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【佐賀のいいモノ】なぜこの形?佐賀市蓮池町に伝わる不思議な正月飾り - MONO SAGA #4

2025年を締めくくる今回の記事では、佐賀市蓮池町で今も受け継がれている、他にはない少し変わった正月飾りに注目してみました。

その正月飾りとは、380年以上の歴史をもつ「鼓(つづみ)の胴松飾り」

そもそも、この飾りはどのように生まれ、なぜこの形になったのか──。
その背景や製作の様子を追いながら、「鼓の胴松飾り」が持つ魅力をご紹介します!

今回見つけた"佐賀のいいモノ"はコレ!

佐賀市蓮池町に根づく、手づくりの正月飾り。

全国でも珍しい、ころんとした形が目を引きます。

年の瀬に慌ててつくった!?「鼓の胴松飾り」とは?

「鼓の胴松飾り」は、和楽器の"鼓の胴部分"に似た形をしていることから名付けられた、佐賀市に伝わる伝統的な正月飾り。

この独特な形のルーツは、江戸時代にまで遡ります。きっかけは、佐賀藩の初代藩主・鍋島勝茂公。当時「島原の乱」での軍令違反を理由に謹慎処分を受けていましたが、年の瀬になって突然その処分が解かれることに。

これには江戸の佐賀藩邸も大慌て。「お祝いの正月飾りを準備する時間がない!」という状況の中、納屋にあった米俵などの藁を使って、大急ぎでつくり上げたのがこの松飾りの始まりだと伝えられています。

当時は松と一緒に飾られていたことから、しめ縄ではなく"松飾り"と呼ばれるようになりました。

この形の美しさは江戸中で評判となり、各地から見物人が集まったのだとか。その後、佐賀藩の支藩であった蓮池藩へ伝わり、現在まで受け継がれています。

保存会で守り続ける、鼓の胴松飾りづくり

製作が行われるのは、稲刈りを終えた11〜12月頃。吐く息が白くなるほど冷え込む朝、作業場となる倉庫からは活気のある声が聞こえてきます。

ここで作業をしているのは、「鼓の胴松飾り保存会」の皆さん。「寒かけん、中に入らんですか〜!」と、あたたかく声をかけてくださいました。

早朝から皆さん元気に作業されています

2006年に発足した保存会は、この地域に伝わる鼓の胴松飾りを、今も大切に守り続けています。

「年末になると蓮池町を中心としたメンバーが、こうして集まって松飾りづくりを行っています。嬉しいことに昨年と今年は、一人ずつ若手の新メンバーも加わってくれました!」 そう元気に教えてくれたのは、会長の園田久利さん。

早速、作業の様子を見せてもらいました。

鼓の胴松飾り保存会 三代目会長の園田久利さん

まずは材料となる藁の選別から。少し青みのあるしっかりとした藁を残し、扱いやすいよう整えていきます。

藁を選別する作業は朝から夕方まで続きます

「毎年かなりの量を使うので、ここが一番手のかかる大変な作業なんです」と園田会長。ここを丁寧に行うかどうかで、仕上がりがまったく違ってくるのだそうです。

藁だけで編み上げる工程は、まさに職人技!

藁の準備が整うと、胴体づくりがスタート。
ここからは、会長の弟である園田利光さんに、実演してもらいながら話を伺いました。

数本の藁を束にして、手と足を器用に使いながら編んでいきます。手際よく編み進めていく姿は、まさに職人技。気づけばあっという間に、反物のような形になりました。

真っ直ぐだった藁が糸のように編み込まれ、一枚の布のような形に

これをくるくるっと巻いて、中央を紐で縛れば、胴体の土台が完成です。

中央をキュッと縛れば鼓の形になります

華麗な手さばきを見せてくれた利光さんは、「昔は畳屋だったけん、藁を触るのは小さい頃から慣れとるとですよ」とにっこり笑顔で教えてくれました。

興味津々で質問攻めにしてしまう私にも、丁寧に教えてくださいました!

