【No Anko No Life vol.2】どら焼/小嶋や

【No Anko No Life vol.2】どら焼/小嶋や

伊万里方面に行った際に立ち寄らせていただくお店がある。
「小嶋や」というお店をご存知だろうか。
伊万里の市街地から車で十数分かかるような場所で、しかも大きな通りに面しておらず、前から対向車が来るとヒヤヒヤしそうな細い路地を通って行かないとたどり着けないお店だ。

看板商品は「どら焼」なのだが、このどら焼が美味しい!
どら焼に使われるあんこもちょうどいい甘さで美味しいと思うが、私が特筆したいのは「どら焼の皮」。見た目、普通のどら焼なのだが、一口目をかじった時の食感が「これこれっ!」ってなる
それもそのはず。朝採れの新鮮な卵や佐賀県産の小麦など、こだわりの材料を使用し、1枚1枚人の手で丁寧に焼くのだという。しっとりしたあんこも3日かけて丁寧に炊かれており、その手間暇がどら焼きの美味しさを作っているのだと思う。

今夏の伊万里と、どら焼と、私

今年の8月。
立て続けで伊万里に行く機会があった。
1回目は、珍しく何も予定がない日曜日に、とりあえず伊万里に行って、無計画に気になるお店をハシゴして回った。4軒目のお店でジェラートを食べている時に、すでに夕方になっているのに気づき、「小嶋や」まで行く時間がなくなってしまった。しかし、その時はラッキーで、ちょうど行くのを断念したお店に「小嶋や」のどら焼きを売っていたので、それを買って事なきを得た。

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2回目は、その翌週くらいに、受講したいセミナーが伊万里であり、受講し終わった後、迷わず「小嶋や」へ。スマホのGoogleMapが的確に道案内してくれる。

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店舗はふつうの民家を改装した感じ。
入り口のドアを開けると、決して広くない民家の玄関。そこから屋内に上がる段差のところにカウンターが設置されていて、その上にお目当の「どら焼」が並んでいる。

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ご主人とのあんこ談義

お目当のどら焼を購入していると、店頭にご主人が。
私は初対面だったのだが、あんこ屋をやっている私のことを知っている奥さんが、わざわざご主人を店頭に呼んだのだろう。そんなご主人とどら焼の話に。

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「なぜ、どら焼なんですか?」

数ある食べ物の中で、なぜ「どら焼」を作ろうと思ったのかが気になっていた。

現在69歳のご主人 小島安博さんは、今から6年くらい前、その当時読んだ小説「あん」(ドリアン助川著)に刺激を受け、「会社経営を辞めたら、どら焼屋をやる!」と周囲の人に宣言していたのだという。 そんなご主人の想いとは裏腹に、その当時リーマンショックによる景気の悪化でなかなか会社を辞められなかった。

晴れて正式に退職した頃には、「どら焼屋をやる!」と宣言していたことを忘れ、仕事から解放された自由な時間をただなんとなく過ごすこととなる。

しかし、その自由がご主人には物足りなかった。
そこでやっと「あん」を思い出し、どら焼の試作を始めるのであった。

「最初に作ったどら焼はひどかった」

と苦笑いをしながら当時のことを振り返るご主人。今の美味しいどら焼にたどり着くまで、誰に教わることなく、小説「あん」を読みながらとにかく何度も何度も試作を重ねたそうだ。

「最初のころは知人に無理強いして試食してもらっていたが、ある時を境に『美味しい』と評価いただけるようになった

とのこと。その時の好評はかなり嬉しかったのだろう。当時を語る満面の笑みに当時の喜びが溢れ出ていた。

「あん」とは...

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<参考>映画「あん」ホームページ http://an-movie.com

下町の小さな「どら焼屋」を舞台にしたお話。主人公は千太郎という店主と、そこに雇われる徳江。徳江は和菓子を作るのが上手な女性なのだが、彼女を取り巻く理不尽な境遇や環境を知った千太郎の揺れる心理や行動を描いたお話。
この小説は、千太郎役に永瀬正敏、徳江役に樹木希林、監督に河瀬直美という布陣で2015年に映画化もされ、樹木希林さんの没後も「最後の主演作」として脚光を浴びている。
ストーリーも良いのだが、映画の中に出てくるあんこをつくるシーンが秀逸!本当に美味しそうに製造過程のあんこが撮られている。

実は、私も「あん」に影響を受けた一人。

今から4年ほど前に小説で「あん」を読んだ。その頃は、映画「あん」の全国公開が終わってしまったタイミング。しかし、渋谷の単館の映画館で「あん」が上映されていた最終日に、たまたま東京出張の予定が入り、奇跡的に大きなスクリーンで見ることができたのだ。そして、そこで購入した映画のパンフレットに「徳江のあんこ」のレシピが載っている。私があんこ屋を始める時に、何パターンもあんこ作りの試作をしたのだが、このレシピはかなり参考にさせていただいた。

そんな妙な共通点に、「小嶋や」との不思議な縁を感じた

どら焼の他にも

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いつも購入するどら焼の姉妹品である「きび砂糖」を使ったどら焼。きび砂糖を使うことで、砂糖の使用量を抑えた一品。食べ比べたが、甘さはほとんど変わらない。通常のどら焼が黒いラベルなのに対し、きび砂糖を使ったものは紫のラベル

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そして、今夏新発売の「餡プリン」。かろうじて固まっているくらいトロトロなプリンをスプーンですくうと、プリンの下からどら焼にも使用されているあんこが顔を出す。「カラメルの代わりにあんこを使ったらどうだろう」というシンプルなアイディアが具現化された商品。

どら焼きなどのあんこを使った商品以外にも、パプリカを使ったドレッシングや、梅干し、蜂蜜、みかんジュースなどの商品も購入できる。これらのこだわりもかなりのものだが、この場は「あんこ」に関するお話だけにとどめておく。

取材の後に、ご主人から「一緒に飲みに行きましょう」との嬉しいお言葉をいただいた。
誠に光栄なお話である。
伊万里を訪問する楽しみが一つ増えた。

店舗情報

店舗名 小嶋や
営業時間 9:00~17:00
店休日 年中無休
住所 佐賀県伊万里市山代町楠久549-2
電話番号 0955-22-6711
公式サイト https://imari-kojimaya.business.site
公式オンラインショップ https://imari-kojimaya.shop-pro.jp
Facebook https://www.facebook.com/imari.kojimaya/
地図

よなよなあん工房 店主

岡垣貴憲

「あんこ」の美味しさを全世界の人々に知っていただくために、昼間会社勤めをしながら、夜中にあんこを使ったスイーツ専門の飲食店「よなよ...

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