例年と比べても、思うようにお出かけができず、少し寂しさも残る夏でした。ただ、身近な地域に目を向けて、楽しく過ごす工夫をしている人も増えているような気がします。
『さがすたいる』のWebサイトには、いろいろな人にとってやさしいお店や施設が集約されていて、今こそ活用できそう。お年寄りや子育て中の方などにも役立つお出かけスポット情報が充実し、利用できる設備や地域、ジャンル別に絞って検索できるのです!
『さがすたいる』とは、みんなが心地よく外出できる、佐賀らしい、人にやさしいまちをつくっていこうとする佐賀県の取り組みです。
今回はその『さがすたいる倶楽部』店舗の一つ、唐津市にある『ビストロシマ』の島貫智明さん・弓佳さんご夫婦と、公私ともにシマさん夫婦を応援する熊本陛子(のりこ)さんにお話をうかがいました。
ビストロシマ×熊本陛子さん
『ビストロシマ』は、2012年8月22日にオープンしたフレンチのお店。開店当初から、どんな人も本格フランス料理を気軽に楽しんでほしいとの思いを大切にしています。
熊本陛子さんは、開業時からこのお店を応援してきた1人。車いすユーザーとして店舗の設計にアドバイスをしたり、デザイナーでもあるため、シマさんの看板ロゴやチラシなどを手がけたりもしているそうです。
熊本さんが2人に出会うきっかけをつくったのは、弓佳さんのお姉さん。介護福祉士であるお姉さんは、唐津出身の弓佳さんがUターンして夫の智明さんとお店を開く準備をしていた時に、公私ともに仲のよかった熊本さんを紹介。そのマッチングで、9年半経った今も信頼関係が続いているようです。
「唐津に出店を決めた後、最初は何にもあてがなくて。のりさん(熊本さん)から不動産業者さん、改装の業者さんにもつながって工事にこぎつけました。設計の時には、調理場の幅を寄せても車いすが通れるトイレを作りたく、のりさんに実際にどれくらいだったら通れるか、意見をもらいました」と智明さん。
熊本さんは「段差がないお店は限られているのでありがたいです。しかも個人のお店でトイレの幅まで考えてくださるという例もなかなかなくて。設計上いろいろと考えてくださったことは、とても嬉しかったですね」と、ご自身にとっても『ビストロシマ』は大切な存在とのことです。
ちなみに、看板の"BISTRO"は弓佳さん、"Shima"は智明さんが手書きしたものを熊本さんが取り入れてロゴ化。
弓佳さんの「イメージを伝えただけで、のりさんがうまく作ってくれて。オードブルのチラシとか広告もお願いしています」の言葉に、熊本さんも「飾らなくて、自然な対応をされているように、デザインもそんな風にしたいんだろうな、と思って、あえて新たなロゴデザインにはしませんでした」と、懐かしそうに振り返ります。
サービスの背景にある思い
20歳過ぎに福島から上京し、ホテルなどで調理の修行を積んでいた智明さんは、同じ職場で知り合った弓佳さんとご結婚。唐津の食材や人の良さ、また海のある土地柄に魅力を感じ、唐津で開業することを決心したそうです。
「フレンチの店として料理はしっかりしたものを出しながら、雰囲気や価格で身近に感じていただけるように。記念日のご利用ももちろん嬉しいですが、それ以外の時にも気軽に来られるお店でありたい。お子さんから高齢の方まで、それに、車いすの方も利用できるような空間にしたくて」と自分たちが目指す形を語る智明さん。
店内は入り口に少し段差はあるものの、全体的にフラット。お手洗いは、各地のお店についてトイレ談義をすることもあるという智明さんの"こだわり"で、手すりや温水洗浄便座つき。エアコンまで備えられています。ただ、ハード面だけでなく、『ビストロシマ』ならではのソフトな"やさしさのカタチ"も見つけました。
「夫婦で営むお店なので、マニュアルがあるわけではなく、様子をうかがいながら、その都度気づいたことがあれば対応しています。お客様にもなるだけ気を遣っていただきたくないので、大げさにお迎えしたり、接客をしたりということはありません」。
調理の際も、もし手の不自由な方がいらっしゃったら、大きなお肉などはカットして提供。ただしリハビリ中のような方には「切って食べる喜びも味わっていただけるかも」と、"あえて切らずに"出すなど、状況次第で対応を変えてみることも。また、盛り付け方もなるべく見た目は他の人と変わらないように意識しているのだそうです。
