2024年3月20日に、武雄市図書館で開催された「さがすたいるフェス」。
様々な企画の中でも、特に多くの方が楽しみにしていた「おもちゃ美術館」。
2023年5月に佐賀県からの誘致を受け、基山駅前の基山フューチャーセンターラボに福岡おもちゃ美術館の拠点を開設されたことをきっかけに、今回の「さがすたいるフェス」と、「福岡おもちゃ美術館」のコラボが実現しました。
福岡おもちゃ美術館の石井今日子館長に、活動内容やその想いについて、お話をうかがいました。
木のおもちゃで地産地消
「NPO法人 芸術と遊び創造協会」が運営するおもちゃ美術館は、全国に12館展開しており、それぞれの館で地元の木材を使ったおもちゃが準備され、美術館それぞれの個性があるそうです。地元の木で、地元の職人が作ったおもちゃに触れてほしい、地産地消を進めたいという想いで活動されています。
「福岡おもちゃ美術館」は2022年、ららぽーと福岡に開館。九州産の木でできたおもちゃ約8000点の玩具に触れて遊べる体験型の施設です。
「木はお母さんの肌の次に赤ちゃんが触れる素材として、いいと言われているんです」と石井館長。「無垢材であれば触れても熱が奪われず、また木の温もりというのはその見た目や匂い、肌触りなど、五感で感じられます」。
多世代交流の取り組み
「おもちゃは見るだけでなく遊ぶもの」という想いも大切に、石井館長は「どうぞ触ってみてください」とどんな方にもやさしく声をかけています。
小さな赤ちゃんから障がいのある子どもたちも遊びやすい工夫があるおもちゃがたくさんあり、使い方などを説明し遊びの幅を拡げてくれるのは「おもちゃ学芸員」のみなさんです。
「ボランティアっていうとなかなか人が集まらないけれど、私達は"おもちゃ学芸員"という名前にして、資格制度にしているんです。ご近所の方はもちろん、ちょっと離れたところからも来てくれます。養成講座を受けた学芸員さんは、登録制にしており、その数なんと、総勢350人!毎日約25人の学芸員さんたちが、館内で迎えてくださり、おもちゃの紹介をしてくれます。おもちゃって、置いておくだけだと、見るだけで通り過ぎてしまうこともあるのですが、楽しみ方をよく知っている学芸員さんが、直接楽しい遊び方を紹介してくださると、すごく楽しくなるんです。」
おもちゃ学芸員のみなさんは、シニアの方が半分以上で、大学生も多数活躍。年が近い友達としか遊ぶ機会がないお子さんも増えている今、多世代が自然に交流できる場づくりを大切にしています。
実は、石井館長も元々、おもちゃコンサルタントだったそう。「以前、福岡で幼稚園の先生をしていました。一時、東京に住んで子育てを経験する中、知らない土地で一人で子育てするのは大変だということを感じました。その時に、子育てを少しでも楽にできないかということで、おもちゃのことを勉強してみようと思い、おもちゃコンサルタントになったんです。」東京でもいろいろな活動をして、福岡おもちゃ美術館が開館するのに伴い、九州に帰ってこられたのだという。
石井館長の想いの根源には、おもちゃを通じて、誰もが笑顔になってもらいたい、元気になってもらたいという想いがあります。
難病や障がいのあるお子さんも楽しめる工夫
石井館長には忘れられない経験があるという。東京おもちゃ美術館のスタッフ時代、医療的ケアが必要なお子さんとその家族が来館されたが、短い滞在時間ですぐに帰られたのだそう。「どうしてかな?」と思い、お話を聞くと、「こうした場所でゆっくり遊ぶのは難しい」と話された。元気なお子さんが主体で遊び、周りの目も気になるので、安心して遊べない、というそのご家族の声を受け止め「どんな子も遊べる施設にします」と約束。それから難病のお子さんとご家族向けに、施設を貸し切りにして遊ぶ「スマイルデー」を開催するなど、その想いが形となって、より多くの方に遊ぶ機会を提供されています。
日本財団との共同事業でつくられた難病の子どものためのおもちゃセット「あそびのむし」の配布も2020年にスタート。「あそびのむし」は、難病の子どもとコミュニケーションを取りやすい、一緒に遊ぶことで笑顔が生まれるようなおもちゃを中心に選ばれたおもちゃ約70点がセットになっています。医療的ケアや重度の障害があっても、遊びに夢中になれたり、一緒に遊ぶ大人も楽しめるということで多くのご家族に喜ばれており、2023年度は150施設の病院・施設に寄贈されました。施設の職員さんや先生たちも遊びやすいように、寄贈先の病院・施設のスタッフに向けて、おもちゃの活用の仕方や管理方法などについての講習会を実施され、実際の運用が効果的に行われるようなサポートも行われています。
