佐賀県では2022年から一般社団法人ジャパン・コスメティックセンター(以下、JCC)が中心となり、経済的に困っているご家庭へ無償でコスメを届ける活動を展開してきました。その後、今年2月からこの取り組みをさらに発展させ、持続可能なものにするため「佐賀県コスメギフト」プロジェクトが始動し、このプロジェクトの中で「佐賀コスメギフト基金」が創設されました。
コスメを届ける活動は、どのようにして持続可能な取組にしていくの?そのために創設された基金の役割は?
今回は「佐賀コスメギフト基金」を活用した現場を訪ね、このプロジェクトに参加する皆さんにとって「佐賀コスメギフト基金」がどのような役割を担い、持続可能な取組につながっていくのか潜入してきました。
「女性と地球をスマイルに」をスローガンに、一般社団法人バンクフォースマイルズが2021年11月に東京で発足したプロジェクト。経済的な理由など、様々な事情で化粧品を手にできない女性と、コスメ企業の廃棄するはずだった化粧品をマッチングし、年に2回無償で届けている。
ボランティアだけでは活動継続が困難にー 基金創設の背景
これまでJCCが中心となって展開してきた活動では、JCCや佐賀女子短期大学の学生ボランティアなどが梱包作業を担い、支援団体を通じて経済的に困っているご家庭やひとり親家庭などにコスメを届けてきました。しかし、活動を重ねるごとにギフトを受け取るご家庭のニーズが拡大し、コスメを運び入れる場所の確保や梱包作業をボランティアだけで担うのが難しくなってきたそうです。
このような背景から、一時的なボランティア活動ではなく、持続可能な仕組みを作れないか検討を行い、その解決策として「佐賀コスメギフト基金」が創設されました。
佐賀県の挑戦ー誰もが幸せに、ボランティアを持続可能な活動へ
訪れたのは、今回、コスメギフトの梱包・発送の作業を担当する小城市の就労継続支援事業所「ユニーズ」です。
ボランティアだけでは継続していくことが難しくなりつつある梱包・発送作業を「佐賀県コスメギフト」プロジェクトでは、B型就労支援事業所に委託するという新たな取組を行うことにしたそうです。今回は実証事業のため、梱包作業の人件費や化粧品の配送費用は県の予算が使われましたが、この活動を継続していくために「佐賀コスメギフト基金」が創設され、今後はこの基金に集まった寄付金を活用して梱包・発送作業を持続可能な活動となることが期待されています。
基金に集まった寄付金は、他にも、コスメに関するセミナーの開催やコスメの使い方講座などに使われることも検討されるそうです。基金の創設は、ボランティアの善意だけでは限界がある活動を、確かな仕組みとして継続させるための重要な役割を担っています。
新たな雇用機会を生み出す全国初の取り組み
「佐賀県コスメギフト」プロジェクトの特徴的な点は、就労継続支援事業所と連携して取り組む仕組みを採用したこと。これは全国でも初めての試みとなります。
ユニーズはB型の就労継続支援事業所で、雇用契約を結んで働くことが困難な障がい者などの皆さんに対して、軽作業などの働く機会を提供し、工賃を支払っています。B型の事業所は流れ作業や単純作業を得意としていますが、B型の事業所に作業を委託できることはあまり知られておらず、お仕事を見つけるのに苦労しているという現実もあります。
施設の利用者たちは職員と分担しながら、ギフトとして贈るコスメセットを着々と作っていました。単純作業とはいえ、数を一つでも間違えてはいけない作業です。数を確認しながら丁寧に進めていきます。
出来上がったギフトは、子ども宅食応援団や佐賀県社会福祉協議会など21の支援団体を通して経済的に困られているご家庭に届けられます。段ボールには、支援団体の名前とギフトセットの数が記され、丁寧に仕分けされていました。今シーズンはおよそ1000セットが届けられる予定です。
「仕事が決まった時はめっちゃ嬉しかった」ー 就労支援施設の声
ユニーズの管理者である東島周子さんは、「不景気の影響で、仕事が見つけにくい状況」と話していました。
今回の仕事は佐賀県共同受注支援窓口で知ったといい、仕事が決まった時は「利用者に工賃を支払うことができて、とても嬉しかった」と振り返ります。「今回の仕事でこちらもすごく助かりました」と笑顔で話していました。
また、佐賀県の担当者の方にも話をお聞きしましたが、「仕事が早いだけでなく、数も正確でとても丁寧な仕事ぶりに驚かされました、基金を募ることで次回以降も佐賀県共同受注支援窓口を通じて作業をお願いしたい」と実行事業の成果を話されていました。
この取り組みは、支援を必要とするご家庭にコスメを届けるだけでなく、地域に新たな雇用機会を生み出すという点でも大きな意義があります。
「親子のコミュニケーションツールにもなっている」ー 支援を受けた家庭の声
「佐賀県コスメギフト」プロジェクトのプロジェクトリーダーであるJCCの藤岡継美事務局長は「コスメが届けられることで、前向きな気持ちや自信に繋がる」と、この活動の意義を語っていました。
これまでボランティアで過去4回コスメを配布した中で、いろんな喜びの声を聞いてきたという藤岡さん。「父子家庭では『娘に何をしたら喜ぶか分からなかったのに、コスメギフトを渡すとすごい喜んでくれた』という声や、別の家庭では『お母さん今日ちょっと違う』と子供に声をかけてもらえたとか、届いたコスメが親子のコミュニケーションツールにもなっている」とコスメギフトを受け取ったご家庭の喜びの声を教えてくれました。
また、コスメギフトは春夏と秋冬の季節に合わせて配布するコスメの中身も変わるため「乾燥しやすい時期に必要だったので助かった」、「子供にカイロを買ってあげられなかったので助かった」などという切実な声も寄せられていたそうです。
藤岡さんは、「佐賀コスメギフト基金」の創設で持続可能になった「佐賀県コスメギフト」プロジェクトが今以上に広がっていくことで、「経済的に困っている学生や、まだ社会福祉協議会などの支援団体とつながっていない方々がコスメギフトを通じて支援団体ともつながっていき、コスメの力で1人でも多くの笑顔を増やして行ければ嬉しい。」と意気込みを語っていました。
まとめ ー 基金で支援の輪を広げる
佐賀県ならではの仕組みで生まれた「佐賀県コスメギフト」プロジェクト。就労支援施設との連携により地域に新たな雇用を生み、こども宅食や社会福祉協議会、ひとり親家庭の支援代などを通じて配布を行うことで、支援をする方々と支援を必要とする方々の接点を作る、関わる全ての人のプラスとなる活動であることがわかりました。
ニーズが拡大する中でボランティアだけで続けるのは難しい。そこで県の予算で実証的に始まったB型就労支援事業所への委託作業を、今後も継続的に実施していくために創設されたのが「佐賀コスメギフト基金」です。この基金によって、一時的な取り組みではなく、持続可能な支援の仕組みとして定着させることが可能になります。
今後、この基金を通じて、就労継続支援事業所への人件費や配送費用、長期的な支援体制の構築などが支えられていきます。寄付という形で参加することで、あなたもこの取り組みを支える一員になることができます。
持続可能な活動となることで、より多くの人にコスメで笑顔を届けられる未来を一緒に作っていきませんか。
文章・撮影:牟田友佳
画像提供:佐賀県
編集:EDITORS SAGA編集部