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炭鉱の名残を愛でる佐賀の旅 廃墟好きが巡る「大町町・伊万里」界隈

自分の家の裏山から石油が湧いてきたらどうなる?そんな妄想をしたことはないだろうか。

それに似たようなことが50数年前まで、佐賀県を含む日本各地で現実に起こっていた。石油ではなく石炭だったけど。人が集まり街が栄えた。でも長くは続かなかった。そしてコンクリートや石造りの遺構だけが残された。

廃墟好きの私が令和の佐賀県で炭鉱遺構を愛でてみた。

【大町町】レトロ喫茶みたいな変電所跡

杵島郡大町町のJR大町駅の辺りから山手に目を向けると、レンガ造りのレトロな喫茶店みたいな建物が見える。杵島炭鉱変電所跡という。

昭和2年に稼働し、炭鉱施設に電力を送っていた。今では「大町煉瓦館」という名で親しまれている。館内には近くで掘られた石炭も置いてある。

児童数4000人、日本一のマンモス校

ここらで杵島炭鉱がどれだけすごかったかという話をしたい。例えば初任給。最盛期、炭鉱従業員は大学卒サラリーマンの2倍もらえたらしい。もちろん人が集まってきた。

1960年(昭和35年)、旧大町小学校の児童数は4000人を超え、日本一のマンモス校となった。6学年で86クラス、休み時間のドッジボールの場所取りは大変だったらしい。

まるでジブリな第四坑通風坑跡

とにかく繁栄した杵島炭鉱だけど、筑豊や大牟田でみられる竪坑櫓(たてこうやぐら)のような大規模でシンボリックな遺構は意外に少ない。

地下へ通じる坑道は危険だからふさがれたし、ボタ山(石炭採掘の時に生じた廃棄物を積み上げてできた小山)も樹木に覆われて見えない。そんな中、第四坑の通風坑は当時をしのぶ貴重な存在だ。

通風坑とは、坑内の有毒ガスなどを排気するための施設。巨大な換気扇を設置した円形のコンクリート遺構や、坑内の空気を吸い上げたトンネル状の遺構が残っていた。

森に埋もれつつある廃墟はジブリアニメで見たような世界観がすごい。

【伊万里】海中に現代アートみたいな物体が

伊万里市から国道204号を長崎県平戸市方面へ車で走ると、県境の少し手前の海上に巨大な鉄骨の塊が見える。

見ようによっては現代アートっぽいこれらの物体は、向山炭鉱の石炭積み出し施設の残骸なのだ。杵島炭鉱よりさらに古い1963年に閉山された。

砂浜が黒っぽいのは石炭のかすを廃棄したせいだといわれている。

同じ伊万里市の東山代町には山代炭鉱みどり坑のポッパーも残っている。ポッパーとは、採掘された石炭をトラックや鉄道貨物車に積み込むための施設で、炭鉱遺構としてはポピュラー。

でも、みどり坑ポッパーみたいに物置としてリサイクルされているのはユニークだ。

石炭から石油へ 閉山から半世紀以上

佐賀県を含む北部九州には炭鉱の名残が「よんにゅう」あるけれど、一部を除いて積極的に残そうとはされていない。
1960年代、エネルギーの主役が石炭から石油に移ると、潮が引くように炭鉱街から人が消えていった。佐賀県最大規模を誇った杵島炭鉱も1969年に閉山し、半世紀以上が過ぎた。

相変わらず私たちは数千万年から数億年かけてできた化石燃料を、恐ろしい勢いで食いつぶしている。石炭、石油、天然ガスもろもろすべてがいずれ枯渇してしまう。だからといって、再生可能エネルギーで今みたいな生活は無理っぽい。未来の人類は、栄華を極めた「21世紀の廃墟」を見ることになるかもしれない。それは炭鉱遺構のように美しかったりするかもしれない。

いかん。最後は話が脱線してしまった。(ねぎっぺ)

●今日の佐賀弁 「よんにゅう」

たくさん、いっぱいの意。「どっさい」と似るが、数が数えられる場合に「よんにゅう」を使うことが多い気がする。
用例 あんじゃもんから小遣いばよんにゅうもろうた
意味 兄から小遣いをいっぱいもらった

※紹介した炭鉱遺構は「大町煉瓦館」以外は廃墟なので、行きたい人は単独行動は避け自己責任で。やぶ蚊、ヘビ、コウモリなどが苦手な人は写真を見て楽しんでください。

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フォトグラファー&ライター

ねぎっぺ

古いモノ、壊れかけのモノに強く惹かれます。路上観察も大好き。狭くて広い佐賀県を、きょうも徘徊します。...

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