【Whale Brewing 呼子クラフトビール醸造所】家族で移住して醸造家に。近藤健一さんの思いとは|北村朱里の"唐津が知りたい!"vol.4

【Whale Brewing 呼子クラフトビール醸造所】家族で移住して醸造家に。近藤健一さんの思いとは|北村朱里の"唐津が知りたい!"vol.4

皆さん、こんにちは! 2023年5月から唐津市に住んでいるコピーライターの北村朱里と申します。出身は北海道札幌市です。

唐津初心者の私が「唐津ってどんなところ?」を知るべく気になるスポットに出向き、会いたい「人」にお話を伺います。その人の思いや考えを通じて見えてくる、唐津の魅力を皆さまにお届けてしていく企画です!

呼子朝市通り・ホエールブルーイングにやってきた

唐津市の最北部にある、呼子町。日本三大朝市のひとつでもある呼子朝市が開かれる通りに2023年12月、クラフトビール醸造所がオープンしたと聞いて取材することにしました。

その名は「Whale Brewing(ホエールブルーイング)」。かつて捕鯨で栄えたこのまちに、あの頃のような熱気をまた生み出したい、そんな思いが「Whale=鯨(クジラ)」の文字に込められています。ここは"ビールを造って売るところ"であるだけでなく"呼子ににぎわいと新たなストーリーを創り出す拠点"なのです!

プロデュースは、呼子名物イカの活造りの店を運営する「有限会社河太郎」が行っています。

「有限会社河太郎」とは......
1961年(昭和36年)の創業以来「お客様に鮮度抜群の活きたイカを召し上がっていただくこと」にこだわり、河太郎 中洲本店(福岡県)、博多駅店(福岡県)、呼子店(佐賀県)を運営。また1947年(昭和22年)創業の博多の老舗寿司「河庄」や九州はかた大吉寿司(3店舗)を展開している。2023年には唐津市と立地協定を締結し、新規事業としてクラフトビール醸造所を設立した。

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呼子朝市通りの入り口から150mほど歩くと見えてくる、築80年の古民家を改装した建物が「ホエールブルーイング」。重厚な佇まいが圧倒的な存在感を持ちながらも、古い街並みにしっくりと馴染んでいます。

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所長であり醸造家の近藤健一さんが迎えてくれました。優しい笑顔~!のちほどじっくりお話を伺いますね。

3種のオリジナルクラフトビールをいただきます

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こちらが店内。カウンターにてスタンディングスタイルで気軽にビールを味わえます。ガラスの向こうに見える醸造タンクがすごい迫力です!

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オリジナルクラフトビールは3種類。※店頭ではカップで提供されます

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近藤さんのお話を伺いながら、さっそくいただいてみました。

Pale Ale(ペールエール)

近藤さん(以下、近藤):これは朝市の雰囲気を味わいながら飲んでほしいビール。「モーニングエール」と呼んでいます。

―朝から飲むビール、最高ですね。ではさっそく......。ん、おいしい!ほのかな苦みがありつつ、めちゃフルーティー、なおかつさわやか。個性はあるけどクセはない。どんな人でも受け入れてくれるような、懐の深さを感じます。

近藤:軽やかな香りとスッキリした後味にこだわりました。初めてクラフトビールを飲む方にもおすすめしたい一杯です!

IPA(アイピーエー)

近藤:続いては、クラフトビールファンに喜んでもらいたくて頑張って造ったIPAです。

―口に含んだ瞬間はやさしいけれど、後から心地よい苦みが押し寄せてきて、そしてスッと消えていく。苦みがしっかりしているけれど舌に残らなくて、後味がすごく爽快です。

近藤:その絶妙な苦みの感じ方は、ホップを入れる量とタイミングでコントロールしているんですよ。さっき飲んでいただいたペールエールの倍くらいの量のホップを入れています。

―贅沢ですね! これはクセになりそう。

Weizen(ヴァイツェン)

近藤:最後は小麦麦芽を使ったビール、ヴァイツェンをどうぞ。

―完熟バナナみたいな風味が濃厚! 甘くてまったり、おいしいです。なんだか心が落ち着く~。

近藤:苦みもあまり感じないでしょう。小麦をたっぷり使って、ヴァイツェンならではのやわらかな味わいを追求したんです。

ペールエールは朝、IPAは昼、ヴァイツェンは夜。時間とともに変わりゆく美しい呼子の景色と空気を感じながら飲みたい3種のビールを、あなたも現地で体験してみては?

