食の宝庫、有明海から銀座へ。
「コハダ」と言えば、江戸前寿司の代表的なネタのひとつ。
コハダの下処理や酢締めは、寿司職人の腕の見せどころ。その良し悪しが店の看板に関わるとも言われています。そんなコハダですが、実は有明海に面した佐賀県藤津郡太良町竹崎地区で多く水揚げされている魚なんです。
竹崎地区のコハダ漁の歴史は、50〜60年と伝えられています。投網(とあみ)という伝統的な漁法で水揚げされ、魚にかかるストレスやダメージを軽減するため、高い品質や鮮度が保てます。
主な出荷先である東京豊洲市場では高い評価を受け、4割もの取扱量を誇り、銀座をはじめとした江戸前の高級店寿司店へとたどり着きます。
「おいしい」の声が、誇りになる。
太良町竹崎地区の特産品として、真っ先に思い付くのは牡蠣や竹崎カニ、海苔など。有明海の恵みをたっぷりと受けた食材は、これまでに多くの観光客や食通を唸らせてきました。
一方、コハダには長い歴史がありながら、その多くは東京の市場へ出荷されるので、地元の飲食店ではほとんど食べられず、コハダは主に漁師の家庭で食べられていました。そんなコハダを地元や近郊の人たちにも食べてもらいたいという想いでスタートしたのが「竹崎コハダ女子会」です。
「漁師が苦労して獲ったコハダ。関東で高級品として取り扱われるのは嬉しいことですが、それを佐賀をはじめとした周辺地域の人たちにも知って欲しかったんです」と代表の舩口直子さんは話します。
漁師の妻をメインに8名の地元メンバーからなるコハダ女子会。2016年に発足し、イベントなどでコハダのフライやみりん干しの販売を開始します。
初めのうちは、コハダ料理が地元以外の人々に受け入れられるか不安だったメンバーも、食べた人たちの笑顔や「おいしい」の言葉をもらうことで、コハダの価値を再認識したと言います。
美しい海を、未来の子どもたちへ。
その後、「鮮度が命のコハダ。新鮮なコハダを求めて、竹崎に足を運んで欲しい!」という想いで、竹崎地区のお寺で「コハダ食堂」を一年に一度、一日限定でオープンさせました。「メニューは押し寿司やつみれ汁、コロッケや天ぷら丼など。100食限定の販売でしたが、あっと言う間に売り切れました」と笑顔で振り返ります。
コロナ禍では開催できませんでしたが、押し寿司キットとコハダをセットにしてインターネットで販売したり、アヒージョなどの加工品をつくったりして、コハダをいかした竹崎の発信を続けています。
そして、2021年11月27日の「Spotlight SAGA」のイベントでは、コハダのちらし寿司とコハダトーストを販売しました。
竹崎では家庭で食べられていたコハダがたくさんの人たちに認知され、おいしいと言ってもらえて、地域や漁師への誇りがさらに強くなったと言うコハダ女子会のメンバーたち。
子育て世代でもあるので、漁業の未来が明るいことを子どもたちへ伝えていくことが次の目標だと話します。
「この地区の子どもたちは、進学や就職でほとんどが町外や県外へ出ていきます。大人たちが地域に誇りを持って、楽しそうにイキイキと活動していれば、遠く離れた地でふるさとを思い出したり、いつか戻ってきたりしてくれると信じているんです」と舩口さん。
漁に出る漁師がいて、それを発信する家族や仲間がいる。地域ぐるみの活動が、地域の未来を明るく照らしています。
文章:岡 優一
写真:武藤 功樹
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