北山蕎麦を絶やさず繋ぐ。農家が営む蕎麦屋「木漏れ陽」の歴史と想いに密着。

北山蕎麦を絶やさず繋ぐ。農家が営む蕎麦屋「木漏れ陽」の歴史と想いに密着。

国道263号を北へ進み、野菜直売所「マッちゃん」横の信号を左へ。畑が並ぶのどかな通りを道なりにまっすぐと、富士町エリアに。

佐賀の蕎麦と言えば三瀬も有名ですが、富士町でも、ここならではのブランドといえる"北山蕎麦"が味わえます。美味しさはもちろん、先代から受け継がれた歴史、そして農園で栽培する蕎麦への情熱を感じながら食べてほしい。深堀りしたくなる魅力が詰まった「木漏れ陽」をご紹介します。 

細道を抜けた先、木々を背に佇む平屋。

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「そばの芽料理とそばの店 木漏れ陽」。オープンは11時ですが、平日でも10時過ぎから待機する方も。県内各所、福岡からのお客さんも多く、クチコミでどんどん認知・人気ともに広がったそうです。

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店内はテーブル席と座敷席があり、そよそよと風に揺れる葉と陽の光が覗く窓、壁には著名人のサインも並んでいます。蕎麦をメインにサイドメニューで内容が変わる「檜」(2,300円)、「杉」(1,800円)「若葉」(1,350円)の3種類のコースと、ほかは単品です。

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 「檜」(2,300)1番盛りだくさんのコースで、そば豆腐、そばの芽の和え物、そばの芽のサラダ、そば雑炊、蕎麦、そばの芽のゼリー、そばの芽のジュース...とにかく蕎麦尽くし!調理方法や味付けが違うため食感や風味もまた異なり、飽きの来ない贅沢なラインナップとなっています。

ちなみにそば雑炊に入っているのは"そばの実"。もち麦のようにぷっくり、食べるとプチッとした瞬間を楽しめます。

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一見、少し豆苗と似ているそばの芽。でも食べると青臭さがなく、とっても食べやすい!栄養も豊富です。5月、10月が育てやすく、56日ほどで食べごろに。美味しさも同時期がピークだそうです。

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こちらもおすすめしたいガレット!最初の素直な感想は「蕎麦屋さんでベーコンが出てくるとは...!」

でももっちり、蕎麦の優しい素朴な甘さが伝わる生地を味わうと、「これは蕎麦屋の革命だ...」と頷きたくなります。ナイフで3,4等分にして具材を巻き込みながらパタンと折りたたむと食べやすいです。

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目の前に運ばれてくるお皿には、姿かたちを変えて現れる蕎麦の芽と実たち。こうして余すところなく味わえるのも、蕎麦を知り尽くし、いちから栽培して丁寧に向き合ってきた背景があるから。

木漏れ陽は、三瀬・富士エリアの蕎麦屋で唯一そば畑を所有する「友田農園」が経営するお店なのです。

たくましく芽吹く「友田農園」のそば畑へ。

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花開き、今が見頃だというそばの花を拝みに...そして栽培にかける思いを窺うべく、お店から車で1分ほどの畑にやってきました。上から見ると、ぎっしりと白い花。これがそばの花です。

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畑まで下りて、近くで見てみると可愛らしい小ぶりの花。何も聞かずに見たら、そばの花とは気づかないかも...

「友田農園」はエリアでいうと三瀬・富士、吉野ヶ里町、大和町、小城市三日月町など、県内にいくつかの畑があります。山と平地では土壌や天候の影響も異なるためリスク分散も1つの理由ですが、北山蕎麦を通じて出会った縁が繋がれ、次第に増えていったのだとか。

夏に種蒔き、11月中に収穫へ

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訪れたのは10月初め。ちょうど花開く時期で美しい景色に圧倒されました。基本的に毎年8月半ばに種を蒔き、1ヶ月で最盛期を迎えます。その後、11月中に各所で刈り取って選別、乾燥作業へ。

「この花びらの下にある、小さな膨らみが"そばの実"。植物としてはたくましい種類ですが、蕎麦は水に弱いため、強い雨が降ると蒔き直しをすることも。毎日畑をまわって状態をチェックしています」と語るのは、創業者の孫で畑の管理を担う勢士さん。

お店の歴史を辿りながら、北山蕎麦のはじまりやその価値などを語ってくださいました。

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富士・三瀬エリアの別の畑。道路沿いで上から一面見渡せる

お店のある地域では、昔からお米くらい蕎麦が身近な存在で、その種が大切に受け継がれてきたそうです。当たり前のようにある蕎麦だけれど、だからこそ絶やしてはいけない。そうして北山蕎麦の存続を謳い活動開始したのが創業者の泰彦さんでした。20年ほど前から勢士さんがその意志と受け継ぎ、より精力的に栽培に注力するようになり、それが今に繋がっています。

全て自家栽培で無農薬の蕎麦。栽培を始めた当初と比べると、現在は89倍の生産量になったのだそう。畑でたくましく成長する花やエピソードを聞くとより、しっかりと噛みしめて食べたくなります。

富士町からはじまった北山蕎麦の物語

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平地の栽培では、大和町の名護屋橋下に1町5(約15,000)もの広い畑が。おもしろいのが、この花の根本には菜の花も植えられているんです。

そういえばここ一帯、春は菜の花が咲いているような...実は観賞用のみではなく、6月には菜の花から菜種油を採集し、お店で使用しているというのでまた驚き!
ほかにも食物残渣の堆肥を利用することで循環型のリサイクルも実現するなど、畑の良質な環境づくりにもこだわっているのを感じます。

「環境面での取り組みは大きく公言してはいませんが、畑、そして蕎麦を召し上がるお客さんにとって良いサイクルだと。栽培は大変ですが、美味しく食べてくださるお客さんの姿が活力になっています」とお話してくださいました。

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蕎麦のことになると、情熱的な語りが止まらなくなる勢士さん。花の成長を見守る優しい眼差しの奥には、北山蕎麦の今と未来を見据えた鋭さも垣間見えました。

筆者がお邪魔したのは、開花のピークを迎えた時期。綺麗だなぁと感動しつつも、店舗経営と並行しながらこの状態に辿り着くまでの過程は、計り知れない苦労もあるのだと感じます。

だからこそ、より多くの人に"北山蕎麦"というブランドと、その美味しさを知ってほしい!お店のいちファンとして、強く思います。

店舗名 そばの芽料理とそばの店 木漏れ陽
住所 佐賀県佐賀市富士町上合瀬453-1
営業時間 11:00~17:00
定休日 水曜日
駐車場 あり
公式サイト http://komorebi2002.com/
公式SNS Instagram:@komorebi_soba
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フリーライター

しろいリンゴ

結婚と同時に、生まれ育った福岡市から佐賀市に移住。男児2人の母。記者として勤務した経験と、自宅保育の中で子どもたちと楽しく過ごす日...

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