麦をぐるぐる縫い上げる。森山製帽所の麦わら帽子作りに潜入。(森山製帽所 前篇)

EDITOR'S コラム 小城市 知るスタイル

麦をぐるぐる縫い上げる。森山製帽所の麦わら帽子作りに潜入。(森山製帽所 前篇)

佐賀県小城市で3代に渡って続く、麦わら帽子工房へ。

「なんもなか(=なにもない)」が口癖の佐賀の人たちにこそ伝えたい、地元に眠る地域資源。九州北部の筑後地域を中心に、地域のものづくりと文化を紹介するアンテナショップ「うなぎの寝床」がピックアップした、佐賀の知られざる魅力を紹介します。

記念すべき第一回目は、佐賀県小城市で3代に渡って、昔ながらの製法で麦わら帽子を作っている森山製帽所さん。麦わら帽子ができるまでの工程を見せてもらい、ものづくりや歴史についてお話をお聞きしてきました。まずは「麦わら帽子ができるまで」の前篇をどうぞ。

森山製帽所の工房

麦わら帽子を専門に作る、森山製帽所の工房へ

夏の風物詩の麦わら帽子、一体どうやって作られているんだろう?

皆さんは普段、麦わら帽子をかぶることはあるでしょうか。夏の日差しの暑い日に、お出かけしたり、農作業をしたりするときのために、持っている方もいるかもしれません。もはや夏の風物詩として、すっかり定着している麦わら帽子ですが、実際にどう作られているか、ご存知でしょうか。

今回伺ったのは、佐賀県小城市の牛津(うしづ)町にある、森山製帽所さん。と思って着いたら、お店の看板には「モリヤマスポーツ」とあります・・・うん?どういうことでしょう。

お店の中に入ると、ランニングシューズやバドミントンのラケットなどと並んで、ちゃんと麦わら帽子が並んでいました!森山さんは、メーカーとして奥の工房で麦わら帽子を作りながら、表では地元のスポーツ用品店として営業もされているのです。

「モリヤマスポーツ」兼「森山製帽所」ののぼり旗

森山さんの2つの顔、「モリヤマスポーツ」と「森山製帽所」

店内の様子

店内にはスポーツ用品と並んで、麦わら帽子が置かれている

ぐるぐるぐる~、するするする~っと、麦紐がいつの間にか帽子に。

というわけで早速、麦わら帽子職人3代目の森山真登(もりやま・まこと)さんに、奥の工房を見せていただきました。

「麦わら帽子はこの麦を編んだ紐を、ぐるぐる縫っていって出来上がるんですよ」といって見せてもらったのは、「麦稈(ばっかん)真田編み」と呼ばれる、平たくつぶした麦の茎の部分を、真田紐と同じ要領で編み込んでいった麦わら帽子の原材料。

昔は名産地だった岡山をはじめとして、国産の麦わらが多く作られ輸出もされていたそうですが、海外産や化学繊維の価格競争に負けて全滅し、現在は中国産の麦わらでできた麦紐が主流となっています。

麦わら帽子の材料の麦紐

麦わら帽子の原材料である、麦を編み込んだ紐。

「この麦紐がいったいどうやって帽子の形になっていくんだろう・・・」と思っていると、森山さんは年季の入ったミシンの前に座り、何やら紐をぐるぐる糸巻き状に縫っていきます。するとあっという間に、帽子の頭の部分が出来上がりました。すると今度は違うミシンに変わり、するするするーっと麦紐を縫い重ねていき、帽子の側面部分からツバの部分が出来上がっていきます。

一見、とても簡単そうに見えますが、幅が一定ではない麦紐を片手の間隔と目で確認しながら、2mm程度ののりしろを保ちながら縫っていくのは、まさに職人技。特に最初の頭の部分の傾斜が、帽子の大きさを決めてしまうので、経験を重ねてないと、思い通りの形を一発で作るのは難しいのだそうです。

麦紐を縫う様子

ぐるぐると帽子を回しながら、麦紐を縫い重ねていく

帽子のつばを縫う様子

手で麦紐の幅を確かめながら、ぬいしろを2mmで一定に縫っていく

縫い終わった麦わら帽子

帽子の頭の部分の傾斜が、帽子の大きさを決める難しいポイント

最後はしっかり型をプレス。いろいろな形の麦わら帽子が完成!

もうすっかり麦わら帽子の形になり「これで完成か~!」と思いきや、まだまだ工程が続きます。

最近では丸い形の麦わら帽子だけではなく、テンガロンハットの形など、様々な帽子の形があります。型くずれしないように定着させるため、金属と特殊なゴムでできた特注の型で帽子をはさみ、型入れ機で熱を加えて、プレス加工するのです。

森山さんによると、この帽子用の型を作れる職人さんも最近高齢により引退されたり、原料となる麦わらも手に入らなくなる可能性もあり、今後の生産に向けては不透明な部分も多々あるそうです。ものづくりの工程を見ていくと、こうした原料、道具、機械などの現状も見えてきます。

最後はプレスされた帽子に装飾のリボンやすべり止めの中布などを縫い付けられ、ようやく麦わら帽子が完成します。なんだか洗練された、気持ちが清々しくなる工程でした。

たくさんの帽子の型

プレス機に使う、帽子の型がいくつも並ぶ

プレスの様子 プレス機に帽子を置く

まず、縫い上げた帽子をプレス機に設置する

プレスの様子 プレス中

高温に熱されたプレス機で、帽子に型を定着させていく

プレスされた麦わら帽子

プレス機を上げると、帽子のツバが定着している

テンガロンハット型の麦わら帽子

テンガロンハットの型でプレスした麦わら帽子

テンガロンハット型用のプレスの型

テンガロンハットの型。新しいアルミ製のもの。

帽子の内側の加工をする様子

後加工で、中の布を縫い付けていく

まとめ

天然素材の帽子として、近年再び注目されている「麦わら帽子」。より安価な海外産の麦わら帽子におされて、厳しい時代もあったという森山さん。

3代に渡って続く家業を続けていくために、細やかな手仕事を大切に、大きさや形などお客さんのリクエストにも柔軟に対応するスタイルで、こつこつ作り続けてこられたからこそ、made in sagaの麦わら帽子が残っているのです。

後編では、麦わら帽子が日本で作られ始めた歴史と、3代に渡る森山製帽所のストーリーをお届けします。お楽しみに。

お店・場所・人・イベント期日などの情報・リンク先等

森山製帽所(モリヤマスポーツ)
住所:〒849-0303 佐賀県小城市牛津町牛津816
電話:0952-66-0177
営業時間:9:00~19:00
定休日:第3日曜日
駐車場:あり

「森山製帽所」と「モリヤマスポーツ」外観

ホームページ:http://compass.shokokai.or.jp/50/412081S0016/index.htm

うなぎの寝床
リサーチャー(広報企画)・通訳

渡邊 令

1989年東京都生まれ、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)社会人類学部卒業。その後福岡のポンプ会社で社長秘書を勤めた...

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