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醸造所の運営は、所長の近藤健一さんと奥様の京子さんに任せられています。お二人との会話を楽しみながらビールを味わうと、より一層楽しい時間が過ごせそう。

醸造家・近藤さんに聞く! 住んでみて実感したリアルな呼子の魅力とこれから

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続いては「Whale Brewing 呼子クラフトビール醸造所」所長・醸造家の近藤健一さんに迫るインタビュー。移住のいきさつや呼子への思いについてたっぷり聞きますよ!

呼子の景色に魅せられて

―醸造所の設立にともない呼子に移住した近藤さん。ご出身はどちらなんですか?

近藤さん:生まれは千葉県鎌ケ谷市です。梨の産地でね、家の周りは梨畑だらけでした。秋になると近所の農家さんがバケツいっぱいの梨を持って来てくれるんですけど、それが楽しみで。

―旬の梨、みずみずしくておいしそう。何か打ち込んでいたものはありますか?

近藤:小学校6年間は野球少年として過ごし、中学から大学まではテニスをしていました。あとは車マニアで、自分ではよく覚えていないんですけど、どんな車を見ても名前を当てちゃうような子どもだったらしいです。大学生になると運転するのも好きになり、アルバイト仲間と湘南へドライブしたりしていましたね。

―ずっとスポーツやアクティブなことが好きだったんですね。けっこう活発というか、子どもの頃から目立つタイプだったりします?

近藤:どうでしょう、どちらかというと、クラスでポツンと一人でいる子に声をかけて一緒に遊んだりするタイプだったかもしれないです。

―昔から優しかったんだ。そんな近藤少年が大人になり、呼子に来るまでは金融機関にお勤めだったと聞きました。就職した理由は?

近藤:大学が経済学部だったんですけど、そこで学ぶうちに、日本経済において重要な役割を担っている中小企業の存在に感銘を受けて。そんな中小企業を支える仕事がしたい!と思うようになったんですよね。就職してからはずっと全国を転々とし、各地の企業を支援する仕事を続けていました。

―そんな中で、唐津・呼子という土地にふれる機会があったのですね。

近藤:福岡勤務時代に「呼子のイカがうまい」という情報を聞きつけて食べに行ったんです。これがもう感動で!透明で美しくて、歯触りはコリコリ、そしてあの甘み、圧倒的なおいしさ......すぐにハマりました。

―他のイカとはやっぱり全然ちがいますもんね。

近藤:でも呼子や唐津が好きになったのはそれだけではなくて。アウトドアが好きなので家族でいろんなところにキャンプしに行くんですが、呼子から近い波戸岬キャンプ場なんてもう最高なんですよね!目の前にバーッと海が広がって、解放感が抜群で。人気がありすぎて、土日ともなると数カ月前からでなければ予約が取れなかったほどです。それから、風の見える丘公園、呼子大橋、それを渡ったところにある広々とした牧場、ジェットコースターのような坂道......

―有名な観光スポットだけでなく、名前もついていないような道や景色までもが美しい、それが呼子。

近藤:全国いろんな土地に行きましたが、呼子が本当に一番好きだなって、思ったんですよね。

呼子に根を下ろし、本当の"人"を知った

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―そんな近藤さんが呼子で醸造家になったいきさつを教えてください。

近藤:ある時、河太郎が呼子を盛り上げようというプロジェクトの一環で醸造所をつくる計画を立てていると知りまして。「それなら、ぜひ私に醸造家をやらせてほしい!」と手を挙げたところ、ありがたいことに任せてもらえたというわけです。

―金融機関で働いていた時ですよね。辞めることに迷いはなかったんでしょうか。

近藤:学生の時から熱望していた仕事だし、とてもやりがいがあったし、すごく安定もしていましたから、一生続けていくつもりでした。でも、ふと思うことがあって。

それぞれの志を持ち、人生をかけて事業をつくり上げていく人たちをお手伝いするうちに「自分も、この手で"ものづくり"をやってみたい」という気持ちが芽生えてもいたんです。それに、全国を飛び回る単身赴任生活は楽しくもあったけれど、やっぱりさびしくて。家族と毎日一緒に過ごせるような暮らし方、働き方に切り替えるのもいいなと考えました。

―そのすべてを実現できるのがこの仕事だったんですね。それも大好きな土地で。

近藤:そうして金融機関を退職し、当時の勤務地だった名古屋から引っ越しをして家族で呼子に住み始め、修行を経て醸造家となりました。

―大きな転機でしたね。それまでは「遊びに来る場所」だった呼子が「暮らして、働く場所」になったわけですが、新たな発見や実感したことなどはありますか?