また、弓佳さんは「例えば、車椅子の方がご来店される際、ご予約時にお電話で伝えていただけているので、席をどこに作るのか、出入り口のところもこれくらいだったらスペースをあらかじめ空けておけるかな、と準備できます。 席の配置などのご希望を事前に言っていただけるのはありがたいですね」と一言添えてくれました。
お店側のサービスだけに委ねるのではなく、お客様も伝えておいた方がいい情報を知らせておくことで、より心地よい時間が過ごせそうですね。お互いのちょっとした『やさしさ』があればいいと思いました。
「スマートな感じ」と熊本さんが接客についての印象を話すと「そんなカッコいいもんじゃありませんけどね」と智明さんが照れ笑いしながら答える場面も。しかし、"サービスは自然に"というスタイルは2人の気遣いの表れということが伝わりました!
この地で手作りの料理を
唐津で精力的に営業を続けて10年目を迎える今年、コロナに対応した設計、唐津焼の食器が映えるインテリアへと、内装も一新されました。
これまで、唐津市内の同業者や生産者の方々とも情報交換をしたり、いい関係を築いているそうで、地域の人たちと協力しながら飲食の仕事で貢献していきたいという思いがうかがえます。
お客様でもある熊本さんにとって『ビストロシマ』の魅力を尋ねると「食べたことない感じのお料理もいろいろあって、どれもめっちゃおいしい。デザートも気に入っています。車いすで外食になかなか行けない中で、気楽に利用できて嬉しいですね。あとお箸を置かれているところも好きです」という答え。
「私は箸で育ったので、箸を置かないというこだわりはないですね。それより、変に緊張しないで、リラックスして、フランス料理を純粋に楽しんでもらいたい。化学調味料を一切使わない手作りの料理をコンセプトにしています。食材は唐津産を中心に。また福島の実家の果樹園で育った果物をデザートに使います」と智明さんは話します。
「夫婦でできる範囲で、基本的にこの店一本で行きたいと思っています。この小さな城が好きで、ここを二人で続けていくというのは私の夢です」と智明さん。
弓佳さんも「周りの支えがあっての『今』ですね。子どもを見てくれる人やパンフレットを頼める方がいたり、テイクアウト品を買ってもらったりなど、心強いサポートがあってお店が成り立っています。これからも感謝して進んでいきたいです」と話します。
熊本さんも「バリアフリーももちろんですが、シマさん夫婦の人柄が良くて、応援したいという気持ちが自然に生まれました。『バリアフリーにしたい』という、その気持ちを持っていただけるだけでも嬉しかった。コロナウイルスが落ち着いたらもっといっぱい利用したいです!」とエールを送り続けています。
まとめ
『ビストロシマ』さんは、どんなお客様もできるだけ自然にお食事を楽しめるよう、過度でないサービスに努めているとのこと。夫婦で目配りしながら、その時に応じた連携プレー。これもお二人の"やさしさのカタチ"だなと思いました。
人は、様々な人とのかかわりの中で支え合いながら暮らしています。
シマさんご夫婦と熊本さんも、お互いに相手のことを思いやりながら、自分のできることでサポートし合う、さがすたいるが目指すところを体現されている姿にみなさんのヒントになる"やさしさのカタチ"を感じました。
店舗情報
店舗名 | ビストロシマ(BISTRO Shima) |
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住所 | 〒847-0031 佐賀県唐津市原992-1 |
公式サイト | https://bistroshima.com/ |
https://www.facebook.com/BistroShima/ | |
詳細 |
営業日:11:30~13:00(L.O.)、18:00~20:00(L.O.) |
地図 |
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ライター 髙橋香歩