魅力的な公共空間の整備に力を入れている佐賀県。
公園や広場といった公共空間で「やってみたい!」という気持ちを後押しし、もっと県民らに気軽に使ってほしいとの思いから、2025年3月22日、佐賀市内の3つの公共空間で「おとなこどもランド」というイベントが開催されました!
絵の具で自由に遊んだり、風船を追いかけたり、森の妖精を探しに行ったり―。春らしい陽気の中、大人も子どもも思いっきり楽しんだイベントの様子をレポートします。
みんなの「やってみたい!」が形になった"マイパブリック"
2月8日に実施した第1回の様子
このイベントは「公共空間×オトナ実験室」というプログラムの一環で行われたもの。全2回で構成され、第1回(2025年2月8日実施)は、参加者が講座を受けて公共空間をどう使うかアイデアを膨らませる「知る・妄想する(構想する)」編でした。>>第1回の記事はこちら
そして今回は、第2回の「実験する」編。
第1回の講座に参加した大学生や会社員、ハンドメイド作家ら が、県などのサポートを受けながら、それぞれの「やってみたい!」を実際に公共空間で実現させました。
会場は、県立図書館南側「こころざしのもり」(佐賀城公園)、県立博物館・美術館南側「サガアートパス」(佐賀城公園)、県庁北側「ARKS(アルクス)」の3カ所。
県立博物館・美術館南側「サガアートパス」(佐賀城公園)
県立図書館南側「こころざしのもり」(佐賀城公園)
県庁北側「ARKS(アルクス)」
「やってみたい!」をベースにした8種類の企画はどれもワクワクする内容で、公共空間の使い方のヒントになるものばかり。
それでは、参加者がつくり出した「マイパブリック(私設の公共)」を見ていきましょう!
春さがし こころざしのもり
公園の中で春の色や"妖精がいる木" を探しにいくネイチャーゲーム
街なかで自然を感じられることを魅力に感じてこころざしのもりを会場に選んだ松原さん。様々な年齢の方が参加することを想定して、いくつかの難易度のゲームを準備しました。
企画したボーイスカウトで活動する松原さんは、前回の講座で講演をした株式会社グランドレベル(本社:東京)の田中元子さんの話や本に感銘を受け、仲間とともにたった1ヶ月半で手作りの屋台を制作。屋台が次々と人を惹きつけて、さまざまな参加者が屋台を介して、公園の探検と発見を楽しんでいました。
公園の可能性を感じ、今後も1〜2ヶ月に1回のペースで屋台を出していきたいと意気込んでいました。
芝生の上で、ぬって・かいて・ちぎって・あそぼう!
芝生の上に置いた大きなキャンバスの上で、心も体も解放してアートを楽しむコーナー。子どもたちは思いのまま絵の具で遊んでいました。
屋外でアートのワークショップするのは初めてだったという多久島さんは、予想していた以上に多くの方が遊びに来てくれたことに驚いたそう。
準備していた大きなキャンバスは瞬く間に色とりどりの絵の具でいっぱいになり、何度も紙をかえるほどたったとか。一方で、一人で準備することの大変さも学びになったようです。
スケッチ日和@こころざしのもり
公園の芝生の上でゆったりとスケッチを楽しむコーナー
静かに自然や絵に向き合う時間があってもいい。そんな想いで「スケッチ日和」を企画したアーティスト兼イラストレーターのRinaさん。参加者が自由に絵が描けるよう、とにかくいろんな画材を準備したと言います。
ピクニックのように座って楽しむ風景に引き寄せられる親子たち。参加された方は準備されていたクレヨンや水彩絵の具、クーピーなどいろんな画材からお気に入りを選んで、心赴くままスケッチを楽しまれていました。描いている人同士がふと会話をしはじめる素敵な風景が生まれていました。
想像していた10倍の人が訪れたそうで、事前の準備も、当日の運営も楽しかったと話してくれました。
ことのはさがし
みんなの好きな言葉をさがすコーナー
まちなかで屋外アートに親しみながら散策できるサガアートパスを会場に選んだ加藤さん。アート系の企画展で余ったチラシを使った企画が何かできないか考えていくうちに、「言葉」をテーマにするアイデアが思いついたそう。
立ち寄る人たちは、「ひと」「ゆめ」「おんがく」などのキーワードが入っているガチャガチャを回して、出てきた言葉を地面に並べられたカラフルなチラシから見つけたり、関連した言葉や好きな言葉を紙に書いて一枚のボードに飾っていました。
それぞれが思い思いにことばを探して、出会って、綴った証として、今回集まったことばたちは、後日スケッチブックに貼り付けて宝物にしたそうです。
ポップ・バルーン
公園にたくさん落ちているトゲトゲした木の実「モミジバフウ」を集めて、"風船マン"の風船を割るゲーム。大人も子どもも公園を楽しく駆け回りました。
子どもの頃に観た映画から着想を得て風船を使った企画を考えたしまざきさんは当初、風船割りゲームのために柑橘系の果汁を準備しましたが事前練習の場でうまく割れず、公園に落ちている木の実を使う作戦に変更。
イベントを企画し実施するのは初めてだったというしまざきさん。たくさんの仲間と協力しながら自由な発想で装飾を準備したそうです。
よかーごと!踊れるお絵描きの森!
