私たちが暮らす地域。その魅力は、文化や歴史、産業だけでなく、そこでの暮らしを楽しむ人々の想いによって作り出されています。佐賀県には、自分の"やりたい"ことを追い求め、人々を巻き込みながら、地域の魅力を高めている人達がいることを知っていますか?
そのような地域で暮らす人々を「ローカリスト」と呼び、連載【SAGAローカリスト】でお知らせしてきました。
2019年10月に県西部地区のローカリストが集まり、参加者と共に地域づくりについて考える「ローカリストアカデミー」(嬉野会場)を開催。
ローカリストとネクストローカリストたち(アカデミーの参加者たち)がアイディアを出し合い、地域づくりの第一歩を踏み出す活動「お試し地域づくり」を考え実際に"やってみる"ことに......
ローカリストによって地域の課題や活動の目的は様々。地域づくりに興味を持つネクストローカリストたちとローカリストの交流から生まれた佐賀県各地で広がる地域活動をお届けします。
「DIT Workshop vol.1 打つ/BAR 一日店長」
今回のお試し地域づくり活動の舞台は有田町。
主催ローカリストは「NPO法人灯す屋」代表の佐々木元康さんです。
ローカリストアカデミーで企画したイベントを2部構成に分け実施されました。
第1部は『DIT Workshop vol.1 打つ』
来春オープンする、『ARITA STARTUP HOUSE』のリノベーション作業をネクストローカリストたちと行いました。
『ARITA STARTUP HOUSE』とは、有田町内の空き家を改修して有田に暮らしはじめる移住者が住むことができる場所を作ろうという取り組み。
イベントのタイトルにあるDIT(= Do It Together)には、この家が、みんなが大好きな場所になっていくようにみんなでつくるという意味が込められています。
第1弾は、「打つ」がテーマ。
金づちやタッカーを使い家の壁を作っていきました。
第2部は『BAR 一日店長』
ゲストが一日限りの店長となり、バーカウンターに立つ本企画。
今回のゲストは、ARITA STARTUP HOUSEに最初に住む予定の建築家の富田文彦さん・紗貴さんご夫妻。
東京出身、ドイツ・フランクフルト在住だった彼らが有田へ移住した理由を聞きました。
参加者が持ってきた一品を肴にお酒を飲みながら、参加者とゲストが語り合うひととき。
彼らが見る有田とは?佐賀とは?そして、日本とは?について考える時間です。
お試し地域づくり活動
ローカリストアカデミーではお試し地域づくり活動を開催するにあたり、活動の課題点と解決方法について話し合われていました。
1:STARTUP HOUSEを発展持続させていくための画期的なアイデアを生みたい
- 色々なパターンでガレージDIT(リノベーション)のワークショップを行う
- 地域の面白い人を呼びトークイベントをする
- 福岡までわざわざ行かないでいい学びの場を作りたい
2:移住者、まちの人々が交流し続けられる場所にする
- 作ってから人を集めるのではなく、作っているときから人が集まる場所にしたい
- 地元の人達にスポットを当てる
佐々木さんが目指すのは『このまちに暮らす人びとと共に、豊かな未来をつくる』こと。
中でも有田で増えつつある空き家を、まちおこしのツールの一つだと考えている佐々木さん。
空き家の活用と有田で新しいチャレンジを始める人々を応援するなかで、ローカリストアカデミーでは有田にやってきた建築家の富田さんにスポットを当てたお試し地域づくり活動が行われました。
活動の様子
第1部:DIT Workshop vol.1 打つ
DITの作業を行っていくのは、これからスタートアップハウスを利用する移住者が実際に居住予定の建物2階部分。
壁や天井が全て剥がれた状態で、参加者をお出迎えです。
ところどころ、古い扉やシャンデリア、壁にかけられたジグソーパズルに以前住んでいた人の面影を感じます。
はじめに参加者の自己紹介と、富田さん・灯す屋のスタッフから作業内容の説明の後2班に分かれ、それぞれの担当箇所の作業に移っていきました。
早速壁に板を打ち付けていこう!......と思いきや、まずは断熱材を貼るところから。
これには参加者一同驚きの表情を浮かべていました。
30年以上前に建てられたスタートアップハウスになるこちらの建物。
現在の建築物とは勝手も大きく異なり、使用する断熱材の幅規格と柱の幅が合わないため断熱材のサイズ調整も必要という「本気のリノベーション」が始まりました。
ネクストローカリストたちもそれぞれの班の中で役割分担をして、作業に没頭していました。
参加者の中には、DIYの経験者も。
互いに教え合いながら手際よく作業は進み、当初の予定に加えて天井の断熱材貼りも行われました。
出入り自由の今回のイベント。
参加者が入れ替わったり、途中お昼休憩やおやつのもぐもぐタイムを挟んだりしながら、無事に作業が終了しました。
日中も気温が上がらず冷え込んだこの日。振る舞われたアツアツのおでんをみんなで囲みました。
休憩時間だけでなく作業中にも参加者やネクストローカリストたちの交流が行われ、それぞれの目標や夢を語り合っている姿も印象的でした。
