作り手がそのまま人形に!?独特のゆるさがたまらない、尾崎人形ができるまで。(尾崎人形 前編)

作り手がそのまま人形に!?独特のゆるさがたまらない、尾崎人形ができるまで。(尾崎人形 前編)

尾崎人形をきっかけにハマる、郷土人形の奥深き世界。

「なんもなか(=なにもない)」が口癖の佐賀の人たちにこそ伝えたい、地元に眠る地域資源。九州北部の筑後地域を中心に、地域のものづくりと文化を紹介するアンテナショップ「うなぎの寝床」がピックアップした、佐賀の知られざる魅力を紹介します。

皆さんは「郷土人形」に興味を持ったことはありますか?豪華な衣装を着た「飾り雛」などの人形とは異なり、土や紙など身近な材料で作られた素朴な人形で、神社などの祭事用、子供のおもちゃ、縁起物として、東北から九州まで各地に存在します。

土地や作り手の個性を色濃く写す郷土人形。そのディープな世界にハマって、コレクターになる人も少なくありません。うなぎの寝床でも、九州各地の郷土玩具を取り扱っていますが、その中でもピカイチのゆるさと素朴さを誇るのが、佐賀で作られている「尾崎人形」。今回はそのゆるい人形たちの生みの親である、高柳政廣(たかやなぎ・まさひろ)さんの佐賀県神埼市の工房にお邪魔してきました。

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おすもうさん

どうしてそんなにゆるいのか。高柳さんがそのまま人形に。

尾崎人形の最大の魅力は、なんといってもその独特な空気感。この表情を見るだけで、なんだか気が抜けていきます。まるで自分の中の何かを人形に吸い取られていっているようです。

どうしてこんなにゆるゆるとした風貌なのだろうか・・・と思われるかもしれませんが、作者の高柳さんに会えば合点がいくはずです。私も高柳さんとはもう何度かお会いしていますが、正直人形そのものよりも高柳さんのキャラに毎回感動を覚えます。

以前とあるイベントでご一緒した際、私が休憩を取れずに接客をしていたのを見て、優しい高柳さんは棒付きアイスキャンディを買ってきてくださったのです。溶けてしまうアイスを置いておくわけにもいかず、かといって、こそっと食べるわけにもいかず、結局お客さんに笑われながら、アイスをいただいたことがありました笑。

そんな高柳さんの癒しキャラは、そのまま人形にも写し出されています。作られる人形も、1つ1つだいぶ顔つきが違ったりして、いくらみても飽きません。

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尾崎人形を作る高柳さん

土が人形に生まれ変わる。うつしこまれる土地柄と人柄。

人形というのは不思議なものです。文字通り「人の形」でありながら、もちろん人ではありません。昔は「形代」といわれる、紙・土・木などで人の形を模したものに、人間の代わりに穢れや邪悪なものを吹き込んで、海や川などに流して無病息災を願う習慣もありました。

尾崎人形は、多くの郷土人形と同じく「土」でできています。昔は尾崎焼に使われていた地元の土を使っていたそうですが、現在は採土されていないので、有田から取り寄せているそうです。

土を成形するためには、型が必要になります。高柳さんが現在使っている型は、有田など焼き物の産地で使われる石膏型。「鳩笛」「長太郎」「赤毛の子守」など昔から伝わる尾崎人形の型もあれば、干支シリーズなど高柳さんが新しく作った型もあります。

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(人形たちが生まれる石膏型)

この石膏型の両側に、粘土質の土をぎゅっぎゅっと詰め込み、数時間乾かします。石膏が土の水分を吸収し、適度に乾いたところでパカッと型を開くと、スズメが出てきました。ぴよぴよ。

土笛の場合は音が鳴るように、ここでストローなどで穴をあけ、羽根や模様などを整えます。そしてまたしばらく乾燥させた後、先代から引き継いだアメリカ製の電気窯を使い、800℃で6時間ほど焼きます。いまは月1~2回ほど、150個程度のペースで焼いているそうです。

こうして出来上がった素焼きの人形たち。最後が肝心の絵付けです。工房には大小さまざまな絵筆が並んでいるので、どういう使い分けをしているのか聞いてみたところ「特に使い分けてない」と高柳さん。だからみんな表情違うんですね笑。きっとその時々の高柳さんの気持ちが描きうつされ、オンリーワンの人形が完成するのです。

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こちらは鳩笛の型の片側

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型の両側に、粘土質の土を型に詰め込みます

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くっつきやすいように、接地面は刷毛で線をいれます

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目印を参考に、型の両側を合わせます

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ぱかっと開くと・・・

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スズメが出てきました!周りの余分な土は取り除きます

170821_8.jpgぴよぴよ

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電気窯で6時間ほど焼きます

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素焼きの鳩笛が完成しました

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たくさんの絵筆。アクリル絵の具で素焼きの人形に絵付けします。

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オンリーワンの人形が完成です

まとめ

尾崎人形が作られている佐賀県神埼市の尾崎地区は、かつては「肥前尾崎焼」という焼き物の産地だった場所です。もう既に窯は途絶えてしまっていますが、尾崎地区のあちこちに、火鉢や尾根瓦など黒いどっしりした焼き物が残っています。

いま「尾崎人形」として知られている、土人形、土笛、土鈴などの玩具は、尾崎焼の窯元が地域の子供のおもちゃや縁起物として、作っていたものだったのだろうと思いますが、1960年代頃には尾崎焼の廃窯とともに途絶えてしまいます。

どのようにして尾崎人形は復活したのか、なぜ高柳さんは人形を作るようになったのか。そして700年前にも遡る、尾崎焼発祥の驚きの言い伝えと歴史に、後編では迫っていきたいと思いますので、どうぞお楽しみに!

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「ててっぷう」法被を着る高柳さん

お店・場所・人・イベント期日などの情報・リンク先等

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尾崎人形保存会 高柳政廣

住所:〒849-0303 佐賀県神埼市神埼町尾崎546

電話:0952-53-0091

営業時間:(事前にお問い合わせください)

定休日:不定休

見学:3日前までの電話予約で可

うなぎの寝床
リサーチャー(広報企画)・通訳

渡邊 令

1989年東京都生まれ、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)社会人類学部卒業。その後福岡のポンプ会社で社長秘書を勤めた...

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