知恵と工夫がつまった、伝統のつくり方

続いては、鼓の外側を仕上げる工程。ここで利光さんから、松飾りづくりの工夫を教わりました。
「さっきの中身の藁と、この外側の藁。これ、実は別物なんですよ」
使われているのは、同じ"藁"でも性質の異なる2種類。

  • 中身: やわらかくて編みやすい「もち米」の藁
  • 外側: まっすぐで形がピシッと決まる「うるち米」の藁

性質を見極め、工程ごとに使い分ける。300年前から続く知恵とこだわりに、思わず「へぇ〜!」と声が漏れてしまいました。

もち米の藁でできた土台に、うるち米の藁を巻いていきます

きれいに並べたうるち米の藁の上に土台を載せ、紐で一気に巻き上げます。ギュッと力を込めて中央を縛った瞬間、パッと花が咲いたように藁が広がりました。

花が咲くように藁が広がる様子は、まさに一瞬の出来事!

実はここが一番の難所で、ベテランの方でもしばしば失敗してしまうほど、絶妙な力加減が必要なのだそう。最後に、橙(だいだい)や松、南天などの縁起物を飾れば、鼓の胴松飾りの完成です!

じゃーーん!立派な松飾りが出来上がりました

年に一度、力を合わせてつくる"大きな松飾り"

保存会の皆さんは、地域に飾られる松飾りだけでなく、毎年「佐賀城本丸歴史館」に飾られる特大サイズの松飾りの製作も手がけています

その大きさは、幅120cm、重さ50kgという大迫力!
数日をかけて製作されるこの松飾りは、かつて江戸の佐賀藩邸を彩った姿を再現した、まさにシンボル的な存在です。

この大きさなので設置は大掛かり

「せーの!」と声を掛け合いながら、力を合わせて設置していきます。厳かな佐賀城の入口にどっしりと鎮座するその姿は、蓮池町の誇りでもあるのだそう。

「これを見て、皆さんの気持ちが豊かになれば」
園田会長のそのからは、伝統を守るあたたかな想いを感じました。

設置が完了すると、皆さん安堵と喜びの様子

さらに活動は広がり、地元の子どもたちへの伝承教室や一般向けの販売会も行っています。年々、松飾りを買い求める人は増えており、今年はなんと販売開始から20分で完売するほどの人気ぶり。300年前から続くデザインが、現代の暮らしの中でも愛され続けているようです。

古民家にも、現代の暮らしにも。飾りたくなるかわいらしさ

保存会の皆さんにつくっていただいた松飾りを、佐賀市柳町の古民家カフェ「こねくり家」に飾らせてもらいました。

大正時代に建てられた建物の、落ち着いた佇まいにもすっと馴染んでいます。手仕事ならではのやさしい質感からは、保存会の皆さんが一編ずつ込めたあたたかさが、じわじわと伝わってきました。

「これ、珍しいですね!」なんて、訪れるお客さんとの会話も弾みそう!

この松飾りは、お正月明けの営業まで飾られているので、ぜひ実物を見に訪れてみてくださいね。

形とともに、想いも受け継いでいく

取材中、印象的だったのが松飾りづくりに使われる道具たちです。
畳用の大きな針や、年季の入った裁ちばさみ、さらに自分たちで手づくりしたという専用の道具まで。「身近なもので急いでつくった」という江戸時代の始まりを感じさせる当時の風景が、300年の時を超えてそのまま残っていることに、驚きと感動を覚えました。

そして、今この伝統を支えているのは、60代〜80代が中心の保存会の皆さん。現場からは「若い世代にも携わってもらえれば」という声も聞こえてきました。その土地にしかない文化や、人の手で守られてきた風景を、きちんと次の世代へつないでいく。その大切さを改めて実感する取材となりました。

佐賀には、まだまだ知られていない"いいモノ"と、それを守る人たちの想いがあります。
これからも、そんな出会いを探しながら、編集部の目線で伝えていきたいと思います!

問い合わせ先 蓮池公民館
電話番号 0952-97-0070
場所 佐賀県佐賀市蓮池町蓮池6-49

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EDITORS SAGA編集部 中島

佐賀のいいモノ

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