お茶を持って自転車で旅に出よう。
おしゃれなボトルに入った水出しのうれしの茶を持ってレンタサイクルで、嬉野の街をサイクリング。温泉街を抜けて山間の茶畑までたどり着いたら、うまみが溶け出したお茶で喉を潤す。
この観光客へ向けたレンタサイクルとお茶の体験「茶輪」は、多彩なうれしの茶の愉しみ方を提案する「Tea Tourism」のプログラムのひとつです。
嬉野には、嬉野温泉・うれしの茶・肥前吉田焼、三つの歴史的伝統文化が共存しています。うれしの茶は、1440年に中国大陸から移住した唐人が栽培を始めたと伝わり、茶葉は丸みを帯びた形状が特徴。そのため、急須のなかで少しずつ開きながらゆっくりとうまみを抽出していくので、深い味わいを感じられると、お茶好きから評判です。
Tea Tourismには、嬉野で育った一杯のお茶を通じて、宿泊体験や茶空間体験ができるプログラムが多数用意されています。
いろんな人の協力で、茶輪は生まれた。
「茶輪」を提供しているのは、嬉野市の「シモムラサイクルズ」。商店街にお店を構えるシモムラサイクルズを訪れると、店主の下村宗史さんが明るく出迎えてくれます。
「私は、嬉野市外の出身なんです。サラリーマン時代に嬉野を訪れて、地域に触れるたびに、その魅力に引き込まれていきました」。観光客に愛される温泉街や景色のよい茶畑、商店街の魅力ある店主たちに魅了され、サイクリングショップをオープンさせたと言う下村さん。あらゆるタイミングが重なって、出店に至りました。
シモムラサイクルズの店内に並ぶ自転車は、本格的なロードバイクから地元の人たちが通学や買い物に使う手軽なものまでさまざま。そして、茶輪のサービス。嬉野に惚れ込み、自転車を愛する下村さんだからできることです。
「開店してからずっと、地域と一緒になって何かできないかな?と考えていました。そんなときに、嬉野市からTea Tourismに関わるお誘いを受けて、自分の仕事とこの地域の資源であるお茶を掛け合わせた茶輪がいろんな人の協力によって生まれたんです」と下村さんは話します。
また、それまでお茶の生産者が中心になって進んできたTea Tourism。しかし、茶輪に中心となって関わるのは、お茶を仕入れ、加工や製茶などし、販売する「茶商」と呼ばれるお茶屋さんたちです。
「いろんな生産者のお茶を扱う茶商さんたちが関わることで、お茶への客観的な目線が加わりました。そうすることで、Tea Tourismの輪が広がり、お茶への関わり方がより一層多様になったと思います。利用者にとっても喜ばしいことですよね」と下村さんは嬉しそうに話します。
伝統を、時代に合わせてアップデートしていく。
茶商とのタッグでスタートした茶輪。参加しているお茶屋さんは全部で13店舗。
茶輪の利用者は、お茶屋さんごとに味わいの異なるお茶を選び、思い思いのコースで、嬉野の街をサイクリングし、おいしいお茶で喉を潤します。お茶がなくなったら、おかわりができる街なかの「茶葉ステーション」へ。
おかわりをするだけでなく、茶商とお茶の話に花を咲かせ、交流を深め、新たなお茶の嗜みを体験できるそうです。
「温泉もお茶も焼き物も歴史あるものです。その愉しみ方をアップデートしていく感覚ですかね。現代の人たち用にカスタマイズさせたり、いろんなものとかけ合わせたり。そうして多くの注目を集めて、地域が潤っていくといいですね」。
コロナ禍では観光客が減ったと言いますが、ピンチはチャンス。次なる仕掛けを考えていると言います。これからは、茶輪目的で嬉野の街を訪れる人を増やすのが目標。
「嬉野はコンパクトな街です。風情ある温泉街も自然が豊かな茶畑もあり、いろんな表情をみせてくれます。車移動では見落としてしまうような景色や音やにおいも、自転車でなら見つけることができるかも知れませんね」と語る下村さん。嬉野の歴史ある資源、お茶を中心に愉しみの輪が広がっています。
文章:岡 優一
写真:浦郷 慧人
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