こうした取組をお聞きして感じたことは、当事者家族だけへ向けた取り組みにとどまっていないこと。
「おもちゃ学芸員さんも、スマイルデー等の病気の子どもが対象のイベントに、最初はみんな不安がいっぱいで、ママたちや子どもたちに何の話したらいいのかな、どんなふうに言葉かけしたらいいですかって、たくさんの質問が殺到するんです。でもいざやってみたら、『自分の娘や孫みたいに感じた』って後から言われるんです。おもちゃを通じて一緒に遊んで、"〇〇ちゃん"って知り合いになると、その子にどんな病気があろうと関係なくて、何かしてあげたいなとか、どうやったら喜んでもらえるかなと想いを馳せたり・・・。そういう経験がとても大事だと思っています。今回のさがすたいるフェスでも、一緒に遊んで知り合いになってもらえたら嬉しいなと思っています。」と、石井館長。
当事者の方が楽しめる環境づくりという目的だけでなく、まちの人たちの当事者の方々への理解を深めていくことにもつながっているという点が興味深いと感じました。
佐賀県内でも広がる「おもちゃ」を通じた笑顔の輪
2022年の「福岡おもちゃ美術館」の開館から1年を経過した2023年5月、佐賀県からの誘致を受け、基山駅前の基山フューチャーセンターラボには福岡おもちゃ美術館の拠点を開設。基山でも「木育おもちゃのひろば」が始まりました。以前は酒蔵だった建物の一つのスペースで月2回開催されています。近隣に住む親子から広がって、毎回10組ほど集まるそうです。
16種類の木材の樹種でつくられた積み木や木育おもちゃで遊べる時間は、子育て中のパパ・ママたちがお互いに交流できるひとときでもあります。
また、2023年10月には太良町で、「木育キャラバン」を開催。木や森に思いをはせ、人と出会う場として、木のおもちゃをたっぷり準備したり、ワークショップやあそびのステージなども実施。2024年も県内で開催される予定です。
みんなが笑顔になれる活動を。「さがすたいる」との共通点!
さまざまな地域で木と人、人と人が触れ合う機会をつくる福岡おもちゃ美術館。
施設には海外からのお客様も多くみえられています。
「韓国や、台湾、香港の方など、アジア圏からの個人観光客がたくさん来られています。ある日、シニアのボランティアさんたちが、スマホを見ながら、黙って無言で何かを一生懸命されていました。「何してるの?」と聞いたら、「アプリでいいのがあるんですよ。韓国語にすぐ変換できるし、これいいですよ。」と、教えてくれたんです。ご高齢のボランティアさんは、スマホの操作が上手でもないのですが、そうやって、一生懸命自分にできる工夫をして、一緒に遊ぼうっていう気持ちが嬉しかったです。」と石井館長。
"おもちゃ"というみんなが一緒に楽しめるツールを介せば、年齢や性別、国籍や障がいの有無など関係なく笑顔になり、そして、相手のことを思えば自然に、一緒に楽しむにはどうしたらいいのか?という工夫も広がっていく。
こうした活動は、さがすたいるの取り組みにも共通する想いであり、今回のイベントのコラボが進められたそうです。
イベント当日は、武雄市図書館内のメディアホールで「あそびのむし」の特設コーナー、こども図書館前の芝生ひろばにて、ミニ「木育キャラバン」を出展。
たくさんの子どもたちが、木のボールプールの中で、まざりあって笑顔になっている様子や、おもちゃを通じて一緒に遊んでいる様子がとても印象的でした。
また、「あそびのむし」コーナーは、今回は時間割を設け、「みんなで遊ぼう!の部」、「わいわいはしゃごう!の部」、「ゆったり過ごそう!の部」に分けた工夫も。
それぞれの特性や個性に合わせた楽しみ方で、親子で遊ぶたくさんの姿が見られました。
こうした工夫があることで、みんなが楽しいひとときを過ごせること、みんなで楽しめる場づくりの大切さを参加者の皆さんが肌で感じているのが伝わってきました。
まとめ
今回、たくさんのおもちゃに触れ、ほどよく体を使ったり、心で反応したりとあらゆる世代の目がキラリと光る瞬間が生まれていました。おもちゃ学芸員さんの笑顔で包まれた空間と、元気に遊ぶ来館者。
おもちゃの力、そしておもちゃ美術館スタッフの皆さんの力で、そこに集まったみんなが笑顔になり、皆が元気になれる。そこから広がるやさしさの輪が、佐賀県内へ今後ますます広まっていくことが楽しみです。