東京から武雄市に移住 高齢者らの"ちょっとしたお困りごと"をお手伝い「まごのてサービス」馬場潤希さん

東京から武雄市に移住 高齢者らの"ちょっとしたお困りごと"をお手伝い「まごのてサービス」馬場潤希さん

2018年に東京から祖父の住む武雄市に自転車で移住し、2021年に武雄市の高齢者らの「ちょっとしたお困りごと」のお手伝いをする「まごのてサービス」を立ち上げた馬場潤希(じゅんき)さん(30)。かゆいところに手が届く"まごの手"のような存在を目指して日々奔走しています。

今回は、サービスに対する想いやここに至るまでの経緯などを馬場さんにインタビューしました。

「まごのてサービス」ってなに?

2021年1月に開業し、武雄市内を対象に主に高齢者の「ちょっとしたお困りごと」のお手伝いをしています。

サービス内容は「エアコンクリーニング」「ハウスクリーニング」「お庭のお手入れ」「まごのて」の4種類。例えば電球の交換や重いものの運搬、スマホの操作、話し相手など、誰に頼めばいいかわからない些細なお困りごとは「まごのて」の依頼として、500円/30分+出張費1000円で受け付けています。

基本的に現場に出るのは馬場さん一人。高齢者からは「じゅんちゃん」と親しまれています。「まごのてサービス」の前身となる事業で関わった利用者も含めるとのべ約700人で、独立後だけでも70種類以上、のべ1000件ほどの依頼を解決してきました。

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写真提供:馬場潤希さん

ー依頼はどのように受け付けていますか。

直接電話で受けることが多いです。そこで依頼の内容を伺い、日程を調整して伺っています。ホームページやインスタグラムなどから受け付けています。
新規のお客さんは口コミで連絡をくれる方が多いです。また武雄市報に出している広告を見て依頼してくれる方もいます。ありがたいことに、ほとんどの方はリピートしてくれます。エアコン掃除に関しては若い方からのご依頼もあります。

 ーこれまで70種類以上とかなり幅広い依頼に対応されていますが、対応するための方法をどのように身につけているのですか。

「ハウスクリーニング」に関しては、現在のサービスの前身となる事業に従事していた際に専門的な研修を受けました。その他は大体やりながら身につけています。今はネットで検索すれば動画などがたくさんあるので見様見真似で実践しています。例えば庭の剪定の依頼があった時には、「庭師ほどの技術はない」ことをきちんとお伝えした上で、「ただ多くの依頼を受けてやってきたので素人に毛が生えたぐらいはできます」という感じでやってます(笑)。

あとは「まごのてサービス」として独立して以降、介護福祉士実務者研修と福祉住環境コーディネーター2級の資格を取りました。福祉住環境コーディネーターというのは、例えば車椅子が必要になった方が住宅改修をする際に、住みやすい住環境になるようアドバイスをする人のことです。直接仕事に資格が必要な訳ではないですが、高齢者と関わる中で高齢者が立ち上がれない時に「この手の差し伸べ方でいいのか」、あるいは部屋の棚を移動させる時に「ここに置いたら危なくないか」「トイレに行きづらくなるのではないか」などとモヤモヤする場面が増えてきたこともあり、ちゃんとした知識を持った上で対応できたらいいなと思って資格を取りました。

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写真提供:馬場潤希さん

ー仕事に対する熱意が伝わりますね。そもそもなぜこの仕事をしようと思ったのでしょうか。

 どこからお話しましょう(笑)。最初はキャンプ場を作りたいと思って2018年に武雄に来ました。23歳の時です。
僕は東京で生まれ育ち、高校卒業後に海上自衛隊として5年間神奈川県で働きました。大体大学を卒業した場合だと、多くの方が就職して5、6年目の30歳手前ぐらいに「このままでいいのか」という壁にぶち当たると思うのですが、僕は大学に行っていない分、それが若くで来たんです。階級社会の自衛隊はある程度、先輩たちを見ていたら自分が10年後どうなるか、20年後どうなるかというのがわかってしまうため、なんというか、"安定への不満"みたいな気持ちがありました。