近藤:それはやっぱり"人の良さ"ですね。地域のお祭りやイベントが開かれるたびに、近所の方々が「一緒に参加しようよ」って誘ってくれたり。皆さん親しみやすくてオープンマインドなんですけど、かといってズケズケくるわけでもない。いい感じの距離感を保ちつつ、仲間としておおらかに受け入れてくれるんです。

―ああ、そういうの、すごく嬉しいですよね。

近藤:そうしているうちに自然と知り合いが増え、さらにいろんな人を紹介されて、というふうにどんどん人の輪が広がっていくんです。そんな中から親しい友だちもできて、お家に遊びに行かせてもらってご家族とまで仲良くなったり、近くの公園にお弁当を持って出かけていろんな話をしたり。

―楽しそう!

近藤:この歳になって新しい友だちができるなんて、思ってもいませんでしたけどね。呼子に来てできた友だちのほうがむしろ、濃いお付き合いができている気がします。

なんかね、昔の私は"人"を知らなかったな、とつくづく感じていて。

―どういうことですか?

近藤:この朝市通りで日々仕事をしていると、他のお店の方などと話をする機会が多くて。同じ土地で同じように商売をしている者同士だからか、いろんなことを語り合うんですよね。そうすると一人ひとりが普段表には出さない、けれどすごく大事な思いや考えを抱えていたりすることがわかってきて。前職では全国でたくさんの人に会いましたが、ここまで深く話ができたことはなかったな、と。

―住む土地や職業が変わっただけでなく、近藤さんの心や人との関わり方に変化が生まれたんですね。

まだまだ呼子はポテンシャルにあふれている

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―"これからの呼子"に、今どんな思いを持っていますか。

近藤:とにかく盛り上げていきたいと思っています。観光客も住む人も増えてほしいですし、特に若い人たちにはどんどん来てもらいたいですね。朝市はにぎわうんですけど、お昼頃になると途端に人が少なくなってしまうのが現状ですから。

―呼子に住む人、泊まる人、長時間滞在する人が増えたらいいですよね。感じている課題などはありますか?

近藤:たくさんの人に来てほしいんですが、それに対してお店がまだまだ少ないです。食事をするところ、買い物するところ、泊まるところも。なので、ここで商売がしたい!というような若い方が移住してくれたらいいですよね。これからだと思います。もちろんホエールブルーイングも、皆さんが「呼子に行きたい、住みたい」と思う理由になれるようにもっともっと面白くしていきますよ!

―楽しみです!

近藤:呼子は唐津の端っこですし、電車の駅がなかったり不便な面もたくさんありますが、便利なことばかりが良いわけでもないと思うんですよ。毎朝子どもを保育園に連れて行くんですが、敢えて車を使わず徒歩で行っているんです。石の階段から海を見るのが大好きで、すれ違う人とあいさつを交わすのが気持ちよくて。そんな呼子の良さを一人でも多くの方に知っていただけるよう、私も力を注いでいきます。

都会にはない、ここにしかない魅力をたくさん内包している、呼子という土地。そのポテンシャルは、呼子の海と風と人に磨かれて、これからも輝きを増していくのだろうな。その光がもっと多くの人に届きますように。近藤さん、ありがとうございました!

最後に......

みんなでスポーツやアウトドアを楽しむのが大好きで、さびしそうな子は放っておけない。そんな仲間思いの優しい近藤少年が大人になり、全国でたくさんの志を持った人々を支援してきた。そして今、呼子という新たな地に飛び込み、今度は自身がいろいろな人に助けられ、受け入れられる喜びをかみしめている。

人生を変えるのは、まちの未来を変えるのは、そこにある魅力に気付く心だったり、あたたかな人と人との交流だったり、そういうささやかだけれど大事なものなのかもしれない。私もずっと大事にしていこう。

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店舗情報

店舗名 Whale Brewing 呼子クラフトビール醸造所
住所 唐津市呼子町呼子3764-4
営業時間 土日祝 9:00〜13:00
駐車場 なし
公式サイト https://whalebrewing-yobuko.com/
公式SNS Instagram:@whale_brewing
地図

word:北村朱里
photo:渕上一広

唐津移住コピーライター

北村朱里

北海道札幌市生まれ。2023年5月から唐津市在住。 コピーライター&コミュニケーションセミナー講師という二足のわらじでバタバタ走る...

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