第2部:BAR 一日店長
夜も更け、乾杯から始まった第2部。
ネクストローカリストに加え、有田に住む方々も多数参加しました。
自己紹介と自分が持ってきたおススメの逸品を一人ずつ紹介。
富田さんが作ったこだわりのカレーを食べながら親睦を深めました。
最後は、富田さんに東京・ドイツでの建築家としての実績を元に「なぜ、有田に移住したのか?」についてお話を伺います。
富田さんの今までの仕事は、何千人もプロジェクトにかかわる大きなものばかり。やりがいはあるけれど、虚しくなることもあったという富田さん。ある日、奥様が育った有田にきて、直に人と深く関われるところ感銘を受けたといいます。
本来、住宅を設計したいと思っていた富田さんは、原点に立ち返ろうと有田移住を決意されました。
「この町で自分が学んできたテイストを加え、有田の人と一緒に今までとは違う有田をつくっていきたい」という言葉に涙する参加者も。
普段は、都会に行かなければ学べないような貴重な話を聞くことができ、このスタートアップハウスの先駆けとして有意義な時間となりました。
ネクストローカリストの声
今回は、第1部に参加したネクストローカリストの2名に参加しての感想を聞いてみました。
諸岡佑亮さん(鹿島市)[1部、2部参加]
- 諸岡さん
-
まさか断熱材を入れるところからやるとは思っていませんでした!
壁の釘打ちからのDIYワークショップはよくありますが、今回貴重な体験ができました。
以前から、空き家や休耕田など、使われなくなったものをつないで人が集まる場を作る活動を地域でやってみたいと思っていたので、いい学びとなりました。
お試し地域づくり活動にはこれが2回目の参加の諸岡さん。
横尾仁美さん(佐賀市)[1部のみ参加]
- 横尾さん
-
ローカリストアカデミーで企画したイベントが実際形になって参加できたことにとても意義を感じました。
企画で終わらず、実際体を動かすことがとても良い経験になりました。
教育関係の仕事をしていて、若い子たちが学校でやっていることを地域で実践できるように動いていきたいと思っています。
学校でやっている勉強が無駄ではない、ということを身をもって経験してもらえたらいいなと思います。
ローカリストは地域の翻訳家だ、と表現した横尾さん。
自身も佐賀市内で実際に住む場所をリノベーションしている最中だそうです。
石川大二朗さん(有田町)[2部のみ参加]
- 石川さん
-
私は、有田で佐賀ダンボール商会という会社を運営しています。長年、有田焼きと共に歩んできた会社です。幼少期から有田に住み、地域で暮らす者として興味があり、今回ローカリストアカデミーに参加しました。
アカデミーで企画したイベントに参加でき、よかったです。
また、一日BARのみの参加となりましたが、外からの人の話を聞いて勉強したり、町の人たちと「何か一緒にできることはないか?」と意見を交わしたりできる場は地域にとっていいなと思いました。
今日体験したように、こういった発信の場で町の人たちと色々なことを話していきたいです。まずは、自分がいるフィールドの中で自分ができることをやり、それが結果的に有田を盛り上げられたらいいなと思います。
終わりに
2部構成で行われた佐々木さんのお試し地域づくり活動。
ローカリストアカデミーで企画したお試し地域づくり活動の内容がほとんどそのまま実現しました。
アカデミーにあたり佐々木さんが課題に感じていた『STARTUP HOUSEを発展持続させていくための画期的なアイデアを生みたい』ということがネクストローカリストとの交流によって解決の糸口をつかめたようです。
今はスタートアップハウスを作ってから人を集めるだけでなく、ワークショップなどを通してファンをつくりたいという佐々木さん。活動を楽しんで貰える人に定期的に参加してもらっていくことが次なる目標だそうです。
スタートアップハウスでのDITワークショップは今後、Vol.2と3が開催予定。
気になるテーマは『組む』『貼る』
そしてBARの一日店長も募集中です。
最後に佐々木さんからのメッセージが。
「なにかやりたいことがある人は一度来てほしい」
「移住してきた人が、場所も人もわからない中で何かを始めるのは大変なこと。
だからこそ、住む場所と交流の拠点として、お試し地域づくり活動に参加した人や、興味を持ってくれた人は是非近くに来た時は気軽に立ち寄って欲しい。 来てみて、とりあえず何か一歩動き出すことで必ず何かが変わる、ということを実感してほしい。 そのための後押しをこれからもしていきたいんです」
と話してくれました。
自分一人では難しいことも、仲間が集まればきっと実現できるはず。
そうして地域について考える人の繋がりが広がっていけば、"やりたい"が"できる"に変わる地域になっていくのかもしれません。
[第1部:DIT Workshop vol.1 打つ]
[第2部:BAR 一日店長]
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EDITORS SAGA編集部:廣津みなみ(第1部) 中村美由希(第2部)