で見かけても「ショウガかと思ってた」「調理方法がわからない」と手に取らない人も多いようです。でも、調理は簡単だし、用途も多彩なんです。買わずに素通りするのはもったいない! 冬から早春が旬の菊芋について、今のうちに知っておきましょう。

今回は、佐賀市富士町の『恵良農園』さんにお邪魔して、菊芋のことを教えていただきました。『恵良農園』さんの活動も紹介しているので、ぜひご覧ください。

「スーパーフード」といわれるけれど、気軽に味わって

『恵良農園』を経営する恵良裕一郎さん・五月さん夫妻は「気軽に菊芋を手に取ってほしい」と言います。

「『天然のインスリンといわれるイヌリンが豊富』『糖尿病の人は食べて』と宣伝されたことから、『病気の人が食べるもの』というイメージが広まっています。でも、もっと普通に楽しんでいい作物です。おいしくて栄養があって、病気のない人にもいいものですから」と、裕一郎さん。

菊芋はナマでも火を通してもおいしく食べられます。ナマはしゃきしゃきした食感、火を通すと、皮の中でとろり柔らかくなった実の優しい甘味がたまりません。

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ごつごつした見た目に「どう調理すればいいの?」と戸惑う人も多いとか。

「皮をむかなくていいし、ナマで食べる時も水にさらさなくていいから、調理は簡単ですよ」と言う五月さんに、調理例を教えていただきました。

【菊芋のバター炒め】バターでさっと炒めて塩コショウを振るだけ。仕上げにパセリをかけると尚おいしい。
【まるごと菊芋の塩コショウ】平たい鍋で5分ほど煮て、ざるにあげ、塩コショウを振って味をなじませる。

この他、「菊芋の天ぷら」「きんぴら菊芋」「菊芋のポタージュ」「菊芋甘辛煮」「菊芋の酢漬け」「菊芋のみそ漬け」などレシピは多彩。

ちなみに私はみそ汁やスープの具として使います。クセがないので、いろんな具と相性がいいですよ。

菊芋畑を訪問。土の中からごろごろ現れる!

菊芋はどのように栽培されるのでしょう。

畑に案内していただきました。下の写真が畑の様子です。

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「菊芋」の名前の由来は、花が菊に、根が芋に似ていること。実際にキク科の植物です。

広い畑を覆っているのは、「菊」の花が落ちた後の枯れ枝です!誰もがイメージするような野菜畑とはずいぶん印象が違いますね。

裕一郎さんが掘っていくと、土の中から続々と菊芋が現れます。農薬不要、肥料も不要。世話をほとんどしなくても繁殖する、野性的で強い作物なのです。

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おいしい菊芋を簡単に育てられると知った人から「私も育ててみたい!」と言われることもあるそうですが「おすすめはできません(笑)」と裕一郎さん。

増えすぎて管理できなくなる可能性が高いそうです。地中に残ったカケラからでも芽を出すのだとか。

実は、菊芋はその旺盛な繁殖力から、環境省が「適切な取扱いについて理解と協力をお願いする生物」に指定しているほどなのです。菊芋栽培は、簡単には手が出せませんね。

しかも、掘り出すのがたいへんです。畑の全面をひっくり返すのは重労働。

家庭菜園を持っている人でも、栽培のハードルは高そうですね。

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菊芋を知りたい人は、まずは購入してみましょう。

菊芋を選ぶ時は、皮が緑色になっているものは避けます。また、菊芋を空気にさらしていると水分が抜けてシボシボになってしまうので、ビニール袋に入れておくのが良いそうです。『恵良農園』では、きれいに洗って泥を落とした菊芋を袋詰めして販売しているので、気軽に購入できますよ!

旬のものを旬で提供する、「顔が見える農家」

さて、農薬も肥料もいらない菊芋栽培をご紹介しましたが、『恵良農園』はすべての野菜を農薬や化学肥料を使わずに栽培することで知られています。

研究と実践の結果、病気や虫を予防する方法としてミネラル還元塩と糖蜜の発酵液にたどり着きました。本来の甘みがひきだされた野菜には県内外に多くのファンがついています。

『恵良農園』の主力作物は夏野菜ですが、旬の野菜を年間通じて販売されています。ネットショップで旬の野菜セットを販売し、関東を中心に発送しているほか(冬期は菊芋もネット注文できます!)、福岡市の一部に個別宅配したり、マルシェ等で出店したり。佐賀市民はスーパーで『恵良農園』の野菜を購入できますよ。

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もともと農業に興味があったところ、東日本大震災をきっかけに「地に足がついた生活」を求めて富士町に移住した恵良さん夫妻。

近年は『みのりの会』を立ち上げて恵良農園を中心に農業イベントを開催しています。メンバーは恵良さん夫妻とオンライン活動で知り合った福岡や東京の仲間たち。目的は農村と都市とのコミュニケーション活性化です。

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イベントの風景。右が恵良裕一郎さん【写真提供:恵良農園】

東京のメンバーはホームページの管理等を行う他、『恵良農園』の野菜を使ったバーベキューイベントを関東で開催。福岡のメンバーは『いもほり部』の当日にスタッフとして参加しています。

『いもほり部』とは、「うね立て」からサツマイモの植えつけ、つる返し、収穫までを体験できる魅力的な企画。収穫したサツマイモはもちろん持ち帰れます。サツマイモ収穫体験なら各地でできますが、全体の流れを体験する機会はなかなかないですよね!

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イベントの風景。『いもほり部』に参加した皆さんと撮った一枚。【写真提供:恵良農園】

『恵良農園』では気軽に農業体験できる場所を目指して、クラウドファンディングで集まった資金でテントセットを購入。『みのりの会』の県外メンバーも宿泊に利用しています。

また、「その土地でしか味わえない体験」を求める旅行者と、労働力を必要とする人をつなぐサービス『おてつたび』を利用することで人の輪を広げています。農繁期は旅行者を受け入れ、テント宿泊(無料)つきの農業体験を提供しているそうです(報酬あり・交通費は旅行者負担)。

農家の枠に収まらない活動の背景はなんでしょうか。

「『恵良農園』でやっていることを見ていただきたいという思いがあります。技術を磨いていろんな野菜を作れるようになり、いろんな人に提供し、一緒に喜ぶのが楽しい」と裕一郎さん。

農家になってから10年超、栽培する品種を今も少しずつ増やしています。単一栽培を選ばないのはリスクを避ける意図もありますが「自分たちもいろいろ食べられるから食生活が豊かになるでしょう」と五月さんは微笑みます。

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イベントの風景。右が恵良五月さん【写真提供:恵良農園】

「大規模に農業することには興味がないんです」と言い切る裕一郎さんが大事にしているのは「顔が見える関係」。

「生産者の顔が見えれば、購入する人は安心します。でもそれは農家の側からも言えることで、購入してくれる人の顔が見えた方が、やりがいにつながるんです」。

自分たちが心地よく暮らせる環境で、心地よく続けられる農業を実践する恵良さん夫妻。お二人の「農」の営み方に賛同する輪は、広がり続けているようです。

施設情報

恵良農園

ネットショップ https://erafarm.thebase.in/

裕一郎さんの
Twitter

@EYURA2020
五月さんの音声
配信stand.fm
https://stand.fm/channels/5f6020aef04555115dd7c28c

開成作文堂

伊藤 恵子

佐賀県佐賀市在住のライター。平成の大合併後に佐賀市となった、山中の集落で自然物と戯れながら育ちました。学生時代を除いてずっと佐賀に...

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