そんな中、当時キャンプにハマっていた僕は、武雄にいる祖父が「山を持っている」と聞き、山を丸ごと持っていると思ったんです。実際いろんな方と区画分けをしているとは知らずに、「それならその山でキャンプ場を開いて毎日キャンプできるじゃん」みたいな(笑)。田舎暮らしへの憧れや、祖父と一緒に暮らしたいという気持ちで「とりあえず行ってみるか」と仕事を辞めて、割と軽い気持ちで武雄に行くことにしました。

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仕事を辞めて時間に余裕があったのに加えて漠然とした旅への憧れもあり、自転車だったらいろんなキャンプ場を見て回りながら武雄に行けるな、という感じで自転車で行くことに決めました。友達と話してたら「俺の自転車使っていいよ」って言われて、「え、まじ!じゃあ乗って行くわ」みたいなノリでした。しかし、新幹線が横を通る道は結構心が折れましたね(笑)。友達の自転車じゃなかったら多分捨てて帰っていました(笑)。

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自転車で武雄に来るまでの約3週間は毎日Facebookで発信しました。すると、祖父の面倒を見るためにすでに武雄にUターンしていた母が、武雄の知り合いもいるFacebookで投稿を毎日シェアしてくれました。そしたら武雄の人たちが面白がって見てくれて、僕が到着した時にウェルカムパーティーを開いてくれたんです。

そこで出会ったのが、今の「まごのてサービス」の前身となる事業をされていた方です。話を聞いて面白そうでしたし、キャンプ場を作ることにもつながりそうだと思ったんです。

というのも、僕がキャンプ場を作るためには三つの壁がありました。一つが土地を見つけなければならないこと、二つ目が(キャンプは天候に左右されたりしやすいので)収入が安定しないこと、三つ目が地域住民の理解を得ることでした。そのオーナーから高齢者のお困りごと解決のサービスを聞いた時に、需要があるため収入が不安定になることはないことや地域住民と関係が築けること、関係性ができた上で空き家の活用に困っている地域の方から格安で土地を譲ってもらったことなどを聞きました。ぴったりだと思い、2019年1月から一旦その事業で働くことにしました。

ーキャンプ場をするために始めた仕事だったんですね!今でもキャンプ場をしたいと思っていますか?

今は全くありません。こっちの生活に慣れるとキャンプ場に行かなくても自然がいっぱいあるので僕自身キャンプに行かなくなりました。何よりこの仕事に本当にハマったんです。

もともと「子どもが好き」という人がいるように、僕は「おじいちゃんおばあちゃんが好き」でした。そんな中、スマホの使い方をちょっと教えただけで、何度もありがとうと喜んでくれて帰り際に野菜やジュースを持たせてくれたり、そんなやりとりが初めは衝撃的でした。やっぱり東京ではそういうことがほとんどないので。

武雄には親戚がいるだけで友人はいませんでしたが、そんな中自分の孫のように可愛がってくれたお客さんたちのおかげで続けてこれました。

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写真提供:馬場潤希さん

前身の事業ではとにかく利用者の新規獲得のためにキャンペーンをしたりして売り上げアップを目指していたのですが、僕は「一人のお客さんと深く関わっていきたいし、既存のお客さんを大切にしたい」「利益よりもお客さんに会う時間や話す時間を大切にしたい」と思っていました。どちらが正解かはありませんが、方向性が合わないと感じ始めた時に、オーナーが定年で事業をたたむことになり、「まごのてサービス」として独立することを決めました。

ーそうだったんですね。独立後の変化は大きかったですか。

独立する時はこれまで依頼してくれたお客さん約300世帯を全て訪問し、独立することを報告しました。初めは利益を優先しない考え方で事業が回るのかと不安もあったのですが、独立後にサービスへの思いを強くする出来事がありました。