「描くこと、踊ることは自由にのびのびでいい、上手や下手などで委縮してしまわず個を解放できる空間をつくりたい。」そんな想いで参加した表現者のいちなさんは、障子紙で長いホワイトカーペットを公園の中に設え、その上を自由に踊り、描き、表現する企画を用意しました。
木漏れ日の中、好きな音楽を流しながら障子紙の上で絵の具と自然と戯れる。初めは恐る恐るだった子どもたちも、気付いたら全身絵の具まみれになりながら表現していました。そこに生まれたのは、想像以上の子どもたちの個が解放・発散される「お絵描きの森」でした。
サガ ミリョク 研究所マルシェ
2024年に都道府県魅力度ランキング最下位になってしまった佐賀県の本当の魅力を研究し発信するマルシェとして企画した「サガミリョク研究所マルシェ」。
ご自身もハンドメイド作家のhumuhumuさんは、はじめて自らマルシェを主催することに。声をかけて集まったのは、ハンドメイド作品や自分だけのネームプレートが作れるワークショップ 、マッサージなど12の店舗。気心知れた仲間たちでつくる新しいマルシェのはじまりは、とても居心地のよいものでした。公園の中央ではモルックやおもちゃで遊ぶ子どもたちも。
佐賀の魅力といえばバルーンということで、当初は本気でバルーンを上げるつもりで準備していました。自分で公園を借りて、マルシェを開催する今回の機会をきっかけにバルーンに関する情報や仲間がたくさん集まったそうです。いつかバルーンも本当に実現するかもしれませんね。
おとなこどもスタンプラリー
3つの会場を回り、集めたスタンプの数に応じて景品がもらえるコーナー。イベントに訪れた人たちは、いろんなコーナーを巡ってスタンプを集めていました。
公共空間を利用するハードルは意外と低い!?
この日のイベントを企画した8人の話を聞いていると、
「(申請の仕方や流れなど)公共空間を借りるプロセスがわかった」
「意外と自分でも気軽に借りてイベントができることがわかった」
「またやりたい」
といった声が多く、公共空間を使うことに対するハードルがグッと低くなった様子。
「スケッチ日和@こころざしのもり」を企画した、大学生でイラストレーターのRinaさんは、「利用の許可が取れれば、意外と抵抗なくイベントがやれてしまうことがわかったので今後も別のロケーションでやってみたい。大きなイベントを開いて人を呼び込むより、普段のお出かけ先に何かがあるっていうのがいいと思った」と話しました。
さらに、「出かけた先で"何かやっている"という経験が積み重なれば、公共空間がもっと輝くと思います」と語ってくれました。
まとめ
今回の「おとなこどもランド」は「公共空間×オトナ実験室」の参加者によるトライアルイベント。どれも個性が光る企画ばかりで、「こんなふうに使っていいんだ」「もっと自由でいいんだ」と、"公共空間"に対するイメージがやわらかく変わっていきました。
当日は子ども連れの方が多く、「家やいつもの公園はできることが限られているので、こういうイベントはありがたい」「普段は見られない子どもの一面が見られた」といった声も。ちょっとしたアイデアと行動が、誰かの出かけるきっかけになり、思いがけない喜びを生むことを見ることができました。
「まちを盛り上げよう」「問題を解決しよう」と気負うより、「やってみたい!」という純粋な気持ちから始めることが、結果的に人を引き寄せ、自然とまちに活気をもたらす--そんな好循環が、今回のイベントから見えてきた気がします。
いつもの何気ない公園も、「やってみたい!」を実践する人がいれば、まちの風景は楽しく元気な方向に変わっていくはず。
公共空間は、誰でも申請すれば使うことができます。みなさんも、ご自身の「マイパブリック」をカタチにしてみませんか?
文章・撮影:牟田友佳
写真提供:佐賀県