私たちが暮らす地域。その魅力は、文化や歴史、産業だけでなく、そこでの暮らしを楽しむ人々の想いによって作り出されています。佐賀県には、自分の"やりたい"ことを追い求め、人々を巻き込みながら、地域の魅力を高めている人達がいることを知っていますか?
そのような地域で暮らす人々を「ローカリスト」と呼び、連載でお知らせしてきました。
2019年9月に県東部地区のローカリストが集まり、参加者と共に地域づくりについて考える「ローカリストアカデミー 」を開催。
ローカリストとネクストローカリストたち(アカデミーの参加者たち)がアイディアを出し合い、地域づくりの第一歩を踏み出す活動「お試し地域づくり」を考え実際に"やってみる"ことに......
ローカリストによって地域の課題や活動の目的は様々。地域づくりに興味を持つネクストローカリストたちとローカリストの交流から生まれた佐賀県各地で広がる地域活動をお届けします。
佐賀の山で遊べる人を増やしたい
第6回目にご紹介するのは、「林業女子会@さが」会長を務める門脇恵さんのお試し地域づくり活動「佐賀の山で遊ぼう!」。
門脇さんの夢は「山をデザインし次世代につなげる」こと。豊かな山を次世代に残していくにはもちろん人の手で山の手入れをする必要があります。山を愛し、山に携わる人を増やすにはどうするべきかを考えた時にたどり着いたのが「佐賀の山で遊べる人を増やす」ということでした。
山で楽しく遊んだ経験を持つ人が増えれば、山を愛し、豊かな山を次世代に残したいと考える人が出てくるはず。ローカリストアカデミーの中で話し合いを重ね、「大人のための山で使える刃物の使い方講座!肥後守(小刀)でヒノキの枝からバターナイフを作ろう♪」という企画が出来上がりました。
お試し地域づくり活動
ローカリストアカデミーでは「佐賀の山をデザインし、次世代につなげること」をテーマに、山で楽しく遊ぶ経験をいろんな人に持ってもらうにはどうしたらいいかを話し合いました。
「次世代となる子どもたちに豊かな佐賀の山を残していくには、まず山で遊べる大人を増やさないといけない」という意見から、対象をパパに設定。子どもたちと実際に山に入って遊ぶときに「パパかっこいい!」と言われるような内容の講座を開こう、と話がまとまっていきました。
実際にローカリストアカデミーで出た意見をご紹介します。
- チェンソーで丸太ストーブをつくる
- スモーク(燻製)
- 秘密基地&隠れ家制作
- 箸、コップ、皿をつくる
- 山菜、きのこ狩り
- ツリーハウス
- 石窯ピザ
案が出るたびに「面白そう!」「やってみたい!」と声が上がり、終始にぎやかに話が進みました。
たくさんのアイデアが出た中で「肥後守」の扱いを学ぶ企画になったのは、バターナイフの制作はどんな木の枝でも作れること、企画が終わったあとも親子で山に入り子どもが気に入った枝をナイフにするという活動のその先が見えることが決め手でした。
活動の様子
お試し地域づくり活動は、北山少年自然の家で開催。SNSで参加者の募集を開始してすぐに定員10名を超え、飛び入り参加する人や県外からの参加者も見られ最終的に参加者15名のワークショップとなりました。
用意された枝の中から真剣なまなざしでお気に入りを探すネクストローカリスト。
講師の市丸道夫先生(佐賀県親林交流指導員)から肥後守の扱い方を教わります。
枝をちょうどいい長さにカットした後、肥後守で削っていきます。最初は慣れない手つきでおっかなびっくりだったネクストローカリストをはじめとした参加者も時間が経つにつれて肩の力を抜いて作業できるようになりました。
無心になって作業する参加者たち。それぞれ思い思いの形に枝を削っていきます。
バターナイフの形が整ったら紙やすりで表面を滑らかにしていきます。最後の仕上げはクルミのオイルでコーティング。
肥後守の切れ味を取り戻すために砥石を使って研いでいきます。ただ滑らせるだけでなく、コツがいる様子......。
ワークショップ全体を通じて、山を楽しむきっかけを参加者たちはつかんでいきます。
ワークショップが終わった後はみんなで机を囲み、今回の企画の趣旨や感想などお弁当を食べながら話に花を咲かせました。
お弁当に加えて門脇さんが用意していたのはクリームチーズとビスケットに日本ミツバチのはちみつ。つくったバターナイフを実際に使って山を楽しむおやつタイムとなりました。
ネクストローカリストの声
お試し地域づくり活動「佐賀の山で遊ぼう!」に参加したネクストローカリストに活動の感想や今後やってみたいことについて聞いてみました。
- 賀村航大さん(佐賀市在住)
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ボーイスカウトの指導者として野外活動や集団活動のなかで地域奉仕や他者とのかかわり方を教えている経験もあって門脇さんの林業女子会@さがの活動と少し結びつきがあるなと思っていました。今日は参加できてとても楽しかったです。
山を次の世代にどう引き継いでいくかという話をしていた時に、山で遊んだ経験を持つ者として、門脇さんとは少しだけ違う立場からですがいろんな話ができたと思います。
今日のワークショップでも感じましたが、「遊ぶような感覚」で活動をすることが門脇さんの上手なところですよね。そのほうが長続きするし、一緒に活動してくれる仲間も増える。真似していきたいなあと思います。
- 中野アズサさん(三養基町在住)
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実家に山を持っていて幼いころ野山を駆け回った経験があり、自分の無理のない範囲で自然に触れる暮らしが好きでローカリストアカデミーでは門脇さんの活動に興味を持ちました。
バターナイフ作りの体験は、先生にも丁寧に教えていただいて安心してつくることができました。手先はそんなに器用じゃないんですけど無理なくちゃんと最後まで仕上げられたので良かったです。
今も時々実家の山の手入れを手伝ったりしていますが、門脇さんがされているような、山を生活の一部に取り込んで自然を身近に感じる生活がしたいなと思っています。
今日も林業に興味がある人やブッシュクラフトを趣味にしている人などいろいろな人がいましたが、たくさんの人が集まってつながりが広がっていくのがすごくいいなと感じました。
- 江口昌紀さん(神埼市在住)
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活動の内容が楽しそうで気軽な気持ちで参加しました。普段こういったワークショップやアクティビティなどに参加することがあまりなかったので新鮮な体験で、思ってた以上に楽しむことができました。
普段はIT関係の仕事をしていますが、ローカリストの方々の活動を聞いたり体験して、自分たちが地域に住み、仕事をし、生活をしていくことにちょっとした楽しさをプラスすることも地域づくりなんだなと感じました。「自分たちが住んでいるところだから面白くしていきたい」という想いがその地域を巻き込んでいけたらいいですね。
終わりに
門脇さんにネクストローカリストへのアドバイスを聞くと、「大人が本気で遊ぶのがおもしろい、やらなきゃと思ってやるのは苦しい」という本気で山で遊ぶ門脇さんらしい言葉が返ってきました。「大人が本気で楽しんでいるのを見た次世代の子供たちがなんか楽しそうだなと思ってくれたら次につながっていくから、大人は本気で楽しそうに遊びましょうよ」と笑顔で話していただきました。
「地域づくり」とは言うけれど、地域をつくろうと思ってやっているわけではなく、ただ自分の住んでいる市町に愛着を持ち、生活をより良くより楽しくするために工夫していく。あまり気負いすぎる必要はなく、やりたいことをやりたいようにやっていった先の副産物が「地域づくり」となっているのかもしれません。
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EDITORS SAGA編集部 中島ちひろ