2021年8月。武雄市の六角川が氾濫し、家の一階が浸水してしまいました。
当時僕は家の二階で一人で被災。スマホの充電があるうちは良かったのですが、夕方には電源が切れてしまい、誰とも連絡取れずに完全に一人になってしまいました。ものすごく孤独で精神的にしんどかったです。そんな時、高齢者の方々が頭に浮かびました。たとえば足腰不自由で出掛けられず、近所に知り合いもいない高齢者だったら「毎日こんな環境なんじゃないか」と僕のお客さんは一人暮らしの高齢者も多いため、「こんな思いをお客さんにしてほしくない」「よりサービスを届けなければならない」と改めて思いを強くしました

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写真提供:馬場潤希さん

初めは売り上げが上がりませんでしたが、手書きの「じゅんちゃん通信」をつくってお客さんに手渡しで渡しに行ったり、サンタ姿で手作りのミニ竹松をプレゼントしに行ったりして、既存のお客さんを大切にするやり方を続けていたら、ありがたいことに今ではリピート率80%になり、人手も足りなくなってきました。

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写真提供:馬場潤希さん

ーお客さんと丁寧に関わることが今につながっているのですね。今までで印象深い出来事はありますか。

お客さんとたわいもない話をしている時間が印象深いですね。作業が終わり、一緒に縁側に座ってお茶やお菓子をいただいて、話をしながら一緒に空をぼーっと眺め、そこには鳥が鳴いている、みたいな瞬間は本当に幸せで最高ですね。

個別の依頼でいえば猫を救出したことですかね(笑)。屋根に登った飼い猫が降りれなくなってしまったので助けてほしいという依頼でした。結局、屋根に登って捕まえようとしても無理だったので、お客さんに下で毛布を広げてもらい、端まで追いやってキャッチしてもらいました(笑)。

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写真提供:馬場潤希さん

ーそんなことまで!(笑)いろんな瞬間をお客さんと共有してきたのですね。「まごのてサービス」の現在やこれからの課題はありますか。

いろいろありますが、一つはこのサービスを広げていきたいです。一人での現場対応は限界があり、ありがたいことにちょうどその壁にぶち当たっています。専属のスタッフでなくても別の仕事をされながらでもいいので、手の空いた時に入ってもらえるチームの体制を整えて、まだ知らない方や「忙しそうだから」と遠慮している方の対応もできるようにしていきたいです。

もう一つはケアマネジャー(介護支援専門員)や行政など高齢者福祉に関わる事業者との連携。試験的には連携を始めているのですが、連携体制をもっと強くしていきたいです。

例えばケアマネさんは介護保険が適用される範囲が決まっているため、草刈りはできません。しかし、介助して歩くときに草がボーボーで邪魔だということもあります。そうすると、ケアマネさんは忙しい中でも自分の時間を削ってボランティアで草刈りに行くなんてことも実際起きています。また、行政が主体であればスピードが遅かったり高齢者の困りごとを全てを網羅したりすることは難しいです。それに対して「まごのてサービス」は完全に民間の事業なので、仕事内容や時間に制限されることなく柔軟に対応できることが強みです。

ケアマネさんや行政にできないことを「まごのてサービス」が対応していくことで事業者の負担を減らすと同時に、武雄市全体に包括的な高齢者福祉サービスを届けることを目指します。

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写真提供:馬場潤希さん

さいごに

東京から友人もいなかった武雄市に移住し、"天職"に出会った馬場さん。目をキラキラさせながら「まごのてサービス」の話をしてくださる姿を見て、多くの高齢者らに親しまれる「まごのてサービス」になったのは実直で明るい笑顔が素敵な"じゅんちゃん"の人柄があったからだと分かる取材でした。お客さんとの関わりを第一にし、自分の気持ちに正直に進む馬場さんのご活躍に目が離せません。お忙しい中、ありがとうございました!

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サービス名

まごのてサービス

電話番号

080-4612-2879

営業時間 9:00-18:00
定休日

不定休

公式サイト https://www.magonote-tko.com/
公式SNS Instagram @magonoteservice_takeo

ライター

牟田友佳 (Muta Yuka)

長崎市育ち。2024年4月に夫の転勤で佐賀県に移住。 新聞記者を経て、フリーランスとして細々と活動中。 自然、おいしいもの